「行ってみたい国」というnoteのお題を見てふと思った。

行きたい国はたくさんあるが、リベンジしたい国ならカナダ一択だ、と。

カナダといえばロッキー山脈やナイアガラの滝など、大自然が魅力の国。
当時26歳だった私もそれを求めて旅立った。

しかし私のカナダの記憶はその９０％が白く塗りつぶされている。
旅立ったのは春なのに。
なぜ、そんなことになったのか。

今日はそんなカナダ旅の思い出をお届けしたい。

当時、旅行会社に勤務していた私は、『東京ーバンクーバー間、往復5万円』という、格安航空券を手に入れた。
航空券の使用期間は、4月最終週からGW手前まで。

これ、実は社員向けに販売されたワケありチケット。

カナダのオンシーズンは５月中旬からなので、その直前の航空券はどうしても売れ残りが増えてしまう。つまり穴埋めであって、決しておトクではない。

でもこの時のカナダチケットに限り、経験豊富な社員が「これはラッキー商品」と太鼓判を押してくれた。

「シーズンオフだけど、バンクーバーならぜんぜん楽しめるよ！」

私は当然に飛びついた。
けど行き先はバンクーバーではなく、バンフという町を選んだ。１万円を加算すればバンクーバー近郊の町にも行けたからだ。

ところで皆様は『バンフ』をご存知だろうか。
バンフは国立公園内にある町で、カナディアンロッキー観光をする拠点として有名である。
夏なら山登り、冬はウィンタースポーツや温泉を楽しめ、大氷河を見ることもできるのが魅力。

この事実を知った時、私の脳内が「バンフ！バンフしかない！」と叫んだ。

「都会のバンクーバーで真のカナダは味わえない。私は本物の大自然を体験してみたい！」

正直に認めよう。私は自分に、大自然を満喫するという考えに酔っていた。
ほんとは街が大好きくせに・・・すっかり本音を見失っていた。

しかも先輩社員に話すと、彼は眉根を寄せてこう言った。
「えっバンフ？やめなよ、４月だとかなり寒いよ・・・」

しかし私は聞く耳持たず、友人Mとバンフへ飛んだ。
未だ見た事のない、「本物の大自然」を求めて。

バンクーバー国際空港から乗り換えカルガリー空港へ。そこからバスで２時間。
ようやくたどり着いたバンフは、たっぷりの雪で

見渡す限り白かった。

厚手のダウンを着ていても、体に冷気が染み込んで止まらない。
立ち止まった瞬間に、足先からは震えが走る。

寒い、寒い、超寒い！！！速攻でうす暗い気持ちになる。

けれど疲れた体にムチ打って、私たちは勤務会社のバンフ支店へ現地ツアーを申し込みに行った。

大自然に抱かれると決めた、それが俺のバンフだから！

だが、支店の人はキッパリと言った。
「GW明けまでツアーはないわよ。だって雪だもん」

なんということだろう、まったくの想定外。

すると支店の人は、すぐに個人ガイドを提案してくれた。
「ベテランで日本語も上手な人よ。きっと見所を案内してくれるわ」

さて翌朝。
ホテルに来たガイドさんは、30代半ばのイケメンカナディアンだった。

空は青く太陽も輝いてる。我々のテンションもグッと上がる。

やっと大自然に抱かれる旅が始まるのだ！

実際、彼は素晴らしいガイドだった。
聞きやすい日本語で、運転しながらていねいにカナダを説明してくれる。

山や滝には昔ながらの名前があること。
その意味と由来、込められたネイティブたちの想い。
野生動物に出会うたび、畏敬の念を持たずにいられないこと・・・。

どれもカナダ愛が感じられる、素晴らしいエピソードだ。
もし見ることができたら、私にも感じられたかも。

そう、私たちは何一つ体感することができなかった。
なぜなら目の前にあるのは、

ただひたすらに『白』ばかりだったから。

名高い湖レイク・ルイーズは、凍結して白かった。
山肌を流れる数々の滝も、凍結して白かった。
野生動物たちは寒さのせいか、一度も姿を見せなかった。

ガイドブックの写真と同じだったのは「コロンビア大氷原」の風景だけ。
北極圏に次ぐ大規模な氷河は、カナディアンロッキーの見どころである。

だが当然に白い。まあ白さの歴史が違うのかもしれないが。

でも、バンフは何も悪くない。
４月は毎年雪景色で、観光客はそれをわかった上で来る人ばかりなのだ。

じゃあ悪いのは何か。

悪いのは、悪いのは・・・間違いなく私の頭なのだと思う・・・

その夜、私たちは「ハードロックカフェ」に出かけた。
お酒の飲めない私だが、この日ばかりはやっていられなかったのだ。

通常の3倍はある巨大カクテルグラスを傾け、話し合う私たち。

もう一度バンフ支店に行こう。
そして雪がない観光スポットを教えてもらおうよ。

「必ずあるよ、私たちのカナダが・・・バンフが！」

だがこれが私たちを「ヒッチハイク in 海外」に導くなんて、その時は思いもしなかった。

だって私たちは本当に寒く、ひたすら疲れ切っていたから。

続く↓↓