株高が明るさにつながらない日本

株価のバブル期超えについては既に幾つか書いているが、ポイントを二つ挙げると、①株価のバリュエーションが全く違う、②株価形成の最大のファンダメンタルズである利益についての経営者の認識が大きく変化した、ことである。

バブルとは資産価格がファンダメンタルズ(株価の場合は、企業利益のストリームの現在価値合計)から乖離した水準に上昇することだが、日本のバブル期には、予想成長率が潜在成長率からかけ離れた水準に高まった(火が付いた)ところに低金利政策もあって益利回りが急低下した(油が注がれた)ことで、株価が暴騰した。

JPX, 内閣府「企業行動に関するアンケート調査」
PER(の逆数が益利回り)は単体・単純平均

金融ビッグバンを経て株価形成がグローバル基準に従うようになった2000年代後半になると、益利回りが日本経済や企業収益の成長率から乖離した水準に高止まりするようになった。現在の株価はバブル期の数倍の利益に基づいたものなので、バブルではない。

財務省「法人企業統計調査」
財務省「法人企業統計調査」

経済規模や賃金水準に比べて企業利益が著しく増えているのは、👇の冒頭で指摘されているように、企業が賃金抑制と「海外で稼ぐ」経営に転換したことが主因であり、

そのベースには、1994年2月の経済同友会「舞浜会議」で宮内オリックス社長が述べたとされるこの👇ような考え方(株主至上主義、金融資本主義、新自由主義)がある。

「企業は、株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」

朝日新聞「変転経済」取材班『失われた〈20年〉

この社会規範の変化には、企業トップの給与に特有のいくつかのメカニズムが関与しています。第一は、株主運動や株主価値論の普及、すなわち経営者の使命は株主の利益に使えることであって、従業員を富ませたり、(ガルブレイスが描いた近代企業のように)官庁と協力して効率的な国家目標の達成計画に気をとられたりすることではないという思想の普及です。

ロナルド・ドーア『働くということ』p.138

企業が儲かって株価が上昇したとしても、リゲインのテーマのように「年収アップに希望を」持てなくなったのだから、人々の気分が暗いのは不思議ではない。

企業がこのような変われば、労働者から「熱さ」が失われるのは必然だが、それに加えて人口の高齢化も血気・活気・活力の低下の原因になっている。

今年には人口の過半数が50歳以上になる見込みだが、そのような社会から「野心と高揚感」が失われるのもまた必然である。

国立社会保障・人口問題研究所

ということで、少子高齢化と金融ビッグバンによって日本経済が不可逆的構造変化を遂げたことが、株高でも豊かさを取り戻せない根本原因というわけである。

付録

日本とは逆方向に企業部門を改革したのがロシアのプーチン大統領で、オリガルヒ(当初の7人中6人がユダヤ人)のやりたい放題を止めさせ、主要産業は国家目標の達成に協力するようにしたことが、西側の専門家の推定を大きく上回る継戦能力を可能にしている。

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