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マイナスをゼロ~プラスにする再建外科

個人的にこんな特殊な手術は他の外科にはないと常々思う。

創造力とデザイン性が求めれ、かつ 極めて繊細な技術力が同時に求められる。どれくらい繊細かというと、使う糸は髪の毛よりも細くマイクロ単位の細さであり、それゆえマイクロサージャリーと言われているほど。

ごまとの比較 (写真提供:河野製作所)

にもかかわらず、この手術は患者のquality of lifeに大きく直結するから話は複雑である。
なぜなら私たち再建外科の下地は、そもそも体表外科や美容外科を扱う形成外科にあるゆえ、整容面と機能面を両立させる手術が求められているのだ。

例えば代表的な例である乳房再建。
女性の身体的シンボルと言える乳房が乳癌で切除せざるをえない場合、術後の患者の精神的な負担や生活への支障は想像に難くなく、quality of lifeの低下は多くの女性を悩ませてきた。
しかし1970年代から開発され始めた自分の組織を使用した乳房再建の発展により、失われた乳房を違う組織で再建することが可能になった。

簡単にいえばこうだ。
外科により乳癌のある乳房が切除された後、再建外科に交代。

①体の違う部位(お腹や背中や太もも)から「皮弁」を切り取る

②組織がなくなってしまった乳房部分にその「皮弁」を縫い付ける

③「皮弁」の栄養血管(1-3mm)を移植先の胸の血管に手術用顕微鏡で吻合する

④左右の胸が対象になるように調整する

注)皮弁•••皮膚や脂肪組織(時に筋肉)とその部位を栄養する血管をまとめた総称

この過程を6−8時間かけて1日がかりで完成させる。

腹部を使用した乳房再建のシェーマ(提供:miho.T)

当然大手術であるが、なくなった乳房を似たような組織で再建できたことに対する患者さんの喜びは計り知れない。

手術は芸術である、とは昔から言われたものであるが、この言葉はまさに形成外科に向けられた言葉だな、と思っている。

マイナスをゼロ〜プラスにする再建外科。

一般の人には馴染みのない分野だけれど、これほどcreativeな手術はない。少しづつその魅力を伝えていければいいと思う。

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