黒猫の舞
彼の目は、ただひたすら、じっと一点を見つめている。
頭を下げた低い姿勢。
瞳孔がぐぐぐっと大きく開く。
次の瞬間、その巨体からは想像もつかない俊敏さで跳び上がり、一直線に獲物に向かってダイブ!
哀れ、鋭利な爪で弄ばれた小さな獲物は、ふわりと宙を舞った直後、がぶり、と鋭い牙の餌食となる。
とっとっとっとっ。
得意げに獲物を咥えた彼が、まだまだこれからが本番、とでも言うように、尻尾を左右にぶーん、と振り、ちらり、とこちらを見る。
私の視線に気づき、ふと我に返ったのか、ポトリ、と獲物を床に落とすと、しばしの間、動きを止めた。
あれ?今日はもう終わりかな、と思いきや、さっとその場を離れ、再び低い姿勢で獲物を睨みつける。
尻尾をぱたりぱたりと床に打ちつけながら、慎重に狙いを定め、再び華麗なジャンプ。
その後も、小さな獲物を全身全霊で追いかける彼の舞は、しばらく続いた。
ひととおり満喫すると、もう飽きちゃったよね、とでも言いた気に、くるり、と獲物に背を向ける黒猫。そして、のそり、と巨体を揺らしながら私の足元にやってくると、ぴょこん、と膝の上に跳び乗った。
ねぇ、ぼく、すごかったでしょ?見てた?
彼の背中をゆっくりと撫ぜながら、声には出さず、私たちは会話を続ける。
私:すごかったねぇ。お姉ちゃんに負けてないね。
黒猫:ぼくだって、やるときはやるんだよ。
私:うんうん。体が大きいから迫力あるねぇ。格好よかったよ。
黒猫:・・・・。
ゴロゴロと喉の奥を気持ちよさそうに揺らし、満足そうに私の賛辞を聞き終えた黒猫は、すっと膝から下りると、耳の付け根を後ろ足でカカカカッと掻いた。
いつものツンデレくんに戻った黒猫は、尻尾をピン、と立て、何事もなかったかのようにリビングへと立ち去って行った。
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