見出し画像

【読書感想文】未完の小説でも十分面白かった(1213字)

イギリスのペンギン・クラシックスに入っているジェーン・オースティンの作品集を読みました。読んだ本には、3つの中編が収録されています。”Lady Susan "は書簡体小説。手紙のやり取りを通して、悪女と言われるレディー・スーザンの性格や生き方が浮かび上がってくる構成が絶妙。スーザンの描き方が辛辣すぎる気もしましたが、それは20歳の女性の潔癖さから来るものかもと思いました。

二十歳の時に書かれたとは思えない完成度です。文章も整っており、冗長なところはありません。「よし、面白い小説を書いてやろうじゃないの」という若いオースティンの意気込みが伝わってきて、微笑ましい気がしました。

”The Watons"は、富や階級に惑わされずに生きるヒロインを描く小説。これは未完の小説です。的外れだと思うのですが、主人公のエマをオースティン自身に重ねて読みました。エマが自分の老いた父を気遣って、自分の家に留まることを決める場面は、胸に迫るものがあります。”Lady Susan "のような才気は抑えられて、主人公の心の動きがさりげなく分かるような、落ち着いた筆致です。

”Sanditon”は英の保養地を舞台にした未完の作品。この作品を書いたころ、作者は健康を損ねていたそうです。この作品が書かれた年にオースティンは亡くなります。心も体も苦しい状態にあったと思うのですが、それを感じさせない内容が見事です。

喜劇タッチで書かれており、読んでいて何度か噴き出しました。Sanditonという土地の特色が書き込まれており、オースティンの他の小説と違う雰囲気があります。もし完成していたら、後のシャーロット・ブロンテやエリザベス・ギャスケルの小説のような、社会的広がりを持った内容になったかもしれません。

上記の2編は未完ですが、十分楽しめました。完結したら、どんな小説になっただろうかと思いながら読みました。以前読んだオースティンの小説では気づかなかったのですが、dispositionという言葉が多く出てきます。いろいろな意味のある言葉ですが、オースティンの作品の中では、性格とか気質という意味で使われます。

読みながらこの言葉は、オースティンにとって大切なものだったのかもと思いました。当時の女性は、十分な教育は受けさせてもらえず、結婚だけが女性の幸せを大きく左右するものでした。そんな社会の中で、自分が持って生まれた気質は自分だけのもので、自分の努力で変えられるものです。

自分の気質を見極め、他人の気質にも気を配りながら生きることで、受け身にならず、主体的に生きられたのかもしれません。またオースティンの小説自体が、いろいろな人物の性格を丁寧に描き分け、そこから生まれるドラマを描いたものです。

この3編を読みながら、歴史に名を残している作家は自分が生きた時代の枠に押し込まれるのではなく、それを超えた普遍的なものを描こうとするのだと思いました。



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?