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二級ボイラー実習日記3「ピㇼカウレㇱカ」

二級ボイラー技士の免許を取得するためには、二級ボイラー技士の資格試験に合格することと、3日間のボイラー実習に参加することが必要だ(実務経験とかがあるんだったら免除されたりもするようだが)。

昨日までに書いている通り、既に資格試験には合格することができたので、あとは実習を受ける必要がある。

ゆえに私は北海道は旭川までやってきてボイラー実習を受けに来た。なんで、住んでいる東京や近隣の県ではなく、旭川にやってきたのかという話なわけだが、これはなかなか悩ましい問題だった。

通常、ボイラー実習が実施されるのは平日だ。ボイラー実習は朝から夕方までぶっ通しで行うので、参加するためには仕事を休まなくてはならないのだ。意外に忙しい人間なので、平日に3日連続で休めるタイミングを探しても今年中はなかなか怪しい気がする。だいいち、「ボイラーの講習行ってくるので3日間仕事さぼります」みたいなことはちょっと言いづらい、というか、会社や取引先のみんなを混乱させてしまいそうな気がする。

それに、夏休みとして休めばいいじゃんとか思っても、せっかくの夏休みは家族と出かけたりしたいわけで、何を好き好んでせっかくの夏休みにボイラーの実習を受けねばならんのだということになる。

しかし、ここまで来たのだから免許は欲しい、というか「二級ボイラー技士の清水です。」って言いたい。

そうなると、週末にボイラー実習をやっている場所を地方も含めて探してみよう、ということになった。結果、見つけることができたのが「日本ボイラ協会 旭川地区支部」がやっているボイラー実習だった。旭川は何度か来たこともある、好きな町ではあるし、いいじゃんいいじゃん、ということで同僚からANAの株主優待券をもらって割引価格で旭川への飛行機を予約した。実習は土日月なので、月曜日だけお休みを頂けばどうにかなる。

よく考えると「ボイラー実習受けに旭川行きます」というのも酔狂な話だが、酔狂我が人生なわけだし、ちょっと文学的な響きすらあるので良いだろう。

というわけで、実習に先駆けてちょっと早めに旭川にやってきた。旭川までやってきてボイラー実習だけ受けてそのまま帰るのももったいない。ので、早めに行ってワーケーションをすることにしたのだ。

時間を見つけて、上富良野にあるサウナー北の聖地・吹上温泉白銀荘にも行ってきた。

ずっと行きたかった川村カ子トアイヌ記念館にも行ってきた。アイヌ文化についてはデザインから音楽から哲学から何から、若い頃から好きすぎて、いろんなところのいろんなコタンや博物館を訪れてきたが、旭川の有名なアイヌ記念館は行ったことがなかったのだ。

アイヌ語には「ピㇼカウレㇱカ」という言葉がある。「何も欲しいと思わない。何も食べたいものがないほど満たされた暮らし」という意味で、つまり、「足るを知る」というか、「(貧しかったりしても)今の暮らしでいいじゃん」という現状肯定っぽいフレーズだ。

会社なんかやってると、どうしたって資本主義ベースの生活になる。「成長」と言えば聞こえは良いけど、貪欲に勝利を重ねるという目標に疑いを持てなくなったりする。しかし、資本主義が本気でどん詰まり始めているいま、「ピㇼカウレㇱカ」だなあと思ってしまう。難しい話じゃなくっても、ここのところ自分はいろいろなものを追いかけすぎて混乱していたし、改めてこういう場所を訪れると、「ピㇼカウレㇱカ」だよなあと思ってしまう。




旭川をちょっとだけ満喫しつつ、今日からボイラー実習だ。いよいよ、まだ見たことがない本物のボイラーを触れるぞ! と意気込んで会場に向かった。昨日の日記でも私は意気込んでいた。

が、着いてみたら今日は座学だった。しかも、わりと試験で出てくる知識の座学、つまり私が既に勉強して知っている内容の座学だった。ボイラー実習は、試験に合格した人だけが受けるものではなく、試験を受ける前の人が先に受けても良いものなのだ。実際、40人くらいいる参加者の中で、既に合格している人は私も含めて7名だったらしい。



それにしても、これは試験を受けに行ったときから感じていたが、ボイラー業界、ほぼ男性しかいない。試験のときはたぶん300人くらいの受験者がいて、ぱっと見全員男性だった。

今日の教室も、ぱっと見というか、明らかに全員男性で、教室内はテストステロンでムンムンな状態だった。

男性比率が多いテクニカルディレクターという職業の団体と会社を運営しているのでお前が言うな、という感じもするが、職業によってはどうしても性別が偏ることはある。力士とかみたいに、そもそも女性がなれない職業もあるわけだが、それにしてもボイラー業界はそんな制約もないはずなのにそっちに振り切っている。

今日の先生は、もともと自衛隊でボイラーマンをやっていて、定年退職をしてボイラー講師に転身したらしい。

「ボイラーマンは五感を使え!」って言っててかっこよかった。

授業は9時開始、17時30分終了。ものすごく長い。しかも、既に勉強を重ねた内容だ。気づけば教科書に絵を描いている自分に気づく。高校生以来の感覚だ。

その中でも、やはり面白かったのは、ところどころに出てくる「北海道感」だ。何しろここは旭川で、いまここに集まっているのは旭川周辺のボイラー野郎たちなのだ。

まず、北海道は寒い。寒いからボイラーは非常に重要なのだということ。マイナス30度とかが3日くらい続くと、ボイラーも動かなくなるしやばい。名寄とか旭川とかの超寒いところでボイラーやろうとしている俺たちはすごいんだ、みたいな話。

石狩川と天塩川では水に含まれる不純物が違うから、ボイラーに付着するスケール(不純物の塊)も違ってくるからどこの水源かをちゃんと確認しよう、とか。

旭川総合体育館のボイラーはめっちゃすごいから見に行ったほうがいい、とか。

旭川は条例で燃料はA重油(サラサラしたやつ)しか使っちゃダメで、B重油とかC重油(ドロドロしたやつ)は禁止、とか。

あと、随所で、北海道弁で「捨てる」という意味の「投げる」がめっちゃ出てくる。

授業前の説明からして、「ペットボトルは分別して投げてくださいね!」とか言ってて、「ああ、ここは北海道なんだな」と思わされる。

授業本編でも、「煙突から熱を投げるんです」とか「ここのコックから不純物を投げます」とか、「投げる」のオンパレードで時折頭がバグりそうになる。「熱を投げる」とか、すごく文学的で素敵だ。

会場は、旭川勤労者会館という貸し会議室・カルチャーセンターみたいなところで、途中で講習をやっている隣の部屋でピアノの練習が始まった。隣の人は、ずっとエヴァンゲリオンの「残酷な天使のテーゼ」を弾いている。

元自衛隊のボイラーの先生が、「残酷な天使のテーゼ」をBGMにして、給水内管について説明している。なんかすごいクライマックスなことになってきた。

明日からは「シミュレータ」なるものを使用して、いよいよ実地に入っていく、みたいなことを言っていた。

正直今日の授業は徒労感もあったが、なんだかんだ北海道感もあって、ピㇼカウレㇱカだなあと思った。

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