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iPhoneを生贄に、北アルプス黄金平を召喚(横尾本谷右俣)

iPhone XRであと2年は戦える。あんかけだよ。

前日譚

時は2019年10月に遡ります。

毎週のように、ではなく、毎週山登っていたあんかけくん。

その少し前に<槍ヶ岳〜大キレット〜北穂〜奥穂〜ジャンダルム〜西穂>の縦走をやり終えたあんかけくんはノリに乗っていました。

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2019年9月15日。ジャンダルムで記念撮影。

『地図に記載がある登山道の中では、最も高難易度』と称されるジャンダルム(奥穂ー西穂縦走路)。

グリーンシーズンの一般登山道では満たされなくなってきたあんかけくんが、次に目をつけたのは<バリエーションルート>。

尤も、単独行が主でロープワークの知識もないため、バリエーションと言っても入門中の入門・横尾本谷右俣へ向かいしました。

北アルプス・横尾本谷右俣

Q. <横尾本谷の右俣>ってどこよ。
A. ここ、ここ。

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ルートとしては、横尾から涸沢に向かう途中の<本谷橋>で分岐します。

涸沢に向かう場合は橋を渡って登っていきますが、そこから沢沿いに遡上していきます。

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時折、沢に足をジャブジャブと漬けながら、遡上していく。

地図の中央付近まで来ると、大きな岩に木が生えた<岩盆栽>が現れます。

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ここから進路を北西にとり、そのまま直進すると<横尾本谷右俣>です(写真左奥)。

余談ですが、地図上で「横尾本谷」と書かれている所を西に進むと<横尾本谷左俣>で、大キレットへ至ります。

黄金平

時は10月。北アルプスは紅葉が始まりつつあります。
そんな絶好の季節に、涸沢に背を向けてバリエーションを行くのはそれなりの理由があるはずです。

その理由がこちら。

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横尾本谷右俣・標高2300 m付近。通称<黄金平>です。

涸沢から北穂高岳で隔てた、ほぼ同じ標高にある<もう一つの涸沢(※)>。
※このネーミングはあんかけくんが勝手に言っているだけです。

さらに、振り返れば屏風岩がどどーん!

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あちこちから秋の訪れを感じます。

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<黄金平>は伊達じゃありませんね。
名前負けしてません。むしろ勝ってます。

天国と見まごう絶景に、あんかけくんもニッコリ。

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さて、そろそろ
「おい!いつになったらiPhoneは生贄になるんだ!タイトル詐欺め!」
なんて声が聞こえてきそうです。

安心して下さい。iPhoneは既に墓地にリリースされています。

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iPhoneは犠牲になったのだ

どうしてこうなった。

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見事なバキバキっぷりです。
車にでも轢かれたのかな?

時を2時間ほど前に戻しましょう。

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こちらは先ほど紹介した<盆栽岩>から少し先に行った付近です。
この写真の場所ではないのですが、ここ周辺にほんの少しだけ<へつる>場所があります。

<へつる>
登山用語で「釜や淵などを泳がずに通過する際、左右どちらかの壁をトラバースすつこと。沢登り技術の一つ。

本格的な沢登りには遠く及びませんが、横尾本谷右俣は沢登りのエッセンスを僅かに含みます。
<へつる>必要がある場所は一箇所で、なんならその一箇所も迂回できるはずです(沢の水量による)。

なんてことない場所です。慎重にいけば、すぐにクリアできる場所です。
でも事故ってそういう場所で起きるんですよね。

ギリギリのスタンス。でも後一歩でクリアできる……っっっっっっっ?!?!?!

やからしました。
右足のホールドがずるっと外れ、一瞬、宙に浮いて重力から開放されます。
刹那、お尻から頭の先に突き抜けるような衝撃。

気づくと水流の中に半身を沈めていました。

お尻から落ちたこと、ヘルメットをかぶっていたことが幸い。手の擦り傷以外は怪我なく、二度目の挑戦で無事に通過することができました。

「ふーっ、怖かったぁ」と息をつき、ふとYAMAPで現在地を確認しようとズボンのポケットからスマホを取り出すと、「ジャリッ」。

おおよそiPhoneとは思えない触感。恐る恐る取り出すと、

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iPhoneだったもの「ヤァ」

買って半年のiPhone XRくんが語りかけてきました。
この時は何も見なかったことにして、黄金平に着いてから診察した写真が👆です。

iPhoneの診断結果

こちらが診察カルテ(拡大写真)。

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お分かりでしょうか。
「メルカリ」と表示されていたであろうリマインダーと、YAMAPの通知画面が見えます。

そう、完全破壊は免れました。
ディスプレイは死にましたが、内部的には生きているのです。

しかし、操作は全くできません。
一番まずいのは、『航空機モードのままになってしまった』ことです。

山の行動中は「どうせ電波入らないしな」と節電のために航空機モードに設定しています。これを解除するには右上をスワイプしてコントロールセンターを開く必要があります。

航空機モードということはつまり、電波が入りません。電話ができません。
仮にディスプレイが操作不能になっても、電波があればSiriで電話をかけられます。

それが不可能になったのです。
「まずい。まずいぞこれは」

Q. 「山って、どのみち電波入らないんでしょ?何がそんなにまずいのよ?」
A. 「知らんのか。ヘリが飛んでくる

ココヘリの罠

ヘリ?どないこっちゃねん。という方向けに少し解説。

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これがココヘリです。
正式名称は<発信機型会員証>。
位置情報発信機で、16 km先からでも感知できる電波を飛ばします。すごいね。

これは「ボタンをポチッと押せばヘリが飛んでくる」なんて便利(?)なものではなく、登山届とセットで使用します。

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インターネット登山届・コンパスの入力画面。このようにココヘリIDを入力する。

つまり、実際は以下のような使い方をします。

① 登山届(コンパス)にココヘリIDを入力する。
② 登山届で予め設定した<下山予定時刻>を過ぎても、<下山届>が入力されない。(下山届はスマホなどの端末からネット経由で入力する・超過時間は3〜10時間で任意に設定可能)
③ コンパスから緊急連絡先(親族・配偶者など)に連絡が行く。
④ 緊急連絡先からも登山届提出者に連絡が付かず、遭難等の疑いがある。
ココヘリに依頼が行き、登山届提出者のココヘリ発信機に向けてヘリが飛んでくる。
※コンパスとココヘリは提携しているだけで、全く別のサービス。

つまり、登山者は遭難などしていないのにスマホから下山届を提出できず、また緊急連絡先にも連絡ができない場合、遭難したと間違われて、ココヘリ目がけてヘリが飛んでくる可能性がある、というわけです。

下山届を提出できず、電話もできない?どういう状況でしょう?

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はい。こういう状況ですね。

令和時代の公衆電話

黄金平から先の道は大した問題ではありません。
YAMAPが使えなくなったので自分の位置をGPSで確認できなくなってしまいましたが、そこから真っ直ぐ上に向かえば一般登山道に合流できます。

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そんなことよりも、ヘリが飛んできてしまうことの方が大問題です。

コンパスに入力した<下山予定時刻>までは、まだまだ時間があります。

しかし緊急連絡先に電話をして「コンパスから連絡が来るかもしれないけど、こういう事情で遭難じゃないから大丈夫」と連絡するまでは、気が気じゃありません。

とにかく上高地まで戻ります。
まさか令和になって公衆電話を探す羽目になるとは思いませんでした。

「上高地なら公衆電話の一つぐらいあるだろう。観光地やぞ」と探し回りますが、「あれ?」一向に見当たりません。

あまりに見当たらないので上高地インフォメーションセンター(バス降りたら所のでっかい建物)で聞いたところ「一箇所だけありますよ!」

「一箇所だけかよ!」と心の中で突っ込みつつ、やっとこさ公衆電話にたどり着いて実家に電話をしたときは、「はぁ、よかったぁ(?)」

バリエーションルートの達成感よりも、公衆電話を見つけられたことに対する達成感が上回ってました。

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ちなみに上高地唯一の公衆電話、ここです。
この写真の右下に写っているガラス戸の中にあります。
正式な名称は<上高地観光センター 1F>です。

ありがとう、上高地観光センター 1F。君のおかげで助かったよ。

冷静になって考えると

落ち着いてから考えると、電話できなくなっても他の登山者に事情を話して電話を借りれば済む話です。

冷静さを失う、って怖いですね。
上高地で公衆電話の受話器を置くまで、そんな発想は微塵も思い浮かびませんでした。

とにかく、この事件で得た教訓は
1. インターネットに接続できる予備の端末を車に置いておく。
2. 地図は紙でも持っていく。
3. 上高地へのバス往復券はモバイルチケットにしない(!)。
4. とりあえず、落ち着け。

この後、『買って半年でディスプレイがバキバキになったiPhoneをどうするか』という別の問題が勃発します。

「なに?AppleCare?」「そんなもの ウチにはないよ…」

しかし無保険iPhoneは意外な形でオールクリアー。実費負担ほぼ無しで完治致しまいた。
その話は次の機会に……

(執筆中) 黄金平でバキバキにした無保険iPhoneの治し方