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術後疼痛の推移、点ではなく線で捉える!



1.英文紹介

Chapman CR, Donaldson GW, Davis JJ, Bradshaw DH. Improving individual measurement of postoperative pain: the pain trajectory. J Pain. 2011 Feb;12(2):257-62. doi: 10.1016/j.jpain.2010.08.005. Epub 2011 Jan 15. PMID: 21237721; PMCID: PMC3052945.

2.目的

 急性術後疼痛(POP)は、時間の経過とともに消失することが大きな特徴であり、痛みの消失率は臨床的に重要である。しかし、従来のPOPの測定方法は、特定の時間帯におけるPOPの強さを単純に評価する安静時の痛みの測定に重点を置いている。この方法では、痛みの消失率やPOPの持続時間に関する情報は得られない。個々の患者の痛みのスコアを経時的にプロットすると、痛みの消失の単調な傾向、すなわち軌跡が明らかになり(回帰直線)、痛みの強さだけでなく、POPの変化率についても知ることができる。POPを単純な痛みの強さの点推定値ではなく、軌跡として(回帰直線)定義することで、痛みの評価の情報量が増え、測定精度が向上すると考えられる。
 この研究の目的は、個々の患者の手術後6日間のPOPの軌跡をモデル化(回帰直線)する方法を実証し、評価することである。POP計測の軌跡アプローチにより、患者を以下のように分類することができる。1)時間とともに痛みが消失する、2)時間とともに一定の痛みを維持する、3)時間とともに痛みが増大する。さらに、1)痛みの軌跡の測定精度が従来のNRS点数推定よりも優れていることを実証する、2)POP軌跡の個々の症例への適用を実証するなどである。

3.対象と方法

 手術患者711名を対象(260人:女、450名:男、年齢:18歳~84歳、中央値は46歳)のうち、502名が術後6日間にわたるNRSデータを測定した。手術部位は、腹部254名、背部45名、胸部47名、頭部・首74名、股関節64名、四肢248名、肩部30名であった。
 患者は毎日、0から10までの11段階のNRSを用いて痛みの評価を行った。6日間のNRSの痛みの強さの単純な線形プロット(回帰直線)は、根本的な痛みの軌跡を合理的に近似することができる。この単純な線形モデルでは、この軌跡は2つの重要な特徴を持つ。1) 切片=最初の痛みのレベル、2) 傾き=痛みの消失速度。個々の患者の痛みの軌跡の傾きを検討した。

4.結果

 平均的なPOPの軌跡を表示している。A:全体、B:負の傾きを持つ、C:平坦な傾きを持つ、D:正の傾きを持つ。

・Aは、平均して1日あたり3分の1の割合で痛みを解消された。
・Bは、平均して1日あたり半分以上の割合でPOPが解消された。
・Cは、6日間で全く痛みが軽減しなかった。
・Dは、平均して1日あたり約0.4ずつ痛みの増加を示した。
 6日間でのPOPの消失が予想される負の傾きを示したBは63%に過ぎず、CとDの37%は横ばいか正の傾きであった。
 POPの傾きと切片は逆相関し、r = -0.47 であった。つまり、始めに痛みが最も強かった患者は、始めに痛みが弱~中程度であった患者に比べ、1日に約半分の速度で痛みが解消する傾向があった。始めに痛みが小さかった患者は、痛みが大きかった患者に比べ、やや速い速度で痛みが増加する傾向があった。
 女性は、男性(平均NRS=5.39)よりも平均切片(平均NRS=5.77)が有意に高かったが、より早く痛みが減少した。女性の平均スロープは-.347であったが、男性では-.287、P = 0.0005と有意差を認めた。高齢患者では、切片は有意に低く(P < .0001)、傾きは有意に高く(P = <.0001)、年齢が高くなるほど術後の疼痛解消の速度が遅くなることが示された。若い患者は手術直後により多くの痛みを訴えたが、より早く痛みを解消した。 

5.興味深い点

 疼痛の評価として、臨床で使用されるNRSは、最も一般化されている痛みの評価方法でもあるが患者の痛みの推移を正確に捉えているものではない。痛みの増減を点ではなく線として捉える方法が線形フィット(回帰直線)であり、これは、週あるいは月ごとにその患者の痛みを包括的に捉えることが出来る。痛みに対して、理学療法を行い介入前後のアプローチで即時効果として、痛みの増減を評価する事も大切であるが、回帰直線で捉えることで中・長期に痛みの改善が図れているのかを確認する評価としては適しているのかもしれない。

 


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