その空間にいた

能の先生が、空間の扱い方の初歩を教えてくださった。

「能では、こういうことをしているんですよ」

(詳細は先生にお尋ねください)


先生のおっしゃるように空間を扱ったら

(私、この舞台上にいていい人間だ)

自分の身が すっぽり舞台空間におさまった。

舞台空間を構成する1パーツになった。


私は、黒子になって人形という物を見せる表現だから表現活動をしているけど、
自分自身が舞台に出ろと言われたら絶対嫌な人間だ。

そんな事言われたら、そそくさと舞台を立ち去りたい。


それなのに、先生のおっしゃる事をしたら
オセロの白黒がひっくり返るみたいに平気になってしまった。

身をさらして舞台の上にいることが。


能面をつけさせていただいて、同じ事をした。

空間の扱いを変えると

私は老人になっていた。

芒(すすき)のおいしげる荒野にいた。

木枯しが吹いていた。

なんとなく、この人は死に場所を求めて彷徨っていることがわかった。


確かにその空間に居たんだ、私。

空間の扱いを変えただけで。

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