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アシックスをDCF法でざっくりバリュエーション

今回はアシックスをバリュエーションしてみます。

●会社概要

競技用シューズを中心とするスポーツ用品メーカーです。

バスケットシューズの製造販売から始まった会社です。筆者はバスケットをずっとやっていましたが、アシックスのバッシュはちょっと高めの価格帯で、周りにいた年配の人達は結構履いていました。日本人の足に良く合うようです。筆者が学生の頃は、スニーカーブームでナイキのバッシュ(特にジョーダンシリーズ)が人気だったと思います。ちなみに現在は、中国メーカーのリーニンのウェイドモデルのバッシュを持っています。

アシックスのウィキペディアのページを見ると、ナイキは元々、アシックスが販売していたオニツカタイガーというランニングシューズの販売代理店からスタートしたということだけが書かれていましたが、以前読んだ本で、アシックス側がナイキとの代理店契約を切ったために、フィル・ナイトが自分たちでシューズを開発することになった、ということが書かれていました。(バーバリーやナビスコの文句言えないですね。。。)ちなみに、ナイキは資金難に陥った時に日商岩井(現:双日)に助けてもらい、現在も双日が大株主にいます。ナイキは日本との縁が深いですね。

・スポーツシューズが売上高の80.7%、346,080百万円

・スポーツウエアが売上高の14.4%、61,606百万円

・スポーツ用具が売上高の4.9%、20,808百万円

・国内売上高23.6%、海外売上高76,4%

イメージと違って海外での商売が大きいです。海外でのシューズ販売が、全売上高の半分以上を占めている状態です。上記で出てきたオニツカタイガーが欧米で人気あるというニュースを見たことがあります。

海外の売上高が大きいと、決算時の数値は為替の影響が大きそうですね。ただ決算のために円に換算しているだけで、基本的には現地で現地の通貨でやりとりされているだけという認識が大事かなと思います。

●DCF法を行う準備

まず2011年12月期〜2015年12月期までのBS・PL・CFの数値を、有価証券報告書・決算短信からexcelシートに落とし込みます。

※今回は2016年12月期以降を将来としてバリュエーションしています。2015年12月期は決算短信から参照しています。有価証券報告書が開示されたら、再度バリュエーションしてみたいと思います。

excelシートに落とし込んだ情報から、過去の業績を分析していきます。

●投下資本

短期有利子負債:短期借入金 + リース債務
長期有利子負債:社債 + 新株予約権付社債 + 長期借入金 + リース債務
運転資金:受取手形及び売掛金 + 商品及び製品 + 仕掛品 + 原材料及び貯蔵品 − 支払手形及び買掛金

負債ベースの投下資本のほうが、資産ベースの投下資本より500億円〜700億円ほど多いです。2015年12月度で見ると、「現金及び預金」が520億円ほどありますが、これを遊ばせておいてしまっているのでしょうか?「その他」の264億円も大きな金額できになる所です。

●資本コスト

株式の時価総額は、2016/3/4の株価から算出しています。

株式コストについて、

・リスクフリーレートは、10年物の国債の利回りがマイナスになったりしているので0%に設定します。

・マーケットリスクプレミアムは、一般的であるらしい6.5%を使用しています。最後にこれをいじっていくつかのパターンの株主価値を算出します。

・ベータはブルームバーグから参照しています。

・上記からCAPMの公式より、株式コストを7.05%とします。

CAPM : 株主資本コスト=リスクフリーレート(0%) + β(1.08)×リスクプレミアム(6.5%)=7.05%

・有利子負債コストは、2014年12月度の有価証券報告書に記載されていた利率で大きめの利率を採用しています。

・税率は、2015年12年度の決算短信に記載されていた税効果会計適用後の法人税等の負担率の税率を採用しています。

そして、現時点(2015年12月度)の資本構成の有利子負債と株式の時価総額を加重平均し、WACC(加重平均資本コスト)を求めます。

rE = 株式コスト 
rD = 負債コスト
D = 有利子負債の合計
E = 株主資本の額 = 時価総額 
T = 実効税率          
WACC : [rE × E/(D+E) ] + [rD×(1-T) × D/(D+E)]

7.05% × 419,887百万円 ÷ (57,485百万円 + 419,887百万円) + 1.5% × (1-26.3%) × 57,485百万円 ÷ (57,485百万円 + 419,887百万円) = 6.33%

●リターンとフリーキャッシュフロー

NOPLAT = 営業利益 × (1 − 税率)
ROIC(負債ベース)= NOPLAT/負債ベースの投下資本
ROIC(資産ベース)= NOPLAT/資産ベースの投下資本
Spread(負債ベース) = ROIC(負債ベース) − WACC
Spread(資産ベース) = ROIC(資産ベース) − WACC
Economic Profit(負債ベース) = 投下資本合計(負債ベース)× Spread(負債ベース)
Economic Profit(資産ベース) = 投下資本合計(資産ベース)× Spread(資産ベース)

今までバリュエーションしてきた企業と比較するとROIC(投下資本利益率)が低いですね。ROIC - WACCスプレッドもぎりぎりプラスを保っているという状態のようです。

●販管費の分析

わかる範囲での類推です。

2014年12月度の有価証券報告書から主に類推しています。

2015年12月度の変動費を54,288百万円、固定費を100,417百万円とします。

●DCF法によるバリュエーション

最後に将来のフリーキャッシュフローを予測し、WACCで現在価値に割り引いて企業価値を算定します。

※ここで使用するフリーキャッシュフローは、

営業利益 × 税率 + 減価償却費 − 運転資金の増加分 − 設備投資 ⇒ 事業そのものから最終的に生み出されるキャッシュ

過去5年間の業績に基づき、幾つかの仮定を設けて、今後10年間をざっくり予想します。

グロスキャッシュフロー = NOPLAT + 減価償却費
運転資金の増加分 = 前年度の運転資金 − 当年度の運転資金
設備投資 = 当年度の有形固定資産 + 当年度の無形固定資産 − 前年度の有形固定資産 − 前年度の無形固定資産 − 当年度の減価償却費
フリーキャッシュフロー = グロスキャッシュフロー − 運転資金の増加分 − 設備投資

<将来予測の仮定>

・2016年12月度は会社予想を使用する。

 売上 437,000百万円

 営業利益 29,000百万円

・売上高5000億円までは前年比10%増、6000億円までは前年比5%増、以降は前年比2%増で成長するものとする。

・売上原価は57.5%固定とする。(2015年12度の水準が続くものとする)

・販管費の固定費は、前年比1.0%増とする。(2016年12月度の会社予想から逆算して類推)

・減価償却の償却年数は9年固定とする。

・売上高の3.5%程度の金額を設備投資するとする。

以上の仮定をexcelに落とし込んだ結果が以下になります。

継続価値 = (10年目のフリーキャッシュフロー × (1 + 11年目以降のフリーキャッシュフローの成長率 )) ÷ (WACC − 11年目以降のフリーキャッシュフローの成長率)
現在価値 = フリーキャッシュフロー ÷ (1+WACC)^年数 (10年目の現在価値は、10年目のフリーキャッシュフローに継続価値を加算して算出)

最後に一株あたりの株主価値を算出します。

事業価値 = 現在価値の合計
余剰現金同等物 = 運転資金として使用しなかった現金同等物(運転資金がマイナスの場合⇒現金同等物を使用、運転資金がプラスの場合⇒現金同等物 − 運転資金)

アシックスは、現金同等物 − 運転資金がマイナスなので、余剰現金同等物をゼロとします。

企業価値 = 事業価値 + 非事業価値 = 有利子負債 + 株主価値

であるので入れ替えると、

株主価値 = 事業価値 + 非事業価値 - 有利子負債 - 少数株主持分

であることから、

株主価値 = 事業価値(309,108百万円)+ 非事業価値(0円)− 有利子負債(57,485百万円)− 少数株主持分(1,424百万円) = 250,199百万円

と算出されました。この数字は、株式全体の価値となります。

そして、

一株あたり株主価値(理論株価) = 株主価値 ÷ (発行済株式総数 - 自己株式数)

であることから、

一株あたり株主価値 = 株主価値(250,199百万円 )÷ (発行済株式総数(199,962,991個)− 自己株式(10,140,795個)) = 1,318円

と算出されました。

現在(2016/3/4)の株価が2,212円なので、-40%の乖離が発生しているということになり、現状は40%割高であるということになります。

ここで先ほど出てきたマーケットリスクプレミアムをいじるとどうなるか検証してみます。(WACCそのものを変更してみて検証するのも良いと思います。)

・10%にした場合・・・理論株価595円

・15%にした場合・・・理論株価234円

・20%にした場合・・・理論株価73円

となりました。

●結論

・現状の株価は割高で、今後事業が急成長し、株価に対して辻褄が合うキャッシュが生み出されることは考えにくいと思う。スポーツ用品メーカーの場合、契約している選手の影響が大きく、ナイキ・アディダスなどは、メジャースポーツのトップ選手との契約を取り合っているような状況で、そこにアシックスが入り込む余地は無さそうだ。(日本からメジャースポーツのトッププレイヤーが生まれれば急成長もありえるかもしれないが)去年くらいからアンダーアーマーの業績が良いというニュースを見る機会が多く、これはステフィン・カリーの影響が大きいと思うが、筆者はナイキ・アディダスが見向きもしなかった選手を、たまたまおこぼれで契約した選手が大活躍してしまったという「棚ぼた」だと思っている。アシックスで同じパターンができたら良いが再現性はないだろう。前向きに考えても、機能性を追求していくことでの低成長が続くだけだと思う。

・普通の(日本の中では)大企業であり、一発逆転のような事業も生まないであろうことから、既存事業の持続的な成長・資本効率の改善・資本コストの引き下げに注力することが、望ましい経営になると思う。

以上、少しでも参考にして頂けたら幸いです。

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