エネルギー代謝(ATPの合成)

エネルギーの合成

ヒトは筋肉を動かしたり、神経の伝達をするときにATP(アデノシン3リン酸)というエネルギーを使っています。そのATPはどうやって作られるのでしょうか

1. クレアチンリン酸系

  • 概要: 筋肉の中に存在するクレアチンとATPとの間のリン酸基の高速な移行を利用する。主に短時間の高強度の運動で利用される。

  • ATP合成: 1分子のATPが直接再生される。

  • 代謝産物: クレアチンリン酸がクレアチンとリン酸に分解される過程で、ADPとリン酸が結びつき、ATPが再生される。

2. 解糖系

  • 概要: 糖質が解糖を経てピルビン酸や乳酸に分解される過程。

  • ATP合成: この過程で2分子のATPが損失されるが、4分子のATPが合成されるため、ネットで2分子のATPが得られる。

  • 代謝産物: ピルビン酸(酸素が十分に供給される条件下)または乳酸(酸素が不足する条件下)。

3. TCAサイクル(クエン酸回路)

  • 概要: ピルビン酸がアセチルCoAに変換され、その後一連の酵素反応を経てCO₂とNADH、FADH₂を生成する。

  • ATP合成: このサイクルの直接の産物としては、1回のサイクルで1分子のGTPが生成され、これがATPに変換される。

  • 代謝産物: CO₂、NADH、FADH₂

4. 電子伝達系

  • 概要: ミトコンドリアの内膜に存在する複数のタンパク質複合体を通じて、NADHやFADH₂から電子が移動する過程。最終的に酸素と結合して水を形成する。

  • ATP合成: NADHから約2.5分子、FADH₂から約1.5分子のATPが合成される。

  • 代謝産物: 水

1分子のグルコースエネルギー代謝

1. 解糖系

  • ATPの消費: 2 ATP

  • ATPの生成: 4 ATP

  • ネット: 2 ATP

2. TCAサイクル(クエン酸回路)

  • ネット: 2 ATP (1分子のグルコースから2分子のピルビン酸が生成され、それぞれのピルビン酸がTCAサイクルで1 ATPを生成するため)

3. 電子伝達系

  • NADHの合計: 解糖系で2 NADH、ピルビン酸からアセチルCoAへの変換で2 NADH、TCAサイクルで6 NADH。合計で10 NADH。

  • FADH₂の合計: TCAサイクルで2 FADH₂。

  • NADHからのATP生成: 10 NADH × 3 ATP/NADH = 30 ATP

  • FADH₂からのATP生成: 2 FADH₂ × 2 ATP/FADH₂ = 4 ATP


合計: 解糖系(2 ATP) + TCAサイクル(2 ATP) + 電子伝達系(30 ATP + 4 ATP) = 38 ATP

脂質代謝 - 長鎖脂肪酸のβ-酸化

脂肪酸の代謝は主にミトコンドリア内でのβ-酸化を中心に行われます。

1. 脂肪酸の活性化

脂肪酸は細胞質で脂肪酸と共役することで「アシルCoA」に変換される。この反応には2分子のATPが消費される。

2. アシルCoAのミトコンドリアへの輸送

アシルCoAはカルニチンを介してミトコンドリアの内膜を通過し、再びアシルCoAへと変換される。

3. β-酸化

ミトコンドリア内で、アシルCoAは繰り返しの反応を経て、2炭素単位で切り詰められていきます。この過程で、NADHとFADH₂がそれぞれ1分子ずつ生成される。

ATP生成

  • NADHからのATP生成: 1 NADH × 3 ATP/NADH = 3 ATP

  • FADH₂からのATP生成: 1 FADH₂ × 2 ATP/FADH₂ = 2 ATP

  • ネット: 5 ATP/2炭素

4. アセチルCoAのTCAサイクルへの参入

切り詰められた脂肪酸はアセチルCoAとしてTCAサイクルに参入し、さらなるエネルギーが得られる。

例として、16炭素のパルミチン酸を考えると:

  • β-酸化の繰り返し回数: 7回

  • 生成されるアセチルCoA: 8分子

  • 生成されるNADH: 7分子

  • 生成されるFADH₂: 7分子

  • ATPのネット生成: (7回 × 5 ATP/回) + (2 ATPの初期消費) = 35 ATP

  • アセチルCoAからのATP生成: 8アセチルCoA × 12 ATP/アセチルCoA = 96 ATP (TCAサイクルと電子伝達系でのATP生成を含む)

パルミチン酸の完全酸化による合計ATP生成: 35 ATP + 96 ATP = 131 ATP

ただし、この131 ATPという値は理論的なものであり、実際の生体内での値は異なる可能性があります。

ネット

「ネット」とは、特定の過程や反応の最終的な結果や収益を示す言葉で、入力や消費される量を考慮した後の残りの量を意味します。エネルギー代謝の文脈では、生じるエネルギーや物質(例:ATP)の総量から、その過程で消費されるエネルギーや物質の量を引いた残りの量を指します。

例として、グリセリンの代謝において考えてみましょう。グリセリンからピルビン酸への変換で2ATPが生成されますが、最初のグリセリンのリン酸化のステップでATPが1分子消費される場合、ネットのATPの生成は1分子となります。

同様に、グルコースの代謝に関しては、グルコースが解糖系を通じてピルビン酸に変換される過程で4ATPが生成されますが、その過程の初期に2ATPが消費されるため、ネットのATP生成は2分子となります。

「ネット」という言葉は、経済やビジネスの文脈でもよく使われ、収益や利益などを示す時に、総収入から全ての費用や支出を引いた残りの金額を指すことが多いです。

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