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良い自己像と悪い自己像、その統合への道筋

最近、仕事で、難しいなぁ…と思うことが続き、先輩に相談したら、「対象関係論を少し勉強したらいいと思うよ!」と言われ、「対象関係論を学ぶ心理療法入門」という書籍を読み始めた。
その本が目から鱗だったので、ここに書き留めておきたい。(対象関係論は精神分析の一方法論、とのこと。)

対象関係論の特徴として、よく出てきたフレーズは「スプリット」であった。スプリットとは、ある対象(自分や他者)を「良い」「悪い」でふたつに分けてしまうことである。原型としては、乳幼児が母親からおっぱいをもらって満足できているときは「愛されている自己」を経験するが、おっぱいをもらえず欲求不満に満ちているときは愛されていない「悪い自己」を経験している、というところにあり、このふたつが最初のスプリットした対象関係である。この2つが後々だんだんと統合していくことが大事である。が、その統合が生育過程で上手くいかないと、いろいろな不快体験が未消化なままに、自分の中にスプリットして溜まってしまうという。例えば、「拒絶的な母親」と「ダメな自己」という組み合わせがずっと残ってしまい、その後の人生でもその関係を何度も反復してしまう。
そして、他者に対するイメージと自己に対するイメージは連動するので、「ダメな自分」という自己イメージを未消化なまま持っていると、他者イメージも悪いイメージとなりやすい。

ここまで読むと、「まあ、でも、誰しも『ダメな自己像』も『良い自己像』もあるのでは…」と思うけど、ここで取りざたされるのは、「スプリット」というだけあって、どちらかに振り切ってしまう状態のことなのだろう。「まあ、『ダメな自分』もいるけど、『良い自分』もいて、どちらもあるよね。完璧ではないけど、それが自分だよね」と思えると心身健康に過ごせそうである。いつも、どちらかだけに振れてしまうと、「ダメな自分」はとことんダメな自分しか見えなくなり、「良い自分」の時はとことん舞い上がってしまう。

では、どうやってこの未消化の「スプリット」を消化していくか。ビオンは愛と憎しみに「知ること」を追加したという。「知ること」も情動の一種であり、「スプリット」からの統合において重要なものであるようだ。例えば「私はだめな人間だと思っていたけど、セラピーを受けるうちに、私にも人を支えたいという気持ちがあることに気づいた」といった気づきのことを指すという。
また、スプリットが消化されずたまった結果として攻撃性が出てくることがあるが、それを中和するものは愛情とのつながりの認識や実感である。愛情とは言っても、他者から愛される、ということだけでなく、自己のよい側面を知ること、相手の良い側面を知ることも含まれる。「自己のよさ、あるいは価値を知るということも、自己に対する愛情」であるという。そして、自己の良さだけでなく、「こうしているときが心地よいのだ」「おいしいものが好き」「ほっとできるひと時がある」という「感覚的な自己の良さ」も含まれる。そうすることで、自分ってこういう人間なんだ、というアイデンティティの感覚につながる

「自分を愛する」というと、なんだか途方もなく大きな課題な気がして、よくわからなくなる。でも、確かに「ちょっとした自分の幸せ」を知ることも、「自己の良さ」を見つけることに含まれる、というのは面白い視点だなと思った。そして、そういえば、これってマインドフルネスのワークを通しても得られることだな、とも。

マインドフルネスのワークで重要視されるのは、自己の「気づき」である。今の自分の状態はどんな状態か、という気づきから、自分の中によく出てくる陰性感情、それに対する反応の傾向まで。様々なレベルでの気づきがある。気づく、ということは偉大だ。たとえ、頭ではわかっていた自分についてのことであっても、「体験として気づく」「実感を持って気づく」ということは、頭でわかっていることとは全然違う。セラピーでは、その気づきを言語化すること、セラピストと共有する。マインドフルネスでは「自分の体験として気づく」という感じ。自分はどんなことが好きか、どんな感じが心地よいのか、そういうことをひたすら自分に問うことも、マインドフルネスのワークを通してやっていたことだった。マインドフルネスを実践することも、スプリットからの自己治癒の過程になり得るのかもなぁ…と考えた。

やっぱり、心理療法やその背景にある様々な理論は、やはりいろいろな面でつながりがあるよな、と思った。今は、いろんな心理療法や理論が乱立してて、お互いにお互いをけなしたり、批判し合ったりしているけど、共通点も多いのでは?と思ってる。確かに言い回しとか、どのように人を見るか、という視点は違うかもしれないけど。要は、自分(セラピスト)にとってその心理療法の言葉遣いや方法が合っているか、とか、クライエントさんに合っているかどうか、という問題なのかな。。どれが一番、ということはないのかもしれない。私にはマインドフルネスが合っている気がするけど、他の心理療法や理論を勉強するのもとっても興味深い。

おしまい。


#カウンセリング #心理療法 #臨床心理学 #対象関係論 #マインドフルネス

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