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【ネタバレ】ロイエンタールの「アレ」を自己実現欲求的に考察する【銀河英雄伝説】

※ネタバレ注意です。

銀英伝好きにしか伝わらない話をちょっと手直しして再掲笑

「おれは自分が何のためにこの世に生を亨けたか、長いことわからなかった。知恵なき身の悲しさだ。だが、いまにしてようやく得心がいく」
ーオスカー・フォン・ロイエンタール

自分の至らなさを感じるとき、私がよく思い出すのがロイエンタールのこの言葉。

この言葉をロイエンタールが発したのは、親友であるミッターマイヤーとのFTL(超光速通信)でのシーン。

銀英伝考察サイトでも、なかなか理解されない(そして「作者のご都合主義」と片付けられる)ロイエンタールの叛乱。彼はなぜ反旗を翻したのか、ちょっと心理学的にこのくだりを検討していきたいと思います。

銀河英雄伝説

「だが、いまにしてようやく得心がいく」

ロイエンタールがこう言ったのは、彼が自らの「人生の意味(自己実現)」を考え続けてきたからです。

「目を開けた瞬間(つまり生まれてすぐ)に」母親に殺されそうになった。

だからロイエンタールは「自分が何のためにこの世に生を亨けたか、長いことわからなかった。(他人を不幸にする存在だと思っていた)」のです。

そんな自分の「生きる意味(自己実現)」は何なのか、彼はずっと探し続けてきたんですね。

しかし、親友であるはずのミッターマイヤーには、彼のその苦悩が全く伝わりません。

ミッターマイヤーは「気持ちの良い男」ではあっても、「親友の悩みを我がことのように感じられるような経験」(ロイエンタールのように「肉親から殺意を向けられる」経験)が無かったからです。

そんなミッターマイヤーには「あえて常識的な説得」をすることしかできませんでした。ミッターマイヤーには何も理解できないからです。

何も理解できない。だからミッターマイヤーはロイエンタールにこう言ったのです。

「考えなおせ、ロイエンタール」

そう「お前は間違っている」と言ったんです。

当然、その言葉はロイエンタールには響くはずもありません。

ミッターマイヤーは正道(気持ちの良い・胸を張って歩ける道)を行く男。

それは「おれ(ロイエンタール)にはできぬこと」なのです。

これがミッターマイヤーには分からない…

ロイエンタールの言う「おれにできること(自己実現:忠誠心の行き先)」、それは「強大な敵を欲しているラインハルトに対して、敵となること」でした。

そして、ロイエンタールはこう続けます。

「どうだ、ミッターマイヤー、おれと手を組まないか」

無論、ミッターマイヤーが応じるはずもない提案ですが、これは「より強大な敵が現れることで、ラインハルトはより輝く」という「主君の自己実現(潜在的欲求)への理解」があるからから出てくる言葉です。

しかし、ミッターマイヤーはこう言いました。

「血の色をした夢に酔っている」

だからロイエンタールは「絶句」したのです。

自らの忠誠心の在り様(自己実現)を、「夢に酔っている」と理解されたから。

銀河英雄伝説

ロイエンタールとミッターマイヤーは親友です。

なのでロイエンタールは割と頻繁に、ミッターマイヤーに自分自身の思いを伝えようとしていましたが、ミッターマイヤーには届きませんでした。

ミッターマイヤーはいわば「単純」からくる「気持ちの良さ」(男らしさ)が持ち味であり、他人を理解しようとはしない男だったんです。(とはいえ、ラインハルトに対して「彼の忠誠心は自分とは比べ物にならないほどである」と伝えている点、無意識的な理解はある模様」

ロイエンタールが酒の勢いを借りて、自らのコンプレックスを語ったこのときも…翌日ミッターマイヤーは「何のことだ、覚えていない」と(気を遣ったように見せてその実)受容・共感を拒絶したのです。

銀河英雄伝説

もしミッターマイヤーに、ロイエンタールをもっと理解したいという気持ちがあれば、銀河の歴史がまた1ページ変わったかもしれないのですが…残念です。

更に言えば、(あり得ないことですが(理由は後述))ロイエンタールに呼応して、ミッターマイヤーも挙兵していれば、ラインハルトの命はさらに輝きを増したはずです。

そうなると、

ロイエンタール&ミッターマイヤー(艦船数約7万、予備兵力無)
VS
ラインハルト&ミュラー&ワーレン&ビッテンフェルト&アイゼナッハ&メックリンガー(艦船数約9万+予備兵力10万+財政健全)

何も見ないで書いているので艦船数とかは適当です(ケスラーは参戦できないので除外)。

もし、ロイ×ミッタマ軍(叛乱軍)とイゼルローン軍が共闘すれば…もはや艦隊戦力は誤差の範囲。叛乱軍がフェザーンを抑えれば(ロイエンタールはハイネセンまで引きずり込むというプランでしたが、ミッタマと共闘できるならプランはフェザーン奪取になるはず)、イゼルローン軍は「回廊を挟んでほぼ拮抗する勢力が相対する」という地政学的メリットを最大限に活かせます。

もはやラインハルトの内心は踊躍歓喜の至りではないでしょうか。犠牲になる民衆はたまったものではないですが…

財政再建を果たした新帝国は、補給・回復力に置いて一日の長があります。しかしラインハルトの命数が史実どおりとすれば、ロイエンタールとミッターマイヤーに伍する艦隊指揮官はもはや残っていません。

そうすると、「おれが正帝、卿が副帝、いやいやその逆でも一向構わぬ。」その言葉が現実味を帯びてきます。

ここでのロイエンタールの言葉は、拒絶されることを想定してはいるものの、もしミッターマイヤーを調略できれば、ほぼ「勝ち確」と捉えています。

こんなところも、彼の自己評価(とミッターマイヤーへの評価)の高さを表していますね。

ただ、残念ながらミッターマイヤーは「ローエングラム公は一代の英雄だ。おれたちはあのかたの手足になって動き、それ相応の恩賞をいただけばいい。おれはそう思っているがね」なんて言っちゃう「小市民」なんですよ…

ここでもロイエンタールとミッターマイヤーの「自己実現観」の違いが浮き彫りになっています。ミッターマイヤーも乱世に生きてはいるけれど、奸雄ではなかったんですね。

というわけで、どうひっくり返っても、ロイエンタールの調略は実現しないんですけどね…

とは言え、こんな考察ができるから、30年も読み継がれる名作なんですよね。銀英伝は。

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