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【プリズンライターズ】受刑者を骨髄バンクに登録する案

現在、私は刑務所という、とても人様には自慢などできない、特別な場所で受刑生活を送っている。
それも刑期に満期日が定められた有期刑ではなく、日本の刑事罰の中で極刑(死刑)の次に重い無期懲役囚としてだ。
刑に服して十八年目になるが、特殊な紆余曲折を経て、物事の考え方が根本的に変化したのは間違いないだろう。


 それは刑務所という場所が一般社会で生活する者には想像を絶する、まったくの別世界で一般社会の考え方や常識がほとんど通用しないため、受刑者側が刑務所に来るまでの考え方や常識を、変えなければ生活していけないからだ。
世界的に観て日本は経済大国の一員であり、先進国だと思い込んでいる者が大半だろうが、はるか昔の明治時代にできた監獄法が名古屋刑務所の不祥事によって、ようやく平成十八年になって改正された程だから、罪を犯した者が収容されて生活する施設の中の事など、不祥事を繰り返した入国管理局と刑務所の関係法令を定める法務省に関しては、超が付く程の後進国というほかない。

 
 私が刑務所で生活するようになって最初に感じたのは、時間の流れが一般社会より遅いと感じたことだ。
当然、懲役刑だから平日は早朝から起床し、決められた時間内は所内の工場へ出業し強制労働をさせられる訳だが、作業を終えて居室に戻り午後五時頃の夕食終了後から、午後九時の就寝時間までや、目覚めてから起床までの時間など、一般社会のように出回って時間を使うという事ができないため、嫌でも狭い居室の中でいろんな事を考えさせられるのだが、どんなに改悛の情を深め被害者や、その関係者に対し償いたくても、獄中死する可能性が高い無期囚では、このまま生き続ける意味があるのかと……

 真剣に生死を考えていた時に突然、歌手で女優だった本田美奈子さんが急性骨髄性白血病で亡くなった事を思い出し、まだ若くて可愛いかったのに勿体なかったなとか、芸能人でお金や人脈があっても助かることができなかったのかとも考えていて、以前の私であれば、それだけで終わっていただろうが、この時は何か尊いものからの啓示のように感じたのと同時に、このまま獄中死するであろう私に罪滅ぼしというか、一般社会へ贖罪をする最後のチャンスを与えてくれているのだと、今考えても不思議な程に素直に思う事ができて、もしかしたら受刑者という特殊な身分の者でも、社会の役に立ち多くの白血病患者などの命を救えるかも知れない、どんな形であれ、救える命があるなら全て救うべきだと素直に思えたのだ。


 このような事を無期囚の私が言えば、恐らく大多数の人が、「はあぁ、なんの罪もない人の命を自分勝手な理由だけで奪っておいて、何寝惚けた事をほざいてるんだ」と、罵声が殺到しそうだが、こんな私でも心の底まで冷酷な極悪人ではないつもりだし、良心というものも少しは持ち合わせていたのだろう。
これまで、まったくと言っていい程、社会貢献して来なかったし、他人の役にも立てなかったので、今更と言われようが、なんと言われようが、病気で苦しんでいる患者や悲しむ家族たちの役に立ちたいと純粋に思えたのだから仕方がない。
それも他人の命を救いたいなどと思ってしまったのだから、私が犯した罪に対する目には見えない尊い存在からの啓示だったとしか思えてならないのだ。


 無期囚の受刑者が白血病患者などの命を救いたいと突拍子もない事を言い出すのだから、多くの障害でスムーズに事が運ばないだろうと思いつつ、今まで前例がなかっただけで、人の命を救うのに身分もクソもあってたまるかという想いだけで、ペンを進めている。
具体的には、日本全国の刑務所に服役する数万人の受刑者の中から、骨髄ドナー登録ができる十八歳から五十四歳までの健康な受刑者を集い、骨髄の型が合う患者に骨髄などを提供するというもので、ひょっとすると犯罪者の骨髄など提供してほしくないと考える患者が居るかも知れないと思いはしたが、それでもやっぱり大半の患者や、その家族たちは藁にも縋る思いで骨髄の型が適合するドナーが見つかるのを、一日千秋の思いで待ち望んでいるのだから、結論として行動を起こしたのだ。


 理由は単純に救える可能性が、ほんの少しでもあるなら、その命を救う努力を全力ですべきで、最終的にその命は救われるべきだからだ。
現実問題として、いくつか難しい障害があるのも事実だが、人の命より重いものはないという観点から極論を言ってしまえば、内閣府(内閣総理大臣)主導で厚生労働省と法務省が協力すれば、死を恐れて苦しむ沢山の患者の命を救えるのである。

 
 例えば、受刑者の骨髄ドナーを集う方法として、最も効果が期待できるのが刑期の短縮(減刑)だろう。
一日でも早く出所したいと考える受刑者が殺到するのは間違いないだろう。
動機が不純だと指摘されるかも知れないが、結果として人命救助をした事実は変わらないのだから、減刑は当然だと思う。
それから、受刑者の問診や検査については、全国にある日本赤十字病院に受刑者を連れて行けるように関係法令を整備するか、日本赤十字病院が手配した医師や看護師を刑務所に派遣すれば実施可能である。
恐らく反対意見も少なくはないと思われるが、国会で議論されたとしても、いつものように強行採決で可決されるので問題はない。

 
 要は内閣府(内閣総理大臣)、厚生労働省、法務省をどうすれば動かせるかになるのだが、国会議員も省庁の官僚も、人の子であり人の親である以上、難病と闘う患者や家族の気持ちは理解できるはずで、今、これを読んでいる全ての人が助けられる命を助けるために、何をすべきかを考え、何ができるかを考えて、協力できれば大きな世論となり、政府も見て見ぬ振りはできなくなるはずである。

 
 ちなみに参考のため記しておくが、私は今年五十六歳で骨髄ドナー登録はできないのであり、自分が減刑されて出所したいなどという考えで、これを書いている訳ではない。
政府の政策がお粗末すぎて少子高齢化が止められない中、将来有望で貴重な若者の命が、ドナーの数が少なくて助けられないのは本当に勿体ないと思うし、私が犯した罪で迷惑をかけた人たちに対する贖罪のひとつにでもなればと書いたものである。
多くの賛同者の協力によって、一人でも多くの患者の命が救われることを心から願っている。

 
令和五年七月七日(七夕)


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