初めての二人暮らし
その部屋は武蔵小杉の駅から少し離れたところにある小さなアパートだった。
築浅、というわけではないけれどこざっぱりとしていて、比較的きれいに使われているようだった。
僕たちはネットで調べてきた部屋がどれもダメで、諦めようかとしたときにその部屋を見つけた。
僕たちはその日どうしても部屋を決めなければならなかったのだ。
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結婚は急遽決めた。妊娠したわけではないのだけれど、とにかく結婚しようとなったのだった。
当時の会社は休みが日曜日しかなく、しかも僕は大学院に通っていたため有給休暇のすべてを大学院への通学に費やしていた。
その中で、入籍を6週間後に定め、その2週間前に入居、その前週に両親の顔合わせと予定を決めたため、大学院の授業がない数少ない日曜日に確実に部屋を契約しなければならなかった。
仕事が終わると夜中に妻とチャットして新居や家具を探し、Google Spreadsheetに調査経過を共有するという完全な仕事スタイルで入居計画が練られていった。
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まず最寄り駅を武蔵小杉に決めた。会社から遠すぎず近すぎず、という理由と、どこに行くにも便利であること、そして当時住みたい街ランキングが急上昇しているから、というのがその理由だった。僕らはミーハーなので、なんとなく”ばえる”という最後の理由が比較的大きかったように思う。笑
その中で「本命」と「義理」を決めて不動産屋に行った。
1件目は「義理」から。駅近だけれど、少し狭い。きれいではあったのだけれど、お風呂好きの妻にとってお風呂が狭いというのもマイナスポイントだった。あと僕からするとコンロがないのもネックで、そもそもどれが合うのかを調べて買うのが面倒だった。
まぁこれは義理だし、と2件目の「本命」へ。
さっきより駅からは離れるけれど、歩けない距離ではない。築浅で、宅配ロッカーもあって、今どきな感じの装備が完備されている。コンビニも近い。家賃はちょっと高いけど、無理する範囲ではない。僕たちはそもそもここに決めるつもりで来たのだ。
しかし、2件目のその物件に到着すると、思いもよらなかったものが目に入る。
ラブホテル。
その物件は真横がラブホテルだったのだ。ストリートビュー見てくればよかった。
・・・。
「これさすがに親とか友達とか呼びにくいよね」
「うん」
そしてその物件は却下になった。
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どうしようか、と思いながら不動産屋に戻った。
不動産屋がおすすめがあるというのをほとんど無視しながら改めて物件を検索して、目に止まったのが、結局借りることになる物件だった。
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僕たちは結局そこに2年弱住んだ。契約を更新することはなかったけれど、武蔵小杉は好きな街になった。
結婚式のムービー撮影をその部屋でやったり、友達を呼んだらうるさくて怒られたり、友達を急遽泊めたり、いろんな思い出がある。
当時の僕たちにとって身の丈にあった部屋がそこだったのだ。その後何度かの引っ越しを経て今の家にいる。家族が増えたから、家も広くなった。これからも引っ越すかもしれない。その時の自分たちのライフステージを表すのが家だとするならば、最初の部屋が武蔵小杉のあの部屋で良かったと、僕は思う。
最後までお読みいただきありがとうございました。 このnoteのテーマは「自然体に綴る」です。 肩肘張らずに、「なんか心地いいな」と共感できる文章を探したくて僕も書いています。なにか良いなと思えるフレーズがあったら、スキ!やフォローをしてくださると励みになります。