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小説などの編集を目指している人に読んでもらいたい話

小説編集などを目指している人にはぜひとも考えてもらいたいことがあって、いつもの通り書いてみることにした。

市場環境を知ってほしい

市場環境をまずは理解してほしい。と思う。

上は出版科学研究所が出している出版統計。
これによると、2022年の出版物の販売金額は、電子含めてで16,305億円。

で、同じサイトに「書籍の出版統計」もあるので、それを見ると、2022年は6,497億円で、これは紙出版の分となる。
ちなみに20年前の2002年はグラフから見るに9,400億ほどだろうか。
つまり紙書籍はこの20年でほぼ2/3にまで減って、1次関数的に減少中となっている。

同じく電子出版のグラフを見ると電子出版の中のコミック、雑誌以外の書籍は2002年は数字が出てないが、おそらくほぼゼロで、2022年は446億円と増えているように見えるが、それほど増加率は高くなく、なんなら2021年から2022年にかけては449億円→446億円とすでに微減になっている。

そして、もうひとつ大事なものが刊行点数で、明確にコミックを除いての数字は取りにくいのだが(漫画は流通上、雑誌扱いも書籍扱いもある。)ザックリみてみると、2000年:65,065点→2021年:69,052点。流れとしては一時70,000点を超えてから下がった格好。増加率としては大した数字ではないようにも見える。(総務省「日本の統計」https://www.stat.go.jp/data/nihon/index2.html>2009と2023より)
同統計を「文学」ジャンルで見ると、11,484点→12,071点と事実それほど変わっていない。
ただし、先に述べた通り、販売金額は2/3くらいに下がっているので、1点当たりの販売はそれなりに落ちているのは想像してもらえると思う。

もちろん、販売金額における新刊の割合がどうなのか? など統計的には突き詰めていける部分はあるが、実感として、過去文庫の新作、全く新しい著者の新刊が初版20,000部位から始められたものが、もう初版10,000部すら作れない感じになっているように思う。

もはや「小説を読む」のはマイナーな趣味

書いてきた市場を見てもらえるとわかるが、もはや小説を読むのはマイナーな趣味になっているように思う。
残念ながら、ある程度は探してみたが、漫画と小説を区分して趣味などの人数とか平均利用時間などを可視化しているデータは見当たらなかった。
なのでこれは感覚的なことしか言えないが、メジャーな趣味ではないという感覚はあるし、少なくとも映画や動画が好きという人のほうが人数多いように思う。
さらに、今の文庫読者のメイン層は50~60代あたり、という点にも注目するべきだ。この先、文庫などでお気軽に小説を読む人は、15年後までにガクっと減ることを意味する。
つまり、今後ますます、本は限られた趣味人に向けた商品になっていく。ライト層がいなくなった領域は徐々に先鋭化し、高級化し、それがさらに新規層の参入を難しいものにしていく。それはもはや避けようがない。
海外に別の市場を求めることも可能ではある。ただ、障壁はそれなりに大きい。文章、出版は基礎的な文化であり、アニメ、ゲームよりさらに各国の法的な参入障壁は高く、文化的にも、そして日本語というマイナー言語による障壁もある。その道はそれほどたやすくはない。

先鋭的な趣味人に向けた読書体験

なので、これから小説編集をやりたいという人は、少ない人にいかに高く買ってもらうか、小説という商品ではなく、読書体験というサービスをどう買ってもらうか、そういったことに心血を注いでいく必要がある。
編集が編集だけやって本というマテリアルだけ作っていればよかった時代はもはやとうに終わっていて、小説を読んで得られる時間の付加価値をいかに上げていけるかを考えなければならない。
そこを認識して、考えていってもらいたいと切に願う。業界の末席にいた身としても、いち読書人としても。

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