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#38 資格の話 (4)

(前回までのあらすじ)
独学や通信での勉強に限界を感じた私は、資格スクールの通学コースで勉強し直した。自信を持った私は2回目の本試験に臨むことに。

試験会場では、思いのほか緊張しなかった。通学コースで同じクラスだった知人と会話する余裕もあったくらいだった。
午前中は択一式試験、210分の長丁場だ。試験は労働科目から始まるが、科目ごとに時間が区切られないので、ここをサクサクと進められれば後半の社会保険科目で時間をかけることができる。そこは模擬試験でも心がけていた戦術で、本試験もまずまず狙いどおりにできた。
ただ、社会保険科目はやや自分にとって手強い内容だった。難しい問題は後に回すことにしていた(1問平均3分で解かなければいけないので、延々と頭を抱えている余裕はない)が、社会保険科目ではそれが相次いで出てきたのだった。

このあたりから、徐々に私の中で余裕がなくなってきた。
…おかしい…
…模擬試験ではちゃんとできていたのに…
私の悪癖が頭をもたげてくる。私は問題がわからなくなると余計なことが頭の中を駆けめぐり、目の前の問題文が入ってこなくなる。問題文が文字の連続に見え、意味があるつながりに見えなくなってしまい、集中力が途絶えてしまうのだ。
幸いなことに労働科目で作った時間の貯金があったので、別に差し迫ってはいなかったがトイレに行って切り替えることにした。
(本試験では試験中にトイレに行くことができる。監督者が同伴してくるので落ち着かないが)
5分も経たずに自席に戻り試験に取り掛かったが、年金2科目の問題はやはり手強く、なかなか事態は打開できない。それでもなんとかマークシートを埋めて、択一式試験の時間が終わった。

模擬試験の時から、昼の休憩時間には午前中の問題を見返さないようにしていた。どのくらい得点できたかを思い起こし、午後の試験に備えることにしていたが、この日は40点行くかどうかと想像していた。例年択一式試験の合格ラインは42点前後なので、仮に全体的に出来が悪ければ40点でも合格することがあるが、普通に考えると厳しい。選択式試験で満点を取ったとしても択一式試験をカバーすることはないのだが、絶望的な低得点でもない。ここで切り替えようと奮い立った。

午後の選択式試験が始まった。1科目10分の割り当てだが、1科目当たり5つの空欄を選択肢から埋める形式なので、答えが分かれば3分程度で通過することができる。実際、労働系4科目はあまり詰まることなく25分くらいで解き終えた。
そして6科目目、健康保険法で「それ」が訪れた。

…?

何が書いてある?
この選択肢は何だ?
問題文も選択肢もさっぱりわからない。いや、日本語が書いてあることはわかるが、その文字列が何を意味しているのかわからない。確かに講義で習ったところだし、テキストにも書いてあった。しかし、何と書いてあったかさっぱり覚えていない。
これを「頭が真っ白になる」というのだろう。空調は利いていたのに、じわりと汗が滲んでくる。小刻みに手が震えてくる。思い出せ、思い出せと言い聞かせるが、焦るほどに記憶が遠くへ逃げていく。ガタガタと足まで震えてきたが、何も頭には浮かんでこない。
気づくと健康保険法だけで30分近くを浪費していた。このままでは残る2科目が空白になってしまう。そこで年金2科目に取り掛かることにした(「わからない問題は後回し」という自分で決めた戦術すら忘れていた)。
なんとか年金2科目を片づけたが、あと残す時間は10分もない。とりあえず解答を埋め、空欄を避けた。
それでも何の自信もなく、それほど長くもない問題文を何度も読み返した。
そして残り1分を切った時、5つある空欄のうち2つについて、ふと「こっちじゃないか?」との考えがよぎった。そして一気に消しゴムでマークを消して、答えを変えたところでタイムアップを迎えた。

それまで選択式試験で時間をフルに使うことがなかったので、試験が終わったときは自分でびっくりするくらいぐったりしていた。
とにかく試験は終わった。まず健康保険法は何だったのか、その場でテキストを開いて復習することにした。

…呆然とした。

5つ全部不正解だった。
しかも試験終了間際で答えを変えた2つの選択肢は、変えていなければ正解だった

この日、家に帰るバスで私は虚無だった。
何が起こっても、科目得点ゼロで合格することはありえない。不合格確定だった。

その後感じたことだが、可能なら模擬試験は複数のスクールで受けるべきだった。私が通っていたスクールは比較的簡単で、得点が取りやすいものだったようだ。私はその試験で浮かれていたので、しっかりと地固めをしないまま本試験に臨んだため、あっさりと足を掬われたのだった。

秋に試験結果が送られてきた。
択一式試験は42点(合格点は45点)、科目別の最低点割れはなかった。
選択式試験は21点(合格点は25点)、科目別では言うまでもなく健康保険法が最低点割れだった。

(続きます)

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