グリップの哲学

よくあるグリップの分類として、「六角グリップ」とか「三角グリップ」とか、断面図形の角の数を基にしたものが多い。今回は、断面図形を何°回転させれば元の図形に一致するかという観点から、グリップについて考える。

六角グリップは60°、三角グリップは120°、断面を回転させれば元の図形に戻る。


一方、スタビロの『イージーオリジナル』みたいな非対称なグリップは360°回転させないとダメ。だから机に置いた状態からパッと手に取ったあと、指先にフィットさせて書き出すまでにすこし時間がかかる。

最もオーソドックスなペンのグリップ断面は円形で、それを六角形や三角形に変えることで「より指にフィットするようにしました!」と謳う製品は多い。が、対称性を犠牲にすることで、テイクからフィットまでのタイムラグが(ほんの少しずつだが)長くなる事実に留意しなければならない。

また、今回はあまり深く触れないが、「対称性」を捨てるということは「普遍性」を捨てるということに近い。三角グリップは個々人のペンの握り方によって好き嫌いが分かれるし、『イージーオリジナル』のような360°周期のグリップは、そこに掘られた溝が自分の手に合わないと使いづらい。円グリップには、全人類に70点ぐらいの握り心地を提供できるという良さがあり、役所の受付に置いてあるような事務用ボールペンも円グリップが多い(いや、これはコストの問題なんだろうが)。

まぁタイムラグといってもそう大袈裟なものでなく、六角グリップ程度ならあまり気にならないことも多い。しかし、ペンシルの場合だとそこにさらに片減り防止という観点が加わる。すなわち、芯が均等に擦り減るように握る向きをクルクル回転させながら書く必要があるから、ペンシルの場合は「対称性」が特に必要になる。

http://チコちゃんに叱られる.com/3402.html

鉛筆が六角軸であることの理由には諸説あるが、しばしばこの話が持ち出され「持ちやすさと回しやすさの兼ね合いで六角軸なんだよ」が定説のような状況になっている。

実際、筆記具メーカーは「フィット感」と「対称性」のバランスを考えてペンをデザインしているのだと思う。

三菱鉛筆の『アルファゲル』、パイロットの『ドクターグリップ』、ゼブラの『エアーフィット』あたりのソフトグリップはその好例である。断面はあくまで円形であるからどの向きでも握り心地は変わらないが、そのたびにグリップが変形して自動的に指先にフィットしてくれる。うまく「フィット感」と「対称性」を両立しているわけだ。

また、『イージーオリジナル』の類似品に『イージーエルゴ』というシャープペンシルがあるが、これはよく見ると120°周期で一致するタイプのグリップをもつ。

さて、万年筆の場合はどうであるか考えてみてほしい。万年筆を握る(軸周りの)向きは、ペン先によってすでに規定されている。いくらグリップを360°/6=60°周期のものにしても、6通りの向きで持てるわけではない。つまり、「対称性」をいくら高めても、先述したテイクからフィットまでのタイムラグは、軽減されない。ゆえに、万年筆にはできるだけ「フィット感」に全振りしたグリップを採用すべきではないのか、と思うのだが、国内外ともに万年筆は圧倒的に円グリップが多い。

そんな中、ペリカンの『ペリカーノジュニア』などは360°周期のグリップである。

俺は『ペリカーノジュニア』よりも書き味が良い万年筆を多く知っているし、『ペリカーノジュニア』のボディのデザインはとくに好きではないのだが、『ペリカーノジュニア』を使い続けている。その理由は「グリップの哲学」に関して気が合うからだったりする。

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