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時空警察NoT -Chapter 5/6-

「そろそろか」

受話器をカチャリと置いて、空島はタバコに火を点ける。ついさっき通報が入ったばかりにもかかわらず、現場に行かずにのうのうとしている。

タバコが半分ほどの長さにまで縮む頃、部署の扉を強くノックしながら、せわしなく千里が入ってくる。

「ぶぶぶ部長っ!たいへんたいへんたいへんたいへんたいへんたいへんたい!」

「はい。落ち着きなさい」

子供をあやすように、空島が軽く手を叩いて制する。千里が事情を説明しても、なんら表情を変えることなく、落ち着いたままだ。

「大丈夫、なんのことはない。私の言う通りにしなさい。思っていたよりも出番が早かったが、君たちには、これを貸しておこう」

そう言って、空島は棚の扉を開け、とんでもないものを取り出す。

それは、・・・まぎれもなく、拳銃だ。

「ここここここれは、あの、いわゆるひとつのピストル・・・?日本語で言うところのピストルですよね?こここここんなもの、扱えません!私は一般人!凡人ですので!ムリ!いや警察だからなんというか一般人ではないけど、能力もあるけど、でも私は一般人・・・あくまで一般人でしかないしがない存在でして、あの、その・・・」

目を逸らしてたじろく千里に空島は溜め息をついて、後ろに立っている光一へと視点を移す。

「・・・できません」

なんとか逸らしはしていないものの、光一の目も小刻みに震えている。

「さっきも言っただろう。慈善事業じゃないんだ。街の便利屋さんのフリをして、実態は裏ぶれた仕事だ。時には正当防衛として、こういった攻撃も必要だ。それができないというなら、君は時空警官に向いてない。転職先を探すんだな」

「くっ・・・」

唇を噛み締めながら、光一は拳銃を受け取る。小型で軽量な拳銃だが、ずっしりと重く感じる。

真っ昼間の、まばらな人通りの駅構内。ゆったりと時間が動いている。この数分後に爆発事件が起こるとは到底おもえない、平和な風景だ。

「あくまで、緊張感を周囲に見せずに歩くんだ」と言う空島の横に着いて、光一は平静を装って歩く。ものの数分で、通報を受けたオフィスへと辿り着く。

誰も通らないオフィスの階段で、藤木はじっと膝を抱えてうずくまっている。これから爆発が始まるという期待と、それと同時に自分も死ぬという恐怖で、頭が混乱しているのだ。

「君かね?高笑いをしていたとかいうのは?」

そっと背後から空島が近寄り、ポン、と肩を置く。

「け、・・・けいさつっ!?」

一瞬たじろいだものの、すぐに、ああさっきの高笑いのせいか、と納得する。これまでもよく補導や職務質問をされてきた。またその類か。やれやれ。でも、今のボクはさっきまでとは違うぞ。

藤木は空島の目を見ることなく、密やかに笑う。

「・・・復讐!復讐なんだ!お前も死ぬし、俺も死ぬ!俺とお前とアイツとアイツとアイツと俺と・・・フハハハハ!ハーッハッハッハーーーー!」

ダメだこりゃ、とばかりに空島は頭を掻く。

「とりあえず、ビル内であまり大声を上げるのはオフィスの人たちに迷惑だからやめなさい」

とたしなめ、更につづける。

「キミが復讐を依頼したのは、シルクハットに赤いリボンのニヤケ顔の男かね?何もない場所からいきなりテレポートして現れただろう?違うか?」

藤木は、再びたじろぐ。

「な、なんで知ってるんだ?ボクは誰にもバラしてないのに!」

「こう見えても、私は普通の警官とは違って能力者なのでね。この程度の透視はいつだってできる」

「ぐっ・・・」

藤木にとってもだが、光一にとっても、なぜ空島がここまで推理できるのかさっぱりわからない。

「空島部長、透視ができるんですか・・・?」

「いや、できない」

「え?じゃあ、なぜ?事の経緯が全部わかったんですか?彼は何も話してないのに」

「指名手配中の、とあるテロ愉快犯の仕業だよ。毎回のようにこんなふうに、誰かに復讐行動を持ちかけるパターンなんだ。今までに何度も爆発事件未遂を起こしている危険人物だ。見つけ次第、銃殺。それでかまわない」

「しかし・・・!」

「フハハハハーーッ!フハハハハーーッ!」

噂をしていると、3人の頭上から「シルクハットに赤いリボンのニヤケ顔の男」、が降りてきて、おどけた声で話し出す。

「おやこんにちは、警官さん。空・・・なんとかさん、でしたっけ?」

「・・・滑稽な奴だな。マンガみたいな良いタイミングで出てきやがって」

「あはははは!全部が全部、遊びですから。遊びは楽しく愉快でテンポ良く。まあ今回は新人さんへの自己紹介ってことで、サクッと手短に済ませようと思っていますよ」

「わかった、わかった。私は帰るよ。別件があるからね」

唐突に背を向けて引き返そうとする空島に、光一は戸惑う。

「えっ?ちょっと待ってくださいよ!彼を止めないんですか?」

空島はのんきな表情で、光一が小脇に抱えている拳銃を指差す。

「それがあるだろう。見た目は頼りないが、一撃で殺せる。しかも、相手は止まってくれている。すぐに任務は終わるぞ」

そのセリフとかぶさるように、「相手」がニヤニヤと笑い出す。

「ふふっ・・・。ええ、止まったまま、ここから動きませんよ?その引き金をひけば一発です。爆発なんてイヤでしょう?今なら簡単に止められますよ。さあ!ぜひ!どうぞ!」

何の動揺もなく、自分を殺せと煽ってくる。しかし、そう簡単に引き金はひけない。

「・・・テロ犯だとわかっていても、銃殺は・・・できない・・・』

「ふん。とぼけた平和主義者ですね。さすが、お国に仕える方は強い正義感をお持ちだ」

「うるせえっ!正義感とかじゃねえ!ただ単に、分かり切ってる未来に従いたくないだけだ!」

「ふふふ。少年マンガみたいですねえ……。そういうの、嫌いじゃないですよ。でも私は露悪家の変態なのでね。さあ、撃ってごらんなさい。それで万事は解決だ。私は死がまるで怖くない。世の中は戯言でできているのでね」

「何がアンタをそうさせるのかわかんねえけど、ここで逝ってもなんもならねえぞ」

そう言いつつも、まだ指は震えている。

午後3時42分。彼を殺さなければ、もうすぐこの駅もろとも爆破され、大惨事を呼んでしまう。しかし、だからといって・・・。

「さあ、もう時間がありませんよ?どうします?」

光一は、引き金を思い切り引き、覚悟を決める。

「・・・・さようなら」

Chapter 6/6につづく

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サウナはたのしい。