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おねだり

ユメちゃんは、お出かけしてるのかな?

もう、窓の外はけっこう暗いけれど、まだ帰ってこない。また、この前みたいに、お母さんに叱られちゃうよ?早く帰ってきて、ボクと遊ぼうよ。ねえねえ。

いつもみたいに、ボクを抱いてくれて、ボクに話しかけてくれて、ボクを投げたり、ボクを叩いたりしてよ。

あ、お母さんが、こっちの方に来た。ねえねえお母さん、ユメちゃん、帰り遅いよねえ、うんと叱らなくちゃいけないよねえ、お母さん、テンション低くない?……あ、行っちゃった。そうだよね。

あ、お父さんが帰ってきた。あんまり見たことないし、ボクにあんまり興味ないみたいだから普段は絡みないけど、お父さんもなんだか、テンション低くない?ねえねえ、いつもよりタバコたくさん吸ってない?…………答えてくれないよね。そうだよね。

ボクと会話ができるのは、ユメちゃんだけ。ユメちゃんの口癖は「テンション低くない?」

何日か経ったけれど、ユメちゃんは帰って来なかった。

なぜだか、お父さんとお母さんは、ユメちゃんの写真を探していた。いろんなことを長い時間、話していたけれど、ボクには、ユメちゃん以外の言葉はわからないから、よくわからない。でも、ひとつだけ、わかったこと。

その中で、ボクを抱きしめたユメちゃんの写真を、お父さんもお母さんも、同時に見て、「泣く」しながら「笑う」している。

「泣く」「笑う」「おねだり」は、ユメちゃんが教えてくれたけど、「泣く」と「笑う」が一緒にできるのは知らなかった。ねえそれ、もしかしてユメちゃんが、お父さんとお母さんに、そうするように「おねだり」したから、なの?

ボクを買ってくれたときも、おもちゃ売り場で「おねだり」したんだよね。「泣く」ことをしながら。そして、その日の夜はずーっと、ボクを抱きしめながら「笑う」しながら眠ったよね。

ボクの「おねだり」も聞いてよ。ねえねえ、起きてきて、「テンション低くない?」って言ってよ。


#第1回noteSSF #ショートショート

サウナはたのしい。