ジェネシス_ノーマル

GEEK-15

ぷらすです。
GEEK-15アップですよー!
もっとコンパクトな話になるはずが、全然終わりませんw
もうしばらく、お付き合い頂けたら嬉しいです。(〃ω〃)>

 ギークことコンラッドが目を覚ましたのは、FBIニューヨーク支局の医務室のベッドの上だった。
 慌てて、ヘッドギアを外した彼が飛び起きると、横のベッドに寝ていた相棒のヒューバートもほぼ同時に飛び起きていた。

「「アリス!」」
 二人がアリスの方に同時に目をやる。
「セシリアの居場所は、ヒューバートの車のナビに転送しておいたわ。細かい状況はメンバーが教えてくれる。二人共急いで!」
 アリスの声に弾かれるように、二人は医務室を飛び出していった。

「ブエナ・ビスタ通りの廃アパートか」
 愛車のハマーH2を飛ばしながらヒューバートはナビを確認する。混雑がなければ約30分の道のりだ。
『付近に民家はないようだが、防犯カメラの映像には数人の男たちが映っている。映像が荒くてハッキリとは分からないが、BHが置いた見張りかもしれない。武装の可能性もあるから十分に気をつけてくれ』
 無線から、メンバーの指示が聞こえる。
「分かった。ありがとう」
 無線に答えたのはコンラッドだった。作戦の前からスーツに身を包んでいた彼は、助手席で覆面を被りギークの姿になっている。
「ゾイドか、それともチンピラかな」
「どっちでも構わん。現場に着いたらお前はアパートの中にテレポートしろ。外の雑魚は私が何とかする」
「さすがはライオンキング、頼もしいねー」
「その名で呼ぶな」
 そう言いながらも、ヒューバートはコンラッドにいつもの調子が戻ってきた事に安心する。
「ほんと、サンキューなヒューバート」
「よせ、殊勝なお前は気味が悪い」
オレッチ渾身の感謝の言葉を全否定!?
 そうツッコミながら、白黒の覆面の下でコンラッドが笑った。

 かび臭いベッドで目を覚ましたセシリアは、薄暗い部屋の中でぼんやりと夢の中でのやりとりを思い出していた。
 コンラッドとの付き合いは長いが、あんな優しい声を聞いたのは初めてで、思い出すだけで顔が熱くなる。
 もっとも、コンラッドからすればただ罪の意識から出た言葉なのかもしれないが、あんな風に抱きしめられたのも、真正面から彼の顔を見たのは何だか久しぶりで、実は本当にただの夢だったのではと少し不安になるほどだ。

 もしかして。いや、でも。
 薄暗い部屋の中で自問自答を繰り返す彼女の耳に、突如銃声と悲鳴や怒声が飛び込んできた。
 バタバタと階段や廊下を駆け回る音、獅子族レオニーズに変身したヒューバートの雄叫び。ドスンバタンと人が壁にぶつかり、古いアパートの壁が軋む振動、誰かが階段を駆け上がってくる音が聞こえる。

 そして。

 部屋のドアがぶち破られ、飛び込んできた太陽の光にを背に、白と黒の見慣れたシルエットが現れた。
「セシル!!」
「コート!」
 二人が互いのもとに駆け寄ろうとした瞬間だった。
 セシリアは肩を後ろから掴む手に行く手を阻まれ、コンラッドがたたらを踏むように足を止める。

「……BH」
 白黒の覆面の下、コンラッドが唸るような低い声でその名を呼ぶ。
「久しぶりだなギーク、いやコンラッド」
「……その手を離せ」
「悪いがそういう訳にはいかん。彼女にはもう少し付き合って貰わねばならないのでね。それとも彼女を取り返すために私に飛びかかってくるかねコンラッド。そうなれば、私はこのまま彼女を連れてテレポートせざるを得ないが、その結果は君が一番分かっているだろう?」
 マスクの下でコンラッドは、動くことができない。

「君も不用意には動かないで欲しいセシリア。しつこいようだが君を傷つける気はないのだ」
 もし、このままBHと共にテレポートすれば、防護服なしの彼女は空間のねじれに巻き込まれ大怪我をしてしまう。
 その事を誰よりも知っているコンラッドは、奥歯が折れんばかりに歯を食いしばった。

「あんたの目論見は全部分かってる。あとはFBIに任せて大人しく自首してくれ。ヘヌリ教授」
 ギーク、いやコンラッドの祈るような言葉に、黒覆面の男はキッパリとした口調で「それは出来ない」と言い切る。
「これは私の使命なのだ。ほかの誰にも邪魔はさせない。
 だが、君には全てを見届ける“権利“がある。だから月曜日、『スポンサー』の研究施設に君も来るといい。全てが終わったあと、セシリアは君に返そう」
 そう言うと、BHはあっという間にセシリアを袋で覆った。
 支局のエレベーターから彼女を誘拐したときと同じ袋だ。
「コート!」
 セシリアの声だけを残し二人は薄暗い部屋から消え、薄暗い部屋には、呆然と立ちつくすコンラッド一人が残され、救出は失敗した。

 ニューヨーク経済の中心地、ミッドタウンの中心に立つ高層ビルの中に、アメリカを代表する大企業による企業体『スポンサー』のオフィスはある。
 デスクの椅子に埋まるように座るCEOのデイヴ・クラウザーの前には、神経質そうなやせ型の男と二人の女性が立っていた。
 男の名はFBIニューヨーク支部 ゾイド犯罪対策チーム、通称Z・C・Sリーダーのアントニー・シャノン。
 ダークブルーのパンツスーツ姿の女性は伝説のボーダー、クロウ・カシスことレイラ・ブレイズ、そして同じくダークブルーのスーツ姿の黒人女性は、ニューヨークを拠点に活躍する女性ボーダー リゼット・ディヴリーである。

「お忙しいところに伺ってしまって申し訳ありません。ミスタークラウザー」
 知らぬ人間が見れば、不機嫌なのかと心配になるような渋面のまま、アントニーが挨拶する。
「話は聞いているよ、ミスター……」
「シャノンです」
「失礼、ミスターシャノン」
 禿げ上がった頭頂部を囲むような白髪、ブルドックのように垂れ下がった頬、たっぷりと脂肪を蓄えた二重アゴの老人は椅子に深々と腰掛けたまま、小さな瞳でアントニーを上目遣いに見る。

「我社が、ゾイドに狙われているのだとか」
「ええ、近年このニューヨークを騒がせるゾイドギャング団のリーダー、BHと名乗る男が、この『スポンサー』に対してテロを仕掛けようとしているとの情報を得ました」
「それで土曜日にも関わらずここにやってきたと。ご苦労なことだ」
「ご自宅に連絡したところ、今日は貴方が出社しているとのことでしたので。土曜日だというのに仕事熱心でいらっしゃる」
「親会社から尻を叩かれていてね。まったく人使いが荒くて休むヒマもない」
 クラウザーの言葉に、アントニーがピクリと片眉を上げる。
「ほう? 何か急がねばならないような案件が?」
「いや、今日が特別という訳じゃない。仕事柄、常に細々した雑事に追い回されているのだ」
 アントニーのやんわりとした追求を、クラウザーははぐらかす。

「それで、そのBHだったかな? その男は我社に何か恨みでもあるのかね?
  我々はテロリストに恨みを買うような覚えはないのだが」
「三年前、『スポンサー』がルンドバリ・ヘヌリ教授に出資して行われた物質転送装置の実験がありましたね」
 アントニーの問いに、クラウザーは粉薬を飲んだときのような苦い顔になる。
「ああ、だがあの実験は失敗し、研究は政府によって禁止されてしまったのは君も知っているだろう? あの研究がどうかしたかね」
「事故後の調査では、装置と研究施設の大破に伴い設計図を含む多くの研究データも消失した事になっています。ですが、BHは、貴方達が今も内密に研究を続けていると思っているようです」
「ハッ! 何をバカな事を。 莫大な資金をかけたうえで失敗、政府によって封印されてしまった実験を、国家に逆らって研究を続けていると?」
「いえ、彼は研究データを貴方達『スポンサー』が入手したと思っているようですな。そのデータを元に研究を続けていると、そう考えているようです」
 椅子から立ち上がり激高するクラウザーに、アントニーは渋面を変えることなく平坦な口調で説明する。こめかみに血管が浮かべ、顔が真っ赤にしたクラウザーは、自分を落ち着かせるように大きく息を吐いて再び椅子に潜り込むように座る。

「それで? 君たちFBIも我が社を疑っている、と?」
「いえ、そうではありません。しかし、そうした情報が入ってきた以上、我々としても調べない訳にはいきません。それで土曜日にも関わらず、こうしてお話を聞きに伺ったのです」
 アントニーの言葉に、クラウザーは「なるほど」と呟くと渋面の男を見上げ口を開く。

「確かに、三年前の実験の失敗で我々『スポンサー』も親会社も、莫大な損失を被ってしまった。一時は我社の存続に関わるほどの大きな損害だ。
 もし研究データが残っていて、仮に装置が実用化出来たなら、損失を補って余りある利益が生まれるだろう。だが、それは机上の空論でしかない。
 国家に逆らうデメリットを抱え、且つ成功も約束されてはいない研究だ」
 クラウザーは大きなため息を吐いてから「ミスターシャノン」と続ける。

「我々ビジネスマンであってギャンブラーではない。BHとかいう狂人が、一体何を根拠にどんな馬鹿げた妄想をしているのかは知らんが、我々にそのような事実は全くない」
 クラウザーはキッパリと、研究の継続を否定する。アントニーはじっとブルドッグのような老人の顔を見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。

「なるほど、よく分かりました。しかし、どんなに馬鹿げた妄言であれ、BHが御社をテロの標的にしている事実に変わりはありません。FBIはこのオフィスと周辺を警護させて頂きますがよろしいですね?」
「それはもちろん。テロリスト逮捕のためなら、我が社はFBIに全面的に協力させてもらうとも」
 それまでの表情から一変、愛嬌のある笑顔で立ち上がりクラウザーは半ば無理やりアントニーの手を取り握手をすると、会見を締めくくった。

「あのタヌキじじいめ……」
 エレベータの中で、アントニーはただでさえ不機嫌そうな渋面を更に歪ませて忌々しげに呟いた。
「さすが海千山千のデイヴ・クラウザーね、簡単に尻尾は出さないわ」
 どこか面白がっているような口調で言ったあと、レイラはもう一人の女性ボーダーに目をやる。
「どうだった?」
「このビルの中に、それらしい施設はありませんでした。実験施設は別の場所にあると思います」
 彼女はそう言って首を振る。
 彼女、リゼット・ディヴリーは透視能力を持つボーダーなのだ。
 レイラはガッカリした様子もなく、「やっぱりね」と答えた。
「そうでなければ、クラウザーが警護を受け入れるはずはないものね」

 三人がビルを出て車に乗り込もうとすると、ひとりの男がオドオドと声をかけてきた。
「あ、あの、FBIの方ですか」
 振り向いた彼らに、メガネをかけた気の弱そうな男が尋ねる。
「そうですが、貴方は?」
「ぼ、私は、『スポンサー』の社員で、ジ、ジミー・ミルンズといいます。あ、あのお話が……」
 今にも倒れそうなほど緊張の面持ちで、男は自己紹介をする。
「ほう、話とは?」
「み、皆さんがここに来たのは、物質転送装置の件ですよね。その件で……」
 今にも消え入りそうな男の言葉に、三人は顔を見合わせた。

「コンラッド!!」
 大きな音を立てながら部屋に飛び込んできたヒューバートが、相棒の名を叫ぶ。
「セシリアは……!」
 部屋の様子を見て、ヒューバートは「無事か」と言葉を飲み込んだ。
「目の前でBHに連れて行かれた……」
 俯いたまま、白黒男が短く告げる。
「コンラッド……」
 何か声を掛けようとしてヒューバートは口を開こうとするが、しかし何を言えばいいのか分からず、ただ唇をパクパクさせる。

「ああぁぁぁぁぁぁぁああああ!! フ〇ーーーック!」

 放送禁止用語を叫びながらコンラッドは手近な壁を思いっきり殴りつけた。
 爆音と共に吹き飛んだ壁の穴から太陽の光が差し込み、舞い上がる埃をキラキラと照らす。

ヒューバート!
「な、なんだ」
「月曜日、BHの奴に『スポンサー』の研究施設に招待された!
 奴はそこにセシリアも連れてくるってよ!
 という訳でオレッチたちも今すぐ『スポンサーチーム』に合流するぞ!」
 そう言いながら白黒の相棒は、まるで地団駄を踏むように部屋を出る。
「あのクソじじいめ。恩人だと思って優しくしてりゃぁ付け上がりやがって、もう許さねえ。見てろ! セシリアを取り戻したあと〇〇をXXXして△〇Xにしてやる!」
 大声で汚い言葉を吐きながら歩くコンラッドの後ろ姿を眺めながら、ヒューバートはホッと胸をなで下ろした。
 またぞろ落ち込んでしまうかと思った相棒は、セシリア救出という目的をしっかりと見据えている。
「おう、何としてもセシリアを取り返そう」
 二人はハマーの太いタイヤを鳴らしながら、FBIニューヨーク支局に走り出した。

「レッドフック?」
 コンラッドはレイラに言われた地名をオウム返しする。
「そう、ブルックリンの端にある湾岸の街。そこの廃工場に『スポンサー』の研究所があるそうよ」

 Z・C・Sのオフィスには、コンラッドとヒューバートより一足早く、アントニーたち『スポンサー』調査チームが戻っていた。
 CEOのデイヴ・クラウザーからは有益な情報は出なかったものの、『スポンサー』からの帰り際に話しかけてきたジミー・ミルンズという男は、この三年間、物質転送装置の研究開発に携わってきたという。
 しかし、国が禁止している研究と開発を続ける事に罪悪感を抱え、悩み続けてきた彼は、オフィスに三人が訪ねてきた事を知り内部告発に踏み切ったのだという。
 現在、アントニーがジミー・ルミンズの取り調べを行っているが、彼の証言から研究所の場所が分かったのだ。

「その情報に間違いはないのか?」
 ヒューバートが口を挟む。
「そのジミーという男が、嘘をついている可能性は?」
「それで彼に何のメリットが?」
 レイラに聞き返され、ヒューバートは一瞬考えたあと、
「操作の混乱を狙って『スポンサー』に送り込まれたとか」と答える。

「なるほど、確かにその可能性はあるかもね」
 レイラは頷きながらも、でもそういうタイプには見えなかったけれど。と付け加えた。
「確かに、正式な捜査の前に証言の裏は取っておいたほうがいいかもしれません」
 レイラの横で話を聞いていた黒人女性が言った。
「君は?」
「失礼しました。私はリゼット・ディヴリー、透視能力を持つボーダーです。
普段は能力を活かし、FBIからの要請で諜報活動をしています」
 ヒューバートの問いにリゼットが答える。
 戦闘系の能力を持たない彼女は、ボーダーの中でもあまり目立つ存在ではないが、その能力で数々の事件に貢献しているのだ。
「月曜日まであと二日、残された時間が少ない今、捜査の空振りは避けたいところです」
 私が現場まで行って“視て“きましょう。とリゼットは言う。
 確かに、リゼットの透視能力なら建物の外からでも中を伺い知ることは出来るだろう。

「いや、オレッチとヒューバートで行くよ」
 それまで黙って話を聞いていたコンラッドが言った。
「もしかしたら戦闘になるかもしれないし、潜入捜査ならオレッチが適任だろ?」
 それに、とコンラッドが付け加える。
「オレッチなら装置をみれば一発で分かるしな」

To be continued

←GEEK-14GEEK-16→



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?