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太陽光パネルに含まれる物質

太陽光パネルは、光を電気に変換する機能を発揮するために様々な物質から構成されています。
その他の工業製品と同様に、人体や環境に影響のある有害物質も一部含まれています。

今回は太陽光パネルがどのような構造であり、どういった物質が含まれているか概略を紹介していきます。

太陽光パネルの構造

太陽光パネルは、発電する太陽電池セル(発電セル)の違いで分類されています。

  • 結晶シリコン系(単結晶、多結晶)、薄膜シリコン系

  • 化合物系(CIS/CIGS系、CdTe系、GaAs系など)

(引用元:環境省

これらの中で、現在国内外で最も普及している太陽光パネルの種類は『結晶シリコン系』になります。

(引用元:Fraunhofer ISE

実際に設置されている太陽光パネルの種類により構成される物質が異なるため、環境への影響などを考える上で注意が必要です。

太陽光パネルに含まれる有害物質とは

太陽光パネルには発電セルの種類によって、次の有害物質が含まれています。

セレン(Se)

セレンはCIS/CIGS太陽電池(銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se)、ガリウム(Ga)を原料とする化合物系太陽電池)に使用されています。国内でのシェアは相対的に小さく、また国内ではソーラーフロンティア社が代表的なメーカーと限られるため、廃棄時にはメーカーに問合せする等の対応が求められます。(既に生産終了

鉛(Pb)

結晶シリコン系の太陽電池セルには電極にハンダが使用されており、一部のパネルでは鉛が含まれています。製造年が新しい太陽光パネルほど鉛の含有量が少ない傾向であり、無鉛はんだを使用するなど国内外問わず鉛の使用量は少なくなっていると考えられます。(事例①事例②

カドミウム(Cd)

カドミウムはCdTe太陽電池(カドミウム(Cd)とテルル(Te)を原料とする化合物系太陽電池)に使用されています。米国のファースト・ソーラー社が生産しており、国内ではほぼ流通していないようです。
カドミウムが及ぼす環境への懸念に対応するため、ファースト・ソーラー社では同社の販売したCdTe太陽電池を使用後に無償で引き取り、製品に含まれるカドミウムをリサイクルする制度を導入しています。

ヒ素(As)

ヒ素が使用されるGaAs太陽電池(ガリウム(Ga)とヒ素(As)を原料とする化合物系太陽電池)は、変換効率が高いものの価格が非常に高く、宇宙用の太陽電池などのコスト度外視でも軽量・高効率・高耐久性が求められる用途でしか実用化されていません。(事例③
車載太陽電池としての研究開発は進むものの、メガソーラーなどの大規模発電所などでは採算が合わないことがあり、一般に市場に出回ってはいないのが実情です。(事例④

銀(Ag)

有価性の高い含有物質として、微量の銀が含まれます。銀は発電セル表面に電極を形成するための銀ペーストとして使用されています。(事例⑤
太陽光パネルに含まれる銀については、別の機会に概要を紹介します。

アンチモン(Sb)

太陽光パネルのカバーガラスには、通常の板ガラスに比べてアンチモン(Sb)が多く添加されています。これは光の透過度を上げる清澄剤(ガラス製造時の消泡剤)として使用されるためです。
アンチモンは樹脂の難燃材やブレーキパッドの耐摩耗材などに広く使用されている物質であり、有害物質としての溶出基準値は規定されていません。
一方で製造時における三酸化二アンチモンは、労働安全衛生法の特定化学物質として規制されていることから、今後の動向に注意する必要があります。

環境省による含有量試験・溶出試験

環境省が公表しているガイドライン『太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン(第ニ版)』に、太陽光パネル各部位の含有量試験および溶出試験の結果があります。

(引用元:環境省

環境省が公表している『太陽光発電設備等のリユース・リサイクル・適正処分に関する報告書』では、太陽光パネルに含まれる成分に関して解説されています。

・有用物質としては、電極材料に銀が数万ppm オーダーで含有されている。結晶系のモジュールで総じて濃度が高く、薄膜系、化合物系のモジュールでは相対的に濃度が低い傾向にある。また、製造年次の古い製品は銀の濃度が総じて高く、製造年次の新しい製品は濃度のばらつきが大きい傾向が確認される。
・有害性の観点からは、結晶系のモジュールを中心として電極等にははんだが使用されており、鉛が含有される。また、化合物系のモジュールにおいては、セレンやカドミウムが含有されるものが存在する。
・結晶系モジュールにおける鉛の溶出については電極の寄与分が非常に大きいことが確認された。化合物系モジュールの場合は、CIS/CIGS 化合物を含むモジュール部分からのセレンの溶出が確認された。

引用元:環境省

また太陽光パネルの破砕物に対して溶出試験が実施されており、結果とその解説があります。

(引用元:環境省

有害性の観点から注意が必要な物質の溶出について、太陽電池モジュールを対象とした公定試験法や基準等は存在しないため、金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令に基づき定められている方法及び基準(環境庁告示第 13 号試験及び燃えがら・ばいじん・鉱さい・汚泥等についての廃棄物処理法による特別管理産業廃棄物の判定基準)に準じて太陽電池モジュールの破砕片の溶出試験を実施したところ、結晶系のモジュールの一部(3検体)において鉛が燃えがら等についての基準値(0.3mg/L)を上回る結果となった。
同様に、化合物系モジュールの一部(2検体)においてセレンが燃えがら等についての基準値(0.3mg/L)を上回る結果となった。
また、化合物系モジュールの一部(1検体)においてカドミウムが基準値を上回る結果となった。
なお、試料調製方法、分析機関により結果にばらつきが生じる可能性があり、製品の評価にあたっては注意が必要である。

引用元:環境省

環境省による溶出試験の結果から、基準値を上回るサンプルも一部確認されています。
これらの結果は太陽光パネルを意図的に破砕したサンプルを用いて溶出試験しており、通常の状態で設置されている太陽光パネルから有害物質が溶出する訳ではありません。

破損した太陽光パネルによる環境影響をどう考えるか?

前項で紹介した太陽光パネルの構造、環境省による含有量試験および溶出試験の結果は以下の通りです。

  • 太陽光パネル含まれる有害物質として『鉛、カドミウム、ヒ素、セレン』があげられる

  • 太陽光パネルに含まれる有害物質は構造により異なる

  • 『ヒ素』が検出されたサンプルは無い

  • 化合物系太陽電池において『カドミウム』が検出された

  • 現在主流の結晶シリコン系太陽光パネルからは『カドミウム、ヒ素、セレン』の溶出は無く、電極に使用されている『鉛』が一部溶出試験で確認されている

太陽光パネルの発電セル・電極は、カバーガラスやバックフィルムで覆われており、封止剤で強固に封着されています。
カバーガラスの割れやバックフィルムのき裂等により、有害物質が直接環境に触れる可能性は非常に小さい(接触する可能性が低い)と考えられます。
また溶出試験は太陽光パネルを粉砕処理したサンプルで実施されたものであり(下記注1)、運転中や災害などで破損した太陽光パネルから有害物質が溶出するリスクは小さいとも考えられます。。

従って、万が一太陽光パネルが破損した場合であっても直ちに有害物質が流出するとは考えにくく、適切に撤去および処理・リサイクルを行うことで環境への影響は未然に防ぐことができると考えられます。
一方で鉛等の有害物質を含む可能性があることから、適切なリサイクルを行わず埋立処分する場合は管理型最終処分場への埋立処分が規定されています(注2, 注3)。

  1. 金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令に基づき定められている方法及び基準(環境庁告示第13号試験及び燃えがら・ばいじん・鉱さい・汚泥等についての廃棄物処理法による特別管理産業廃棄物の判定基準

  2. 太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン』中の埋立処理に関する規定

  3. 平成29年2月には中央環境審議会廃棄物処理制度専門委員会において、太陽光パネルについては鉛等の有害物質を含有する可能性のあることから、安定型5品目から除外し原則として管理型最終処分場で埋立処分すべきであると指摘

まとめ

太陽光パネルに含まれる物質は発電セルの種類によって異なり、一部の太陽光パネルには環境や人体に影響のある物質も含まれています。
しかしながら太陽光パネルに含まれている有害物質が破損や災害で直ちに環境へ漏出するリスクは非常に小さく、適切に処理を行うことで環境への影響を未然に対処することが可能です。

一部報道やSNSでは事実に基づかない記事が散見されますが、正しい情報に基づくリスクの評価と適切な対応が必要だと考えられます。


その他の太陽光パネルのリサイクルに関する各種情報やニュースが、こちらからご覧いただけます。


参考資料

太陽電池のキホン(佐藤 勝昭)
Fraunhofer ISE:PHOTOVOLTAICS REPORT (Freiburg, 22 September 2022)
三菱電機株式会社:単結晶無鉛はんだ太陽電池モジュール新商品発売
日立化成工業株式会社:太陽電池用導電フィルム「CFシリーズ」を開発
JAXA:宇宙用の太陽電池は地上用のものとどこが違うのですか?
産総研:宇宙用太陽電池を街中へ
環境省:水・土壌・地盤・海洋環境の保全 - 一般排水基準
環境省:特定有害物質及び指針値
厚生労働省:三酸化二アンチモンの健康障害防止対策
環境省:太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン(第二版)
環境省:太陽光発電設備等のリユース・リサイクル・適正処分に関する報告書
環境省:産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法
環境省:中央環境審議会廃棄物処理制度専門委員会(平成29年2月3日)