日本のサウナに行くと、たまに会話している人たちがいて、まあ私は原則としてサウナ室では静かにしているべきだと思っているので、ちょっと困ってしまう。一番嫌なのは、サウナ上級者がサウナ初心者にサウナうんちくを披瀝しているような場合で、興味もないし気が散る。

ところがたまに、ものすごく興味深い会話を近距離で聞くことができる。先日サウナに行った際、初めて経験したのが、「サウナの中でマルチ商法の勧誘をしている・されている３人組」だ。

３人のうち２人が、既にマルチ商法、いわゆる「ネットワークビジネス」をやっている人で、もう１人が勧誘を受けている側。最初はその勧誘を受けていた１人が、自分の将来設計みたいのを話していて、「俺は学歴もないし、社会不適合者だから、広告の世界で食っていこうと思う」と語り始めて、一応広告業界にも身を置いている人間としては「なんだなんだ？」と興味を持ち、耳を傾けることにした。

そうこうしているうちに、他の２人が、「けどさあ、広告の仕事なんかやったって、どんなに偉くなってもせいぜい年収2000万とかが関の山だべ？」「俺はそれこそ、社会不適合者だけど、●●は努力ができる人間じゃん？」などと、広告の世界に進もうとする青年に対して意見を述べ始める。

で、「実は俺ら、ネットワークやってんだよね。ネットワークビジネスってやつ。」と、紹介されたのは、聞いたことがない横文字のサービス。ア○ウェイとかニュース○ンとかではない、聞いたことがないやつだ。

サウナ室と水風呂を行ったり来たりしながらマルチの勧誘は続く。温と冷のコンビネーションで血行が良くなっている横で、ちょこちょこ名言が飛び出す。

「俺が30人誘って、その30人が１人30人誘ったら、どうなると思う？ 930人。そうなったら権利収入だけで年間2000万円。働かなくてもいいわけ。で。で。で、その30✕30をさあ、60✕60にするのって余裕じゃん？ そうなったらそれを120✕120とか、余裕じゃん？ そうなったら年間３億とか余裕だよ？」

「ア○ウェイなんか、もうみんなやってるわけで今始めてもお金取られるだけじゃん。その点、○○は、まだ日本来て２年。２年だよ？ 今から始めとけば、どんどん人が増えていくわけじゃん。10年後に始めても遅いわけ。今から始めないとおいしくないんだよね。」

「俺たち正直クズじゃん？ だけど俺たちみたいなクズでも、３年。たった３年本気で努力すれば、一生権利収入で好きなもの買って暮らせるわけ。ネットワークっていうのは、そういう、人間を幸せにする仕組みだし、その上で、人間が健康になる商品を扱ってるわけじゃん。なんでみんなやらないのかって思うよね。ニュースでやってるみたいにさあ、年金なんて払われないわけじゃん。もうそういう世の中じゃん。」

そういった一言一言に、笑ってはいけない笑ってはいけないと思いつつ、タオルで汗を拭うふりをして笑ってしまう。

もう、勧誘されている側の１人は落ちそうだった。３人とも裸だ。全裸勧誘だ。

ふと、笑えなくなった。このマルチを始めてしまいそうな男の子が自分の息子だったらどうしよう。このうんこ日記は、基本的に空に向けてツイートするような気分で書いているが、もしかしたら子どもたちが大きくなったら父を偲んで読んでくれたりするのかもな、とか考えることがある。これを読んでいる息子・娘たちは、上のようなフレーズを聞いたらそれはアカンやつなので、ちゃんと逃げて欲しい。