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リメス・ジャポニカ ラグビーW杯 日本対スコットランド 8強進出の理由

リメスという歴史的な建造物をご存知だろうか。古代ローマ帝国がゲルマン人の侵入に備えて築き上げた850kmに渡る長大な防衛ラインのことである。東洋に万里の長城があれば、西洋にも古代ローマ帝国が作り上げたリメス・ゲルマニクスがある。

「83年、ローマ皇帝ドミティアヌスは、シュヴァルツヴァルトをローマ帝国の版図に収め、この地域の安全を確かなものにする政策を打ち出した。そして新たな軍事境界線として防塁を築くこととした。これがリメス・ゲルマニクスである(ウェキペディア)」

日本対スコットランドの試合で、はっきりと見えたのは、この闘いがリメスをめぐる攻防だという事だった。それが体感できた時、日本がこのスポーツを理解するまでにかかった時間の長さと、これからは簡単には負けないだろうという確信が芽生えた。

ラグビーはヨーロッパ的な戦闘を、模式化したスポーツである。互いに防衛ラインを築き、睨み合い、そして相手のほころびを見つけて、攻撃する。それがリメスをめぐる戦争だ。平野の少ない日本の戦闘は城を巡る攻防か、野戦であり、ラインの闘いといっても川をめぐる闘い程度、大陸規模の長大なラインに対する戦闘の歴史はない。

ラグビーでは個別の戦闘シーンもまさにヨーロッパ的な戦争の局面が再現される。攻城戦の趣きを残すスクラム、馬を駆る竜騎兵の如きラン、狩りとった敵の王の首を征服した領土に打ち付けるトライ。野蛮で勇猛なヨーロッパらしい戦闘の再現を強制するのが、ラグビーのルールだ。
日本人がこのスポーツで勝つには、このヨーロッパ的な戦闘や戦略を骨身に染みて体感する必要があったのだ。

多分この中でも日本人に最も馴染まなかったのが、長く伸びたリメスのラインの管理とその攻略だったのではないか。日本の伝統として局地戦、攻城戦は経験もあり想像も出来たはずだ。しかし狭い国土の人間が国をまたがる国防ラインを想定する事自体が想像外だったのだ。海という自然の国防ラインに守られた日本人の限界が今までラグビーの弱小国に押しとどめていた一因だと思う。

そして我々は遂に日本対スコットランドの闘いにおけるジャパンチームのリメスの統一感を見る。反則を犯さない規律、倒れてもすぐに復帰する前線、体格で劣る相手に二人がかりで当たるタックル、倒れる直前のオフロードパス、そして意表を突いたライン運び。日本人の真面目さと規律そして「柔能く剛を制す」創意工夫に満ちていた。まさに日本化された防塁管理がそこにあった。

後半の敵の反撃から守り続け、結果、防衛ラインで敵を凌いでノーサイドの笛を聞いた瞬間、リメス・ジャポニカは完成した。そしてあの国民をあげた勝利のカウントダウンに、この後のジャパンラグビーの未来をみた。あのカウントダウンの場面で我々は長い防衛ラインを死守する方法を全国民で体感したのだ。若い世代があの攻防戦を記憶に刻む。ジョホールバルの奇跡のように。

多分、これから先も日本ラグビーは強くなる。いずれ強豪国と肩を並べる。女子サッカーが成し遂げたようにW杯で優勝することも夢ではない。

これこそグローバルな多様性を体感した貴重な経験なのだと思う。


にわかでもいいじゃないか!歴史的な体感を与えてくれた選手とそれを授けてくれた歴代のコーチ陣に感謝しよう。

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