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奇跡の出会いは本当にある! 4

ヨンウン氏に連れられて、大学路にある劇団「ハクチョン」に向かった。韓国の大学路にはさまざまな劇団の箱がある。その中でも4千回のロングラ公演を成し遂げているのがハクチョンの「地下鉄1号線」だ。今や韓国を代表するような、例えばチョ・スンウ、ファン・ジョンミン、キム・ユンソク、チャン・ヒョンソンなど、名前はわからなくても、韓国映画やドラマを見た事がある人なら「あ〜!あのひと」と、わかるような俳優がこのミュージカル出身というのもうなずける。(私も実際に観るまではそんなこともつゆ知らずだったが)

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彼が途中コンビニで差し入れのドリンクを買った。
わかる!私もよくやる。「これが一番いいです!」そう言いながら重いドリンク2パックを軽々抱えて歩きだした。また少し距離が近くなった。
慣れた感じで楽屋に入って行くと、皆の視線が一気に集中。若い女性俳優から「オッパ〜!」男からは「ヒョン!」と歓迎されていた。私のなんちゃって韓国語で聞き取ると「お久しぶりです!元気でしたか?あの女性はだれ?日本人?」と質問攻めにあっていた。
彼の返事は「日本の友達だよ」と一言。
友達って。今日はデートなのに?私は一人心の中で不機嫌になった。彼はただ事実を述べただけなのに。彼からすればまだ「友達」にもなってないというのにだ。

劇場はとても小さく、その分すごくライブハウスみたいな一体感があった。これはロックミュージカルなので、生演奏も舞台の要になっている。しかし、席が何故か上下だ。私が下、彼が上。ふつう一緒に行けば横並びじゃないか?不思議に思っていたら彼から「変な席ですみません。実は一番前の席を取ってくれてたんですけど、俳優たちはボクのこと知ってるので前の席だと彼らがやりにくいと思って、それとここからだと字幕が一番良く見えるんです。」との説明があり真意が伝わった、ありがたい。

地下鉄1号線の「ある一日」に繰り広げられる人間模様を描いている作品だった。そこに描かれているのは昔のソウルの現実。娼婦、違法露天商、不法就労外国人、物売り、ホームレスなど社会の底辺で生きる人々が個性豊かに、面白く、そして哀しく描かれていた。
見終わったら泣いていた。とてもいい内容で、感動していた。
そんな私に彼は「ミュージカルの内容わかったんですか?一回観ただけで?」
「え?わかりましたよ、だから感動しました。誘ってくれてありがとう」
「ボクは演奏してたけど、三回見てやっと深くわかったのに、すごいですね」と褒められたようなそうじゃないような、妙な気分になった。

帰りは出演者全員が並び、お見送りしてくれる、ファンにはたまらないサービスぶり。彼が照れくさいからと、一番最後に出た。また打ち上げに誘われていたから「私はいいですから、皆と打ち上げに行ってください。」とすすめたが「美味しいチヂミを食べましょう。彼らとはいつでも飲めるけど、ケイコさんとはいつも飲めないから」と気づかってくれた。

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チヂミ屋さんはすぐ近くにあった。海鮮チヂミを注文して、憧れのヤカン入りマッコリで乾杯した。マッコリが美味しすぎる!止まらない!あまりに飲む私に「もう少しゆっくり飲んでください。マッコリは後で足にくるから」と取り上げられた。

今日1日付き合ってもらったお礼を言いながら、自分でも驚くほどに楽しかったことを伝えた。彼もそうだと言っていた。

この店に来るまでも、ずっと、話が尽きずお互いに話続けていたのだか、不思議なくらいに同じ経験や価値観だった。
「わかる、そうそう!」「ほんとですか?これも同じ」がほとんどだった。
例えば、彼がピアスをしない理由に、大きな輪っかのビアスをした人がいて、そのピアスに何かがひっかかり、耳がちぎれる現場を見たからだ。私は聞いた話だったが、内容は同じだった。

また、好きなバンドは?「ジャーニー」。年齢差があるのに聞いていた音楽は同じだった。彼には三人の兄がいて、その影響で音楽が好きになったらしいが、私も兄の影響だ。恋愛観も同じで、ひとりの時間がないとダメなタイプ。話せば話すほど、どんどんと距離が縮んでいった。

しかし、ここで私にとって、重大なことを聞いていなかったことに気づいた。絶対に私が譲れないポイント。

それはパンツである。

ズボンではなく、下着のパンツだ。私は白ブリーフが、大嫌いだ。あれを履いている時点でアウトだ。もし息子がいても子供の時から白ブリーフは絶対にはかせない!父も兄もつきあってきた男性も全てトランクスかビキニだった。別にヨンウン氏がブリーフでも私には関係ないけれど、ここまでジャストフィットしてきたから、確かめたかったのだ。

「ところで、どんなパンツはいてますか?」

愚問愚答である。しかし私にとっては重要事項。ごく当たり前のように聞く私に彼は一瞬驚いて、恥ずかしそうに赤くなっていた。「え?あ、パンツ、ですか?えっ~とですね~、こんなやつです。白はないです。」と手で三角を描きながら「ほら、レスラーがはいてるみたいな形の…」

よっしゃぁ〜!合格 ! 
私の中で一気に距離がなくなった。(←何基準なんだ)

「そんな事聞くか?」と怒られてもしかたないような事なのに、彼は笑い飛ばして「びっくりしました、そんなこと聞かれると思わなかったので」と言っただけだった。ますます盛り上がる、楽しすぎる。マッコリの力も借りてはいたけれど、こんなに笑って話すのはいつぶりだろう?
国も違えば言葉も違う、育った環境も年齢も違うのに、ここまで気が合うなんて。お互いに「親が同じだったりして」「前世で一緒にいたかも」と冗談を言っていたが、何よりも”楽だった”のだ。まぁ、お互いに好かれようとすることもなく、ありのままの自分をさらけ出していたのが良かったのかもしれない。
時間の事はすっかり忘れていた。すでに12時を回っている。明日10時の飛行機に乗らないとだめなのに。。。だけどまだ帰りたくなかった。彼は明日の出発時刻を知らない。
「もう一軒だけ行きましょう」その言葉に「行きましょう!」とワクワクしながら応えていた。

その日は本当に寒い日だった。私はダウンコートを着ていたが、それでも寒かったのを覚えている。彼はロングのニットコートを着ていただけだった。信号を渡るとき組んでる腕に振動を感じた。不思議に思い彼をみるとガクブルで震えているではないか!そりゃそうだ。いくら寒いのに慣れているとはいえ、極寒にニットのコートは無理だ。
「寒いの?大丈夫?」と声をかけたが、ガクブルしたままで「だ、ダイジョブです」と微笑む顔まで凍り付いてる。その光景がおかしくて思わず吹き出して笑ってしまった「プハっ!かわいい人」
一瞬で恋に落ちた。

走って近くの居酒屋へ。ここも彼の行きつけの店のようだった。
走ったのが効いたのか、いきなりすごい酔いが来た。眠くてしかたない。
適当に注文してもらったが、スープが辛すぎて飲めない。彼は店員さんに「この人は日本人だから、この辛さは無理だ。作り直して」と頼んでくれたけど、それを飲む元気もない。とにかく眠い!マッコリのせいだ。話していても半分話が入ってこない。
「いつ日本に帰りますか?」
「明日、いや、今日10時の飛行機に乗って帰ります。」
「え?朝に帰る?」
「はい」
でも本当は帰りたくなかった。もっと一緒に居たかった。
「一緒に居たいなぁ〜」思わず口から出ていた。
「ボクも…。一緒に居ましょう。宿にいってボクが朝起こしてあげますから、ゆっくり寝たら?」
「うん、でも私の宿は他の人は泊まれないの」
と言ったところまでは覚えているが、ちょっと記憶が途切れている。
少し眠ったようだった。目覚めるのを待ってたように彼は
「タバコを買ってくるから、ちょっとここで待っててください。
一人だから今は寝ないで、危ないから」と言い残して出て行った。
危ない?たしかに、こんな夜中に日本人の酔っぱらいの女ひとり、いいカモである。人目につきにくい奥の席に座って待っていた。でもやっぱり眠い。
彼は走って帰ってきたみたいだった。息を切らせている。
寝ている私の横に座り、息を整えているようだった。私は気づかない振りをした。すると彼は私の手の上に、握るでもなくそっと自分の手を重ねていた。「あ〜、優しくてあたたかい」手のぬくもりが心まで届いた。


つづく





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