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音楽と幸福(well-being)に関する一考察 前編

 ピティナ音楽研究所音楽教育研究室研究員の石川裕貴です。先日、11月5日(土)に、第53回日本音楽教育学会にて口頭発表を行いました。発表題目は『「well-being」としての音楽教育の一考察:R.M.シェーファーの「サウンド・エデュケーション」を切り口として』ということで,ここでは,前半で「well-being」ついて,後半で「サウンド・エデュケーション」について,簡単に紹介したいと思います。

1.「well-being」とは

 近年,いたるところで「well-being」という用語を耳にするようになりました。これは,「持続する幸福」に焦点を当てた概念で,1947年に採択された世界保健機構(WHO)憲章前文では,人生全体を評価した時,身体的,精神的,そして社会的に健康で満ち足りている状態を表しています。

図1 「well-being」とは

 また,2019年に経済協力開発機構(OECD)が公表した「The Learning Compass 2030(「ラーニング・コンパス」)においても,未知なる環境の中で,子どもたち一人一人が,自ら進むべき方向を見出すために学ぶ目的として,「well-being」を掲げています。

2.OECDの「well-being」

 OECDは,経済的な側面だけでなく,「社会とのつながり」や「環境の質」などの「生活の質」(Quality of Life)の向上が,「well-being」の追求において重要とされています。

図2 「well-being」のサイクル

 また,「well-being」は,子どもたちだけでなく,教師や家族,そしてコミュニティと共同しながら,共通の目的地として向かっていくものとして提示されています。

図3 「well-being」の追求

 このことから,これからを生きる子どもたちに必要な「well-being」とは,単に教科書の暗記や問題集の反復による知識・技能の習得だけでなく,子どもたちが教師や家族,コミュニティとつながり,共同しながらより良い「社会のつながり」や「環境の質」について考え,実践していくことだと考えられます。
 そこで,「社会とのつながり」や「環境の質」に着目した「well-being」を追求する音楽教育プログラムとしての「サウンド・エデュケーション」を実践し,子どもたちの変容を考察しました。
 後半では,「サウンド・エデュケーション」について,そして実践とその結果について,まとめたいと思います。


【引用・参考文献】

  • Organization for Economic Co-operation and Development (OECD) (2019). Learning Compass 2030 concept note. https://www.oecd.org/education/2030-project/teaching-and-learning/learning/learning-compass-2030/OECD_Learning_Compass_2030_concept_note.pdf (accessed August 30, 2022)

  • R.M.シェーファー,今田匡彦(2009)『音さがしの本:リトル・サウンド・エデュケーション』春秋社.

  • The RL Mace Universal Institute (2018). Principles of Universal Design. http://udinstitute.org/principles.php (Accessed August 30, 2022)

  • 外務省(2022)CONSTITUTION OF THE WORLD HEALTH ORGANIZATION. https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000026609.pdf (accessed August 30, 2022)

  • 菅裕(2021)「コロナ感染症対策下での音楽科授業についての調査:音楽科教員は何に困り,どのように対応したのか」『音楽教育実践ジャーナル』vol.19,pp.25-34

  • 文部科学省(2018)『中学校学習指導要領(平成29年度告示)解説音楽編』


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