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路上ミュージシャンのカラス

ここのところ、マンションの階段にカラスがよく来ます。

なぜだか時間が決まっていて、だいたい朝の10時くらいに来る。我がマンションは毎日8時にゴミの収集があり、ゴミ箱の付近は綺麗にもぬけの殻になるので、荒らすことが目的ではないらしい。

何をしているかというと、階段の欄干に留まって、時どき思い出したようにカアカアと鳴くだけ。いつも1羽で来ていて、仲間を連れているのを見たことがない。

野鳥というのは基本的に群れていることが多いと思うのですが、こいつは常にソロ行動。ぼっちなのか、単純におひとりさまのほうが落ち着くのかはよくわからんが、今日もただただ鳴く。

この鳴き方がまた、叙情的というか、謎のペーソスを孕んでいるというか、カラスは基本的に害鳥だと思っているのでできるだけ近くに来んなというカラス敵対派の自分でも、いや、少し落ち着いて考えてみようじゃねえか……、という気分にさせる。

決して、かわいい鳴き声ではありません。セキセイインコの場合は、甘え鳴きといって、飼い主さんに構ってほしい時に甲高い声で鳴くことがありますが、あんな愛嬌のある感じではない。  

ただただ低く男らしいバスボイスで(実際はメスなのかもしれんが)、何分かに一度の割合で鳴く。

最初の頃は、朝っぱらからうるせーと思っていたのですが、こんなにも毎日のように同じ行為を繰り返すのは、この地になんらかの感情を持っているのかもしれないと思うようになりました。

そして、朝しかおらず、昼が近づくとどこかに消える。

よく、アニメの場面転換で、夕方にカラスの群れがカアカアと飛んで時間の経過を表す演出がありますが、あのように、カラスというのは夕方に鳴く鳥という印象があるのですが、実際のところ、あいつらの生活時間帯ってどうなっているのだろう。  

ところで、我が実家では、セキセイインコのピッピたんが、完璧で究極のアイドルとして金輪際あらわれない一番星の生まれ変わりとして愛でられています。

うちで飼うインコとしては2代目ですが、初代の子にとてつもなく似ているので、たぶん本当に生まれ変わり。

初代の子はおとなしかったのに対して、今の子はわりとやんちゃですが、睡眠に関しては良い子で、常に早寝早起き。

和室の隅っこが彼の寝床ですが、夜の8時以降にこの部屋の電気が点いていると怒る。朝は6時には必ず起床。たまに太陽が昇るよりも前に起き出して「もっと寝ろ」と言われていることもある。

とにかく朝という時間が好きなようだ。

逆にフクロウなんかは夜行性であることで有名ですが、鳥によって自分のペースでの活動時間帯があって、元気に動き回る時間とボーッとする時間とのサイクルで生きて居るのでしょう。

あのカラスは、何時ごろに起きて、何時ごろに寝ているのだろう。

10時にはあそこにいるということは、塒がどこなのかは知らんが、それ以前には起きて、どこだかからはるばるとやってくるのだろう。毎朝のように。

野生のカラスには出勤時間という概念はなかろうが、あいつにとっては無意味にマンションの階段に来てカアカアと鳴くことが出勤に近いのかな。

誰も一銭もくれないし、餌付けしている住人もたぶんいないので御褒美ももらえない。だけど、毎朝のようにカアカアと鳴くのが勤務。

ここでふと思いましたが、あいつは鳴いているのではなく、歌っているのかもしれない。よく路上で見かける弾き語りミュージシャンと同じ。

ほとんどの通行人は足を止めることなく通りすぎていくが、ただただギターを片手に弾き語る。

京都の河原町には、昔から有名な「長渕おじさん」という方がいて、ひたすら長渕剛さんの曲を弾き語っているのですが、そのおじさんのようなことを、あのカラスはやっているのかもしれない。

人間界ではその手の弾き語りミュージシャンが現れるのはだいたい夕方以降だが、鳥界では朝がいちばんアツい時間帯なの……かも。知らんけど。

オーディエンスが全然いないから、公園とか駅前に行ったほうがいいよとアドバイスしたくなるも、なんらかの意志があってここをステージに選んでいる可能性もあるので、とやかくはいえない。

しかし、その鳴き声には不思議な悲しさが溢れている。きっとカラオケの十八番は欧陽菲菲さんの『ラブ・イズ・オーヴァー』……。だとしたらあのカラスは還暦くらいの年齢だが。

あのカラスがわりと若いなら、あいみょんさんが好きそう。それもデビュー当時の暗いあいみょんさんが好きそう。

実際はどうなのかは不明だけど、別にゴミを荒らすわけでもなく、鳴くだけのカラスなので、マナーは良い。飼ってしつけたら愛情も湧くのではなかろうか。

だからといって、ピッピたんの数倍のサイズ飼えない鳥を飼うのは難しいし、間近に見るとけっこう威圧感があって怖いので、今くらいの距離感がちょうどいいかもなあ。

サウナはたのしい。