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【漫画家インタビュー】蛭子能収さん  (再掲)

はじめに

当インタビュー記事は2010年5月に蛭子能収さんにお話を伺ったものです。

この頃、蛭子さんは 根本敬さん (特殊漫画家)が結成した海外に漫画をアート作品として売り込むプロジェクト

「ハッテンバプロダクション」

(参加作家:蛭子能収 根本敬 佐川一政) 

を通じて、蛭子さんの世界進出を企てているところでした。
これは、その発起にあたり行ったインタビュー記事です。

今に比べると、当時は単独で海外に作品を売り込むのはハードルが高く、
同じような海外展開を考えるアーティストの方々にとっても興味深いお話を聞けるだろうと楽しみにしていたところ、
蛭子さんの口から出る言葉は・・・
それはもう・・・他人事のようでして(笑)

次第に話題は蛭子さんの「漫画家」の部分となるのでした。

※以下、過去にWebサイト「マックスマガジン」で掲載されていた
インタビュー記事の<再掲>となります。

「世界にはばたけ!蛭子さん そもそも、なぜ漫画家に?」


<前述>

2009年末、密かに根本敬氏(特殊漫画家) が結成した
新プロジェクト「ハッテンバプロダクション(国際特殊機関)」
 
要は、蛭子さんを海外へコミックアーティストとして売り込み、
日本での漫画家としての価値を高めようというプロジェクト。
しかし、当人の蛭子さんはこのプロジェクトをどう考えているのか?

早速、聞きに行って参りました。
 
だが、そもそも「漫画家の蛭子さん」とテレビなどでご存知の方は多いでしょうが、蛭子さんの漫画家としての部分をご存知の方はどれくらいおられるのでしょうか?

そこで今回は、口を開けばお金の話で有名な蛭子さんに
「漫画家」の部分も聞いてみました!

1、「ハッテンバプロダクション」について


―「ハッテンバプロダクション」はどういった経緯で結成を?

 
俺もよく分かんないだよ。
根本さんとジェネラルマネージャーのMさんっていう人が知り合いだったんですね、たぶん。
そんで、その人はすごく英語がしゃべれる人で。
だから根本さんも「英語力を使って世界に向けて何かをしたい」って考えたんじゃないですかね?
フランスとかアメリカでは日本のコミックが凄く優著にされてて
手塚治虫さんとか石ノ森章太郎さんとか大御所の人達はもう紹介済みだから
次はちょっとこうマイナーな人っていうかちょっとアングラ的な漫画家を探してるような雰囲気なんじゃないですか?
 
―根本さんの漫画とかはフランスのオムニバス本によく誘われたりしてますもんね。
 
海外では多分ね、ストーリーを追った漫画は求められないと思うんですよ。
漫画の1コマを切り取って、それを芸術として見るというね。
だから、本来のストーリーのある漫画って考えたらもう違いますよね。
ただ漫画の1コマ1コマを「アート」として切り売りするっていう事なんですよ・・・多分。
 
―1コマ漫画というよりも、1枚絵といったような?
 
要するに漫画もいくつもストーリーがあって、
その中の1コマが例えばレイアウトも面白かったり、絵が面白かったりするから。
それをピックアップして、バァってこう1枚の絵にして売ろうっていう・・・(のがハッテンバプロダクション)
まぁ、根本さんと俺はそんな感じだけど。
あと・・・えっと・・・・えー・・・・・
 
―佐川さんですか?
 
そう、佐川さんをどう売ろうかっていうのが難しいところでしょうね。
 
―このハッテンバプロダクションの構想を聞いた時、どう思われましたか?
 
まぁ、いいんじゃないの。
それ程、「わぁ、スゴイね」っていうあれは無いけど。
実際にスゴイなって思ったのはジェネラルマネージャーに呼ばれてホテルのロビーに行くと、俺の絵を見たフランス人がやって来て、当日に俺が持参した絵を持っていったんですよ。
ほんで、本当にパリで展覧会が行われたんですよね。それにはビックリした。
まさかこんなに現実的になるなんて・・・へへへ(笑)
ただ、今のところお金には全然なってないんですよ。
 
―やはり、すぐにお金にというのは難しいんでしょうね。
 
だから、俺は最初「もしかしたら、このフランス人は詐欺なんじゃないか?」って思ったりしてさ。
ただ絵を持って行っただけで、こっちには全然お金は払わずに、むこうで勝手に売ろうとしてんのかな?って。
最初は色々考えたりしましたよ。
 
―蛭子さんは「自分の絵は海外でもいけるんじゃないか?」って思われてましたか?
 
そんな大それた事はあんまり考えてないですけど・・・
売れれば良いなとは思いますけどね。
ただ、俺の絵は昔から「アートとしてはいけるんじゃないか?」って
恥ずかしいけどちょっと思ってましたよ。
何でかっていうと、高校の時に、グラフィックアートをクラブ活動でやっててね。
そういうのが凄く好きだったんですよ。
例えば文字のレイアウトとか、絵を端っこに置いたらこっち側の空間が意外とよく発揮されるとか。
自分では、そういうのを漫画に取り入れたつもりなんですよ。
だから1枚絵でもさ、1コマを拡大してバンと貼り付ければ「アート」としていけんじゃないかな?って少し思ってました。
 
―確かに蛭子さんの漫画の扉絵とかは内容と関連性の無い1枚絵に描かれてますもんね。
 
そう、実は横尾忠則のマネをしてるんですよ。(笑)
・・・ちょっとだけだよ。
 
―じゃあ、蛭子さんは最初は漫画からではなくデザインから入られたんですね。
 
そうそう、グラフィックデザイナーになりたかったです。


2、なぜ漫画家に?


―では、ストーリーをつくってコマで割ってセリフを書き込んでっていうのはいつ頃から?

 
それは、18才の時に漫画クラブっていうのに入ってから始めましたね。
 
―それまでは、漫画を描こうなんて意識は?
 
全く無かったです。
 
―小さい頃に漫画を読んでてとかも?
 
いや、よく読んでたんですよ。
鉄人28号とか、資本マンガの『影』とか『街』とか。そういうのが凄い好きだったんです。   
中学高校時代は全然漫画を読まなかったんだけど
高校卒業してから働いてた看板屋の同僚が「漫画クラブ」っていうのを作ってたの。
ほんで、俺もそこに入れてもらおうかなって入って。
そしたら、そこが「ガロ」っていうのを定期購読してたの。
そこに載ってたつげ義春の描いた「ねじ式」を見て凄いなって思ってね。
「漫画家になりたいな」ってちょっと思いました。
 
―「ねじ式」が切っ掛けだったんですね。
 
もう、「ねじ式」は凄いと思いました。
今までの漫画とは全くカタチの違う漫画で。
これは、ほんと斬新で凄いなぁと思ったんですよ。
芸術性もあるし、とにかく普通の漫画じゃないなって。
 
―「俺もこういうのが描きたい!」と思われたんですか?
  又は「やられた!」っていうか?

 
「やられた!」とも違うんですね。
本当はああいうのは自分が先にやれたらって思ってたんですけど・・・
自分の才能の無さを感じましたね。
 
―才能の無さというのは・・・?
 
つげさんの作品は全くデザイン的じゃないんですね。
グラフィックデザインとかアートは全く考えてないと思うんですよ。
何ていうか「人間の不思議な感情」
そういうのを、ただ漫画にしてるだけだと思うんですよ。
レイアウトとか「格好良いふうに描こう」とは一切考えてない自然に書いた格好良さがあるんですね。
 
―なるほど、意図せず描かているところに惹かれたと。
 
やっぱり自然なのが一番良いんですよね。
つげさんの自然に考えずに描いたあの・・・・「アート」って俺は呼びたいんですけど。
根本さんも自然にレイアウトなんて一切考えないで
画面にとにかくゴチャゴチャに埋めていこうっていうあれでしょ?
だから、そっちの人の方が何か人間くさくていいんじゃないですか。
俺はそう思いますけどね。
・・・だけど、俺のはどうしても作り物っぽいから。
 
―蛭子さんはその辺りを意図的に意識して描かれてるんですか?
 
うん、計算。
レイアウトがどうのこうのって考えて格好良く見せようとするんだよね。
だから俺の場合は何かこう・・・すました絵っていうか・・・
 
―自分の作品を見るとそういった意図された部分が鼻について?
 
ちょっと、嫌になるときはあります。
でも、もうそれしか描けないから・・・描けないんですよ、何か。
だからもう、それで行くしかないと思ってますけど。
 
―でも、蛭子さんの絵は一目で「蛭子さんの絵だ」って分かる個性と存在感がありますよ。
 
そうですかね?
 
―ちなみに「どのように見せたい」と意図されているんですか?
 
んー・・・奇抜なストーリーを、ただ楽しんでくれれば良いかなっていう感じなんですけどね。
あんまり人間の細やかな感動なんかが描かれていないので、ちょっとこう無機質な。漫画じゃなくてデザインをみるようにして、漫画を見てくれたら良いかなって。
その人間の感情とかをもろに出すのは俺には出来てないような気がする。
だから、俺みたいなのはあれだよ、
多分フランスとか絵画が進んで現代アートになっていったところではウケるかもしれないんだけども、アジア圏とか中国とか北朝鮮とかでは全くウケない気がするんですよ。
そっちでは人間のドロドロした情念のようなものがウケるような気がする。
まぁ、俺もよく分かんないですね。(笑)
 
―そういった点でもハッテンバプロダクションでは自分の作品が海外でどう評価されるか楽しみですね。
 
そうですね。それは楽しみですけど・・・売れたら良いんだけど。


3、しょうがないから漫画を描こう


―根本さんは「ハッテンバプロダクション」を通じて海外に発信すること  で、蛭子さんはしかるべき評価を受けるべきだって。

 
へへへ(笑)根本さんがそれを本気で言ってるのかどうか分かりませんけど
どうなんだろ?心配ですけど。
なんかね、俺は昔から自分が能力以上に仕事してきたように思うんだよね。
 
―自分の能力以上に?
 
能力以上にいっぱい仕事してる気がするんですよ。
「俺こんな能力ないのに、こんないっぱい仕事して良いんだろうか?」っていうくらいの
テレビでも何でもね。いつもそんなふうに思ってますけどね。
 
―自分が望んでなくても、そういう仕事が入ってくる?
 
そうそう、「大丈夫かな?もうパンパンなんだけど」って思いながらやってんだけどね。
 
―じゃあ、漫画以外の仕事も誘われたからやってるという?
 
そう、自分から積極的にやった事はまず無いですね。
自分から積極的にやったのは若い頃に東京に出てきて、漫画を描いたって事ですかね。
それだけは積極的に描いた。
それとあと、シナリオ専門学校に行ったことと。
その2つは積極的にやりましたよ。
だけど、その後からは全て人から「こうしろ、ああしろ」と言われてやったことばかり。
 
―ちなみに、その「東京に出てきて漫画を描いた」っていうのは
 まだ、デビューはしてない頃ですか?

 
してない。
 
―つまり、「漫画家になりたい」ってことで上京されたんですか?
 
漫画家になりたいと思ってました。
 
―その漫画も、やはりガロに載りたいという?
 
そうですね、ガロに。
まぁ漫画家になりたいっていうより
普通のサラリーマンになりたくないっていうのが凄くあって(笑)
とにかく会社で働くのが嫌だから「漫画で食えたら良いな」っていうのが凄く頭の中にありましたね。
 
―普通のサラリーマン以外の選択肢が、どうして漫画だったんですか?
 

最初は映画監督とかそっちの方になりたくてシナリオ専門学校に行ったんですよ。
それに挫折して「しょうがないから今度は漫画描こう」って(笑)
 
―なぜ、シナリオ専門学校で挫折されたんですか?
 
東京のシナリオ専門学校に行って1年間通ったんですけど
1人も友達が出来なかったんですよ(笑)
俺ね、本当は人と喋るのが苦手で、人見知りが激しいんですよ。
だから、むこうから俺に寄ってこない限り自分から積極的に全然いけない。
 
―専門学校でも誰かに話しかけられるのをずっと待っていたけど・・・
 
そう、待っていたのに。
俺が考えていたのは
専門学校に行ってる間に何人かのグループが出来て、映画サークルみたいなのが出来て、
そこで「さぁ映画つくろうよ!」っていう風になってね
8人とか16人で映画を作っていくんじゃないかなって思ってたんですよ。
ところが、その仲間が1人も出来なかったの。(笑)
 
―周りの人達はそんな風に映画を作ってたんですか?
 
いや、周りの情報も全然入って来なかったですね。
 
―本当に会話も無かったんですね。
 
うん。
 
―そういった経験から、漫画だったら1人で出来ると?
 
そうなんですよ、漫画だったら1人で出来るから。
 
―昔から絵も描いてたということもあって?
 
そう。
 
―それで「ねじ式」が載ってたガロに持ち込んで。
 
そうですね。
 
―すぐにデビューに至ったんですか?
 
いや、2回目ですね。1回目は落ちました。
 
―それは長井さん(※)に? ※ガロの初代編集長
 
そう長井さんに「絵がちょっとマズイかな」とか言われて。
 
―2回目は1回目と絵を変えていったんですか?
 
そうなんですよ。1回目に持っていった時はGペンで描いたんです。
漫画家っていうのはGペンで描くと思ってたから。
でも俺、Gペンを全然使ったことがなくて凄く線が硬かったの。多分それがダメだった。
それで次はロットリングペンで描いたんですよ、デザインみたいな丸いせんが良いかなって。そしたらそれで通ったから「あぁ、ロットリングペンで良かったんだ」って。
 
―タッチの問題だったんですね。
 
そう、タッチの問題だったんですよ。

4、「漫画」以外の仕事


―デビューしてからは漫画に絞って?

 
いやいや、全然お金がもらえなかったんでずっと働いてましたよ。
チリ紙交換したり、ダスキンの配達したり、とにかく7~8年は働いてた。
漫画家で独立しようかなって思ったのは33才の時だね。すごく遅かったです。
 
―その時には漫画で食べていけるようになったと?
 
ちょうどその時にコンビニが出来て
コンビニに置くちょっとエッチな雑誌がいっぱいできたの。
そういうところからも注文が来るようになって。
 
―よくガロ系の人達は漫画だけで食べていけないから色んな事やったって。
 
皆もう必死にね。
特にイラストの仕事とか来ないかなって囁き合ってました。
新しい雑誌とか出ると、そこから仕事が来たなんて言われると羨ましがったりね。
とにかく、イラストの仕事が嬉しかったですよ。
漫画なんかより、うんと楽にね1ページ分を貰えるから。
 
―それまでの7、8年は辛かったですか?
 
いやね、それが俺は全然辛いなんて思ったことがないんですよ。
人間は普通は学校出たら働くもんだし、働くことは普通な事だから。
まぁ、「出来れば漫画家で食いたいな」とは思ったけど
基本的には「働かなければならない」っていう頭はあったから。
だから働くことに対しては全然抵抗がなくて。
 
―では、「なぜもっと自分に漫画の発注が来ないんだ?」「なぜ、評価され なんだ!」っていう不満なんかは?
 
いやいや、いつも俺は謙虚ですからね(笑)ホントですよ。そういうのは
発注が来る、来ないは向こうの都合だから、その人達に腹を立てるっていう事は全くありえませんよ。(笑)「出来れば注文が来て欲しいな」とは思いましたけど。
 
―じゃあ、漫画家として独立してから色んな誘いが来るように?
 
その頃、よく多いのが風俗を体験して漫画にするっていうのが多いんですよ。
そういうのだって皆ガロだけじゃお金にならないから喜んで引き受けてましたね。
俺は、結婚してたから変なこと出来ないし「何か女房に悪いかな」と思って
体験取材はね、ちょっと出来なかったですけど。
例えば、平口さんは結婚する前からやってたから。結婚しても止めなかったんでしょう。
でも、皆好きでやってるわけじゃないんだよ。
 
―テレビや役者の方面へのお誘いは?
 
それは柄本明さんがポスターのイラストを俺に依頼したんですよ、そっからですよ。
いくつか描いてるうちに「蛭子さんも出てみませんか?」って言われて。
じゃあ出ようかなって。
まぁ出たくなかったけどね、頼まれたら断れにくいから出たっていうか・・・
 
―断れなかったからなんですね(笑)
 
だからね、俺自身の姿がこうやってテレビとかに出て一体何なの?って。
皆もさ、それを喜ぶのかな?っていう。ほんとに自問ですよ。
 
―今でもずっと?
 
いや、今ではそれがバレてきてだんだん呼ばれなくなったっていうんだけど。
でも、ホントに何なんだろ?
俺ね、こないだ昔の徹子の部屋に出た映像を見てたら
あの顔は結構初々しかったなって思ったの。
やっぱ顔が良い顔してたんだなって、何かこういつも微笑んでるような。
だからテレビ向けの顔だったのかなってちょっと思ったりして。(笑)
今はね、仏頂面してるからさ。
よく何も喋る事もなく雛壇に座ってて、時々自分の画面の顔を見ると
「こういう顔いけないな」ってよく自分で反省してますけど。
 
―そうしたテレビなんかの出演も自分の能力以上を求められていると?
 
俺は本当は無口な人なんですよ。
だから何かしらないけどあまり喋りたくない事も無理して喋ったり(笑)
何かさ、芸人の人にツッコまれるの。俺がボケみたいになってて。
「何でツッコまれるんだろう?・・・俺はそう思われるか?」
って色々と疑問に思いつつ出てますけどね。ちょっと俺って何か情けないのかなって。(笑)
 
―根本さんは蛭子さんの漫画の評価が低いのも、そういった時にドンと構え てないからだっておっしゃってましたよ。
 
えっ、そう?
 
―そこでハッテンバプロダクションで海外に発信する事で、日本での再評価 に繋がる可能性はあると思いますよ。
 
そうそう。こないだ根本さんを少し感心しちゃった。
イベントでも根本さんが物販にも凄い力を入れててさ
いきなり楽屋でTシャツとか色紙とか用意して、自分の描くところは全部描いてきてて
「はい、蛭子さんココ描いて」って言ってさ。
凄いなと思った。根本さんのその・・・何だろうな?あの積極的な姿勢。
 
―根本さんは先日、出版社の営業が信用できないということでご自身で書店 に営業もされたようですよ。
 
そうなの?いや、根本さん凄いよね何か。
でも根本さんの姿勢は凄く良いことだと思いますよ。
そういうのは皆も見習わないとダメかも。

5、これからの漫画家へ


―そういう精神も昔のガロの方々に通ずる精神だと思うんですが、昔と今で 違いというのを蛭子さんは感じたりしますか?

 
やっぱり昔のガロは他の漫画には無い凄く斬新な漫画だったんですよ。
だけど、今はそれらも全て斬新じゃなくなってる。
アックスに色んな俺たちに似たような漫画家がいっぱい出てきてるけど、それはもう斬新じゃないんですよ実は。斬新なのは俺達のところで終わってしまってるの。
俺たちの頃は、まだそういうのが少なかったから
「うわ、これ面白いな~、変わってるな」って言われてたんだけど、
今はいくら俺達みたいなのが出てきてもあんまり驚かなくなったよね。
俺は何かそういう今の新しい人達って可哀想だなって思いますよホントに。
だから、今から出てくる人達は本当に中身をね、
もっと人を面白がらせるような。
本来の漫画の姿に戻っても良いんじゃないかなって思うんだ(笑)
だけども、もしかしたらまた新しく生まれて来るかもしれないし。
まだまだ色んな人がいるから。
でも、うーん・・・・
何て言うか分かんないけど(笑)
とにかくもう斬新じゃないって事は言えると思うんですよ。
だからもっと、そういうのをまた打ち崩すようなのを描かなくちゃいけない。
だから難しいと思いますよ。
 
―そうした、これからの漫画家に向けて蛭子さんからメッセージはありますか?
 
今アックスだけに描いてる人達はまず食えないですよ、ほとんどね。
だから他の道で食うことを探さなくちゃいけないんですけど・・・
とりあえず、今の漫画家さんに共通して言えるのは
とにかく、その漫画で食えないんだったら、そっちはもう趣味に徹する。
「他の仕事をしないといけない」っていうのは肝に銘じておかなければいけないと思うんですよ。本当はそれがお金になれば一番なんだけど。
まぁ、「趣味に徹してちゃんとお金を稼ぐ絵を描く」っていうのが大事だと思います。
 
―仕事をするという意識が大事だと?
 
うん、そうしないと。
お金がないと人間がダメになって潰れていくから。
ボロボロになっていくんですよね。
昔は多少お金が無くても、誰か助けてくれる人がいたような気がするんですよ。でも今はもうそんな奇特な人はいないよ。
だから、ただアックスで描いててお金が無いっていう人達は
ダラダラーって消えていくだけのような気がするんですね。
要するにアックスで好きな絵を描く一方で、
ちゃんと売れるようにイラストを描いたり
何かこう積極的にさ。もう可愛い絵でも良いじゃないですか?そっちの方は。(笑)
とにかく、そっち方面でお金を稼げるようになって下さいって言いたいね。
 
―やはり、そういう部分は今も昔も同じですか?
 
いや、今の絵を描く人に限らずに若い人達は「職が無い」って言ってるけど
それは凄く職に対して贅沢になってる気がするな。自分の嫌な仕事はしないような感じで。
好きな仕事はなかなか無いのに「じゃあ嫌な仕事をやるか?」って言ったらやらない。
だけど、そういう事じゃなくて
俺たちの頃はお金を稼ぐ為には嫌な仕事もいっぱいやってきたから。
「とにかく生活費は自分の手で稼ぐんだ」っていう意識が凄くあったんですね。
だから今の若い人達は甘いんですよ。
何か好きな事だけやって「お金が無い」って言ってる人達に対しては・・・
俺は本当に心配してます。もうちょっと・・・仕事は妥協しつつ。(笑)
 
―最後は妥協ですか(笑)
 
いや、大事なんですよ本当に。
最近はお金を持ってない若者が多すぎるよ!本当に。
 
―確かに「お金にしなければならない」っていう意識は大事ですよね。
 
それは凄く大事。
俺はサラリーマンを辞めて漫画家になった時に
「どうやってサラリーマン時代のお金を漫画で稼ぐか?」って事を
ずっと計算してましたもんね。
どんな小さな仕事でも
「これで1万円になった、2万円になった」って積み重ねて換算して。
それがサラリーマン時代の頃の給料になった時には「ヤッター!!」ってね。
「これで俺は絵でメシを食ったことになる!」って思ったから。
そう思う事によってね、妥協した絵も描かなくちゃいけないけど
サラリーマンよりは良い訳だからさ、好きな道なんだしね。

―漠然とではなく、やはり数字に起こして?
 
そうそう、数字に書いて
毎日毎日「今日はいくら?」って書いていくと意外と増えていくんですよ。
やっぱり、それが何か努力していくことになるんじゃないですか?
わかんないけど(笑)
でも、今は俺も減ってきてるんだよ。
どうしようもないくらい減ってきてるよ(笑)
どうしようなかってくらい・・・・本当に・・・
 
―でも、今の蛭子さんのアドバイスが刺激になっている方もいるはずですよ。
 
そうかな?
 
―では最後に蛭子さんはハッテンバプロダクションも含め、これからはどう いった展開をしていこうなどありますか?
 
俺は最近漫画を8ページ描くのにも四苦八苦してるから・・・
だから1枚の絵を、もし本当に外国人が買ってくれるんだったら良いんだけど。とにかく、外国でも安いよね。
昔のハナシだけど例えば根本さんの漫画も外国で出版されて5万円っていうからさ、ちょっと安いんじゃないかなと思う。
全部でだよ1000部刷って印税が5万円だよ?
まだ安く見られてるなって思うのよ。(※)
これじゃ食っていけないから、ハッテンバプロダクションとなってこれをなんとか高く売れるように。
だから、外国もそんな生易しいもんじゃないなって思った。
外国人に気に入られたからってだけで舞い上がってたら
お金にならなくてキュウキュウになっちゃうなって。

※根本敬 註:「いや、少ないことは少ないけど、あと10万ちょっとは貰ってます」
 
―厳しい道かも知れませんが、その名の通りハッテン(発展)してくよう
 応援しています。

 
有り難うございます(笑)


<後記>

蛭子さんらしいというか・・・何かとお金の話になりましたが、要は蛭子さんはお金を通して非常に現実主義な方なんだと思いました。
「漫画で食べていければ」という理想も大事だけど、「実際いま漫画で食べてれてるのか」という現実を見つめる事の方が大事なわけで。そんな理想と現実の間を計る軸が、蛭子さんは絶対的に「お金」のようです。

ちなみにこの取材、
蛭子さんと待ち合わせをしたのが、渋谷ハチ公前。
落ち合うなり蛭子さんが「良いお店を見つけたんだ、そこ行こうよ?」と
連れて行って下さったのは「クリスピー・クリーム・ドーナツ」
一緒に列に並び、若い女性客ばかりの店内で、2人掛けテーブルに座り
蛭子さんと向かい合ってドーナツを食べながらお話を聞くという
めちゃくちゃかわいいインタビューで(笑)
とっても良い思い出です。

(取材:ハヤマックス)


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