不幸の星の下に生まれて......【クレオパトラだぞ】
仏教の死生観は輪廻転生,今世での行いによって餓鬼界や畜生界に生まれ変わったり地獄に落ちたり…….はたまた天上界などに生まれ変わって幸せな生活を送ることもあるでしょう.自分も考えたことはあるのですが,今世に希望を見いだせずに来世に期待を込めて……とすることもあるかもしれません.今回はそういう話です.
クレオパトラ視点の話から始まります.夕食の用意ができたといって侍従からカモのオリーブ蒸しが出されますが,クレオパトラはクジャク料理を命じたようでできた料理を投げつけて「この者を死刑にせよ!!」とひどい仕打ちをします.
そんなところで主人公は目を覚まします.
と言ってサンドイッチをほおばります.階段から降りるとよくあることなのでしょう,階段から転げ落ち届いた手紙は料金未納で大家さんから「建て替えといたから後で払ってね」と言われ,手紙の内容も所謂「お祈りメール」.立て続けに不幸があって生きる気力もなく,睡眠薬での自殺を考えてしまいます.しかし,心残りもあるといって喫茶店に繰り出します.
好きな子を誘っても惨敗.なんなら別の男が「こんどの日曜日ね。」と言ったら即答で「きっといく!!」と言ってるのを見てしまう始末…….そんなのを思いながらまた夢を見ます.夢ではローマから戻ったアントニウスに迫られる場面を見ます.目を覚まして店から出て一人寂しく歩いても,前にいちゃついてるカップルがいたり…….
そうぼやいて風呂にでも入ろうかと思い至るも所持金が十円しかなく諦めます.もうかなりはいってないそうで,風呂に入りたいなと思いながらまた眠りにつきます.夢では香料をふんだんに入れた牛乳風呂…….
そんないい夢を見ていたところに友人が来ます.まだクレオパトラの夢を見ているのかと聞き,そうだと言って自分が見ている夢の生々しさを語ります.そんな自身の見ている夢の生々しさから自分はクレオパトラの生まれ変わりなのだと確信します.
これをいつも聞かされているであろう友人は「クレオパトラの生まれ変わりだ」というのを作品のネタにもらうよといいます.
この発想に主人公は感激し,転生の実相がそれだと同調します.実はこの先の話があるんだと友人が言いますが,テンションが上がって腹ペコの主人公は「モデル料としてさしあたり飯おごれ」と言って聞きません.さしあたり寿司を取ろうかと友人は家を出ていきます.そんなところに大家さんが謝金の取り立てに怖い人が来たと教えてくれます.
主人公は殺されると恐怖に怯えますが,先ほどの話を完全に真実だと思ってしまっているので…….
と言って睡眠薬を一瓶全て飲んでしまいます.そこに友人が寿司を特上三人前頼んできたよといって帰ってきて「あ……どうも……」と返事だけして主人公は昏睡状態になっていきます.友人はそんな主人公に向けて先ほどの話の続きをします.
そんな演説が一区切りしたところで主人公は「ンゴ~」といびきをかき,友人は「人に喋らせておいてばからしい」と家を跡にします.そして今までそうしてきたように転生して次の人生を歩み始めます.
最後まで救いのない話です.彼の生の中で唯一美味い思いをしたのがクレオパトラの時代ではありますが,史実でもアントニウスはローマ帝国の初代皇帝となるオクタウィアヌスとアクティウムの海戦で敗れ,クレオパトラも翌年自殺.ここにプトレマイオス朝エジプトは滅びます.
三大美女とも評されるクレオパトラですが,その栄華がアクティウムの海戦まででもしかするとそこですべての幸運を使い果たし,それ以降いくら転生をしても幸運が残っていないということなのかもしれません.この話に救いを持たせるならそんな「一つの魂に決められた幸運の総量が一定」というような仮説を出してあげるくらいしかないように思いますね.
現実では辛い時に逃げるというのは一つ良い手段だと思います.しかし,生を手放して来世に期待を寄せてもそれが良い方向に傾くとは限りませんし,何度転生してもこの主人公のように最悪の星の下に生まれることになるのかもしれません.
結局のところ何か悪いことがあっても一生懸命生きるしかないのかもしれないですね.「あのバカは荒野をめざす」のように……
― 了 ―
pyocopel
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