落語の話

三代目 桂米朝の噺

先日、人間国宝で戦後上方落語復興の立役者の一人である、桂米朝さんがお亡くなりになりました。

その時に、米朝さんの話を書こうと思ったんですが……、実は僕はあまり上方落語には馴染みがないんですよね。
北海道は、テレビで関西ローカルの番組もよく放映していて、僕も子供の頃から藤山寛美さんの「松竹新喜劇」や花紀京さんが座長時代の「吉本新喜劇」も観てましたし、お笑い番組もよく観てました。

その頃は上方落語も結構観てたような気がするんですが、僕の中では、上方落語=新作落語のイメージなんですよね。
その頃大人気だった、桂三枝(現、文枝)さんが新作落語の人だったからかもしれません。


逆に、上方の古典落語は、あまりテレビで見た覚えがなくて、米朝さんもテレビでタレントや司会として登場してるのは覚えているんですが、高座で落語を演じてる姿ってほとんど記憶にないんです。

関西では戦後、上方落語自体が滅びかけていたらしく、その伝統を守ろうと、6代目笑福亭松鶴、3代目桂小文枝(後の5代目桂文枝)、3代目桂春団治、そして米朝さんの「上方落語四天王」が東奔西走して尽力した結果、現在の隆盛に繋がったんだそうです。
中でも、米朝さんと松鶴さんの功績は誰もが認めるところだそうですね。

また、米朝さんは落語研究家としても有名で、文献を調べ、古老に聞き取り調査をしながら、「算段の平兵衛」「風の神送り」「矢橋船」など何本もの継承が途切れて消えていったネタを、復活させたんだとか。


そんな米朝さんの落語で僕が好きなのは、『地獄八景亡者戯』です。
江戸落語では『地獄めぐり』っていうタイトルだったかな?
一時間を超える長い噺なんですが、この噺には主人公がいないんですよね。
いわゆる群像劇というやつで、主人公をころころ変えながら、死後の世界を面白おかしく語っていくわけです。

この噺は概ね六部構成になっていて、

一部が鯖に当たって死んだ男とその数日前に病気で死んだ近所のご隠居の会話。

二部が、現世であらゆる遊びして、こうなったらあの世に観光にいこうと、茶屋の女将、芸者、太鼓持ちとフグの肝を食べて死んだ若旦那一行の会話。

三部が、三途の川の手前の茶店で女中が太鼓持ちに語る奪衣婆(だつえばあ)の生涯。

四部が、三途の川を渡る船での、船頭の鬼と亡者たちのやり取り。

五部が、閻魔大王によるお裁き。

六部が、地獄に落とされるもそれぞれの特技を活かして、鬼たちをやり込める四人の男の話。

となってます。

この噺自体は古くからあるらしいんですが、演じる人も少なく途絶えかけていたのを、米朝さん自身が、3代目笑福亭福松さんに教わり、再構成したものだそうです。
米朝さんの「地獄八景~」は、この古い話に時事ネタを交えたギャグを入れて現代風にアレンジして語っていくんですね。

この、古典落語を時代設定を変え、現代風にアレンジして今の人にも分かりやすいように語るという上方落語の手法は、もしかしたら米朝さんが広めたスタイルなのかもしれません。(違うのかな?)

そうした、長年の功績だけでなく、端正で上品な語り口で、誰の耳にもすんなりと入ってくる米朝さんの話芸は、関西だけでなく、文字通りに日本の宝だったのかもしれません。

今更ではありますが、心からのご冥福をお祈りいたします。




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