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美しく強くあざといひとたち

一日家を空けただけなのに、帰ってきたら季節がガラッと変わっている庭の様相に、思わず声をあげる。
つんつるてんだったカシワバアジサイの枝先にいっせいに葉芽が吹き、
数年間植え替えを怠っていたせいで成長が止まり、花はつかないだろうとあきらめていたムスカリの細長い葉には、小さめの花が咲き始めている。
ケヤキ、エゴ、その他の草木もいきなり芽吹いたり伸びたりしていて、ちょっとした浦島太郎的タイムスリップ感。

少し前に見た、NHKスペシャル「超進化論」で、人が植物をなでることは生育によくないという実験結果を発表していた。
植物好きな人にはショッキングな話だと思う。その番組を見た後しばらく、剪定したり手入れをするたび、じゃっかん遠慮がちに触れていた。
最近すっかりそんなことも忘れていたが、短い留守の間にめっちゃ成長しているひとたち(植物たち)を目の当たりにして、再び思い出した。
「そんなに触られたくないんですか」
「わたしがいないほうがいいんですか、そうなんですか」
となぜか敬語で詰め寄っても、当然ながら答えてくれる者はいない。

超進化論の件は横に置いといて、植物が見せるサプライズにいつも心動かされる。このひとたちは、美しく、何より強い。
庭にあるのはほとんどが野生種ではなく園芸種ゆえ、手入れを間違えれば成長が滞り、最悪の場合は枯れる。だけど彼らには奥の手があって、たとえば、枯れた翌年、同じ場所に新芽が出ることはざらにある。
種子を飛ばし、球根は土中で分球し、ちゃっかり繁殖している。
植物の戦略的な生態については、さまざまな本に書かれよく知られていることだが、このように植物の限りなく動物的なところが、とても好きだ。

同時に、あざとい。
なかなか開かない蕾がとうとう開いたのが誰かの誕生日だったり、
ひとりで何かを決心し、小さく気合いを入れている朝、こっそり芽吹いている葉を発見したり、
植物の営みがひとの心に響くことを知っているとしか思えない、そんな瞬間が時々おとずれる。
望んで叶えられるのではない、想定外の贈り物のように。

さあ、今年も春が始まり、深まっていく。
美しく強くあざといひとたちとの対話を続けよう。






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