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めぐりあい山裾の町

 ギルドからの依頼を受けて中級冒険者ロマーニュ達は、山の西にあるダンジョンを上層から順に調査していた。
「なぁ兄弟《ブラザー》、なんか雰囲気変わってないか? ここ」
「なんかチグハグな感じはするかな? さっきのトロルもなんか柔らかかった様な」
「そこの先の角で待ち伏せ、中サイズ×2、オークかね」
「インフラビジョン楽だなぁ……」
 ロマーニュという冒険者は風変わりな武器を握っていた。可変剣という《《からくり》》で剣先がジャキン!と伸びる長剣だ。変形機構の基礎を数年がかりでロマーニュが考案し、下手な魔剣なら2〜3振り買える金額でドワーフ鍛冶屋と作成・開発中の武器である。開発初期に思わぬトラブルに見舞われたりもしたが、完成度は日々向上している。そしてこれが一番大切なことだが、この「可変機構」はかっこいいが、武器としては精緻過ぎて《《よく壊れる》》。ロマーニュの「かっこいい」を追求しただけの武器なので実用性がまるでないのだ! 故に今は伸ばすことなくメイスの様に打撃武器として利用している。たまたま可変機構が壊れた時に気が付いたが、畳んだまま殴りつけても割と可変剣は……というより畳んでた方が使い勝手が良かった。壊れにくいし。
「ジャキン!が不意打ちに不向きなのは仕方ないが、ロマンが恋しいな兄弟《ブラザー》」
「強敵相手の時だけジャキン!も『本気出す!』みたいで悪かぁ無いぞ兄弟《ブラザー》」
 兄弟《ブラザー》と呼び合うロマーニュとドワーフ鍛冶屋だが、別にロマーニュはドワーフではなく普通の人間--具体的に言えば農家の三男坊だ。この剣を共に作り上げると互いに誓ったその日から、意気投合して義兄弟の契りを交わしただけであることを記載しておく。
「で、どうだった?」
「オークは見たとこあンま能力低下無いな。強い奴らが軒並みステータス落としてるから、弱体化したお前さんでも前のワイバーン程は苦労せんだろよ」
「変化がいい方に転んだかな……俺には」
「大体、お前が中級なのは魔法武器嫌いとロマンの輝きのせいだと思うんだがね」
「それが無けりゃ俺じゃねぇ」
「全くだ。お陰でダンジョンで遊んでられる。次、エティン×1! 気付かれてる!」
「それじゃあ仕方ねぇな!」
 ニコニコしながらロマーニュは可変剣を左肩に構えて右下に振り下ろす。ジャキン!と言う音が響き渡り、第四式可変剣はその刀身を松明の光で輝かせた。

 ロマーニュ達の生きるユギニアという名の世界は、世間で良くある異世界である。読者諸兄があちこちで良く見ているであろう、地球の人間がトラックと事故を起こしたりして飛ばされる先として昨今有名な異世界様《《だった》》。「だった」と過去形になるのは、ひょんな誤解から、この手の話にありがちな「女神」がデリートされてしまったからだ。うっかりやらかした転生予定のゲームプログラマ「女神殺し」が世界のシステムバランスを大改造というか《《作り直してしまい》》、このユギニアはチートやチーターを駆逐した清浄な世界となった。……なったのだが、元々ソシャゲ方面でインフレ気味だった世界をMMORPG方面にバランス是正した結果、モンスターやキャラクターが大幅に弱体化してしまったのである。中の住人は大混乱だ。そうして先の変な二人組にも、冒険者ギルドからモンスターの調査依頼が割り振られ、冒頭に至る。

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