最近の記事

私の愛する孤独

ハンナ・アレントに倣うならば、私が愛した、そして愛する孤独はsolitudeのそれだろう。ひとりであることに徹する事で、人はようやく全世界と向き合う事が出来る。しかしそれは些細な事で容易くlonelinessに変じてしまう。そうすると世界はおろか自分自身すら見失う。solitudeに徹する事。それが肝心。

    • 『ピアニスト』

      これもミヒャエル・ハネケ監督の作品。観る前から警戒していたが、それを上回る内容に、やはり衝撃を受けてしまった。 ヒロインは子どもの頃からピアニストになる為に、支配的な母親から厳格な管理と指導の下に置かれてきたエリカ。しかしコンサートピアニストになる夢は叶わず、ウィーン国立音楽院のピアノ教授を務めている。 この母親との関係がエリカの全てを決定づけているのだろう。娘への過剰な干渉、娘もそれに付き合ってしまう。明らかに共依存の関係が成立してしまっている。 そこから抜け出そうと

      • 『ノー・マンズ・ランド』

        ダニス・タノヴィチ監督の映画を観るのは2作目だ。 カメラワークもカット・構成もしっかりと手慣れており、前に観た『鉄くず拾いの物語』の、いかにも拙い手つきが、意図的な反演出志向に基づいて選択されたものだったことが、改めて確認出来た。 『ノー・マンズ・ランド』はボスニア・ヘルツェゴヴィナの紛争が深刻だった1993年当時の戦場を舞台にしている。 ボスニア軍の交代要員8人は、闇に紛れて前線へ移動していた。しかしその日は霧が深く、兵士たちは道に迷ってしまう。 夜が明け視界が開け

        • 『隠された記憶』

          映画を観始めてしばらくしてから、この映画は単純に筋を追うだけでは、間違った観方になってしまうと気付き、居住まいを正した。 一見、心理サスペンス映画のような気がする。 出版社に勤める妻・アンヌと息子・ピエロと共に、成功した人生を送るジョルジュの元に、奇妙なビデオが送りつけられる。それは、ジョルジュの自宅を外から長時間にわたって隠し撮りしたものであった。 最初は単なる悪戯だと思っていたジョルジュだったが、その後もビデオは送りつけられる。血を吐く子どもの絵と共に。 同じ絵は身

        私の愛する孤独

          『パラダイス・ナウ』

          また中東が荒れている。またアメリカのせいだ。 トランプがエルサレムをイスラエルの首都と認め、米大使館を移転したことに対して、それに抗議するデモ隊とイスラエル軍の衝突が続いている。現時点で生後8ヶ月の幼女を含むガザの民62名が死亡している。 14日はイスラエル建国によって70万人のパレスチナ人が故郷を追われた「ナクバ(大惨事)」から、丁度70周年にあたり、その節目の日にパレスチナでは、米国とイスラエルへの憎悪が更に高まっている。 国連でも激しい意見の応酬があった。 このイ

          『パラダイス・ナウ』

          『鉄くず拾いの物語』

          『うさこさんと映画』の中の映画評「0479. 鉄くず拾いの物語(2013)」が優れたレビューになっている。私がこの映画を知ったのもこのレビューからだった。映画を観た後再読し、改めてその的確な表現に感心した。 その冒頭の部分。 ひとつの実話をつうじて、紛争後のボスニア・ヘルツェゴヴィナの社会をえがく。美しさをかたくなに拒んだようなその映像のなかに、ありのままの光景をさし出そうとする無言の覚悟が浮かび上がる。主人公を演じるのも俳優ではない。鉄くず——あるいは屑鉄——を売

          『鉄くず拾いの物語』