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【訳詩とエッセイ】生きている限り悩みは尽きない (751字)

数え切れないほどの苦しみの歳月を経験して  アーサー・ヒュー・クラフ

数え切れないほどの苦しみの歳月を経験した
繰り返し、繰り返し、また繰り返して
心と頭を振り絞って
なぜ私たちはここにいるのかと問う
事実をあちらこちらで集め
心の中でそれを整理して
そしてまだ現れていないものがあることを知り
最後の呼吸を恐れながら
青臭い結論を出す
目的と結果、そして法
それがここにいる目的なのだろうか?

この詩を”Short Poems " というオックスフォード大学から出ている詩のアンソロジーで見つけた時は、嬉しくなりました。昔の人もいろいろ悩んだのだと思います。現代人である自分と同じだと思いました。

作者は19世紀の人の詩人で、ナイチンゲールの献身的な助手だったそうです。42歳の若さで亡くなりました。200年以上も前の人の胸の中の想いが、直接自分の心に伝わってくるのが、詩の良さではないかと思います。

自分はなぜここにいるのかという問いかけは、どんな人でも持っているものでしょう。その問いの答えが分かることもあるでしょう。でも、それで悟りを開けるわけではありません。人生は続きます。

最初に読んだ時、詩の最後の部分は物足りない気がしました。でも、よく考えてみると、これは日本語で言う因果応報の事ではないかと思いました。自分でやったことは自分に帰って来て、それを受け入れるということです。最後の「法」は、一般的な法ではなく、キリスト教でいう神の法ではないかと思いました。

ただそれも絶対的な答えではなく、問いかけになっています。その点がこの詩の魅力の一つです。取り澄まして自分は生の真実にたどり着いたと思うより、確実なことは分からないままに、苦しみながら生きることが人間らしいと思います。作者のそんな生き方を、この詩は表現しています。

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