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#41 資格の話 (7)

前回までの6連続投稿で、社会保険労務士試験への挑戦から合格まで、7年にかけて4回受験した顛末記をお届けした。
社会保険労務士試験は合格者が多いが受験者も多く、しかも最近の合格率は5%前後で推移するのが当たり前になってきている。受験を始めた頃は「何回も受験することはないだろう」と高を括っていたが、結果を振り返ってみればいわゆるベテラン受験生に片足を突っ込んでいた。
そこで、社労士試験受験体験記シリーズの最終回として、これから試験に挑もうとしている方々の参考となるかもしれないことをお伝えしたい。もちろん個人の感想にすぎないし、受験1回でストレートに合格しようとしている方にとっては参考とならないかもしれないが、どこかに引っかかるところがあれば幸いだ。

1 記憶力逓減の法則

以前の記事にも書いたが、年齢を重ねると記憶力が徐々に減退する。鍛え方によってそのペースを緩めることはできるだろうが、ストップさせることはおそらくできない。
社労士試験の受験者の年齢層は幅広いが、現役の学生が挑戦するというケースはあまり多くないと思われる。実際、昨年の合格者で現役の学生は1%しかおらず、年齢でも24歳以下は2%もいない。仕事をしながら勉強を進めている人が大多数だということだ。そのため、勉強以外にも頭を煩わせることも起こるし、ただでさえ記憶の歩留まりが悪くなっているのだから、学生時代のように「困ったら直前期に詰め込んで丸暗記勝負」というバクチはおおむね失敗する。
私は学生時代から記憶力があまりよろしくなく、そのため記憶に頼る分野を極力減らすような勉強をしてきた。社労士試験ではとにかく数字がこれでもかと出てくる。しかも出題は2つの似たような制度の数値を入れ替えるなど、あたかもそれが正しいかのように見せかけてくることもあるので非常に面倒だ。ただ、それ以外の部分(制度の設計や統計の傾向)まで記憶に頼ることはしなかった。幸か不幸か私は複数回受験したので、勉強に充てる時間はストレート合格を狙う受験生に比べると多かった。そのため、制度趣旨や統計の傾向(数値ではなく、「増加しているか、減少しているか」「一番多い(少ない)ものは何か」)という点について、「なぜそうなっている」という点をテキストや白書から読み込むようにしていた。
人の記憶容量には差があるが、私はとりわけコンパクトサイズだったので、この方法でなんとか合格までたどり着いた。持論だが、社労士として今後開業する際にクライアントから「なぜこうなっているのか」と問われた際に、「いや、制度がこうなってるから仕方ないんです」と力技で説き伏せようとしても信頼は得られないだろうと考えている。そのためにも、時間はかかるがベースからしっかりと学んでおくことで、後になって「忘れた」として再度見直す手間は省けるだろう。

2 予習より復習を

どの勉強でも言われることだが、先んじて勉強したところでそれが独りよがりで間違っていれば意味はなく、確かな方法で学んだものをしっかり定着させるためには復習を充実させるしかないと考えている。
資格スクールに通っていた頃、私は復習10、予習0で講義に臨んでいた。ある意味講師の先生を全面的に信頼していたといえるし、これは極端に過ぎるかもしれない。一般化するなら、予習3に対して復習7くらいだろうか。いずれにしても、復習を充実させることで記憶の歩留まりを向上させることにもつながるので、同じ時間をかけるなら復習重視にしたいところだ。

3 過去問とオリジナル問題のバランス

過去問は非常に重要だ。受験生になると「本番までに過去問を何回回したか」(1回回す=一通り解く、という意味。この「一通り」を5年分とする人もいるし、10年分とする人もいる)が勉強量のバロメーターになるが、1回も回さずに本番に臨むのは無謀に過ぎる(し、おそらく本気で合格しようとするならそのような人はまずいないと思うが)。
本番が近づくにつれて過去問を回していても思いのほか解けないスランプに陥ると、「勉強量が足りないのではないか」と不安に駆られ、過去問以外のオリジナル問題が掲載された問題集に手を出そうとしたこともあった(結果として手は出さなかった)。私の見解としては、オリジナル問題が無為だとは思わないが、それなら愚直に過去問を解いた方がいい。今のところ、過去に出されたテイストが突然がらりと変わったことはない。出題委員も少しずつの入れ替えはあるようだが、全員入れ替えという事態はないので、出題傾向が180度違うものになるというリスクは考えられず、過去問を繰り返し解くことには十分な意義がある。
また、オリジナル問題を解きたければ、資格スクールの模擬試験を受験することで実際の時間配分や周りの雰囲気を体感することができるのでおすすめだ。受験指導のプロたちがこれまでの傾向を踏まえて練りこんだ問題が出されるので、過去問と模試を何度も繰り返して解くことで十分だと考える。ただし、模試を受けるなら複数のスクール(主催者)で受けた方がよい。私の経験として、1つのスクールだけで受けるとその難易度が本番とずれていた場合、本番までの勉強の目安が大きく狂ってしまうからだ。

4 どの科目から勉強を始めるか

まったくの初学者でこれから勉強を始めようとする方にとって、山ほどある科目のどれから手をつければいいかわからない人もいるだろう。多くの資格スクールや参考書では、本番の出題順に沿って労働基準法から始めるようになっている。
もちろん好きなように勉強すればよいのだが、私見としては、労働基準法・労働安全衛生法は最初か最後にすべし、と考えている。この2法を他の科目の合間に勉強するという人は多数派ではないだろうが。
理由としては、労基法・安衛法だけ法律のトーンが違う、つまり制度の仕組みや趣旨が他の法律と異なるため、理解へのアプローチを切り替える必要があるからだ。社会保険や労災保険、雇用保険はいずれも「保険法」なので、保険の仕組みを勉強することとなる。それに対して労基法・安衛法は守るべき基準を示して、違反した場合に取り締まるという法律だ。保険法と同じアプローチで勉強するとおそらく混乱する。なので、頭を切り替えるために最初か最後にした方がよいということだ。
では労基法・安衛法を最後に回した場合の最初の科目は何にするとよいか。私は健康保険法をお勧めしたい。社会保険の法令は健保法に加え国年法、厚年法があり、さらに一般常識として国民健康保険法や介護保険法などが続く。これらの法令は基礎の部分が似たような作りになっており、どれか一つの制度でしっかりとマスターしておけば他の科目に応用できる余地がある。ではどれで勉強するかとなると、健康保険が一番身近で理解するのに時間を要さないだろうと思われるからだ。さらに、健康保険と厚生年金保険は手続きが一本化されているなど共通部分が多いので、後で厚年法を勉強する際の手間を省くことも期待できる。

5 労働一般常識はどうする?

私が受験していた頃から、労働一般常識(労一)は鬼門と呼ばれていたし、実際私も苦しめられた。特にここ数年は労働関係の法令が出題されることがめっきり減ってしまい、白書(統計関係)が占める割合が高まっている。
「統計ばっかり出しやがって」という批判を逆手に取ったのか、昨年の選択式ではついに労働関係の統計の名称20個の中から正しいものを選択させるというエクストリームな出題まで果たされてしまった(これをパーフェクトに解答できるのはおそらく行政で統計に携わっている人だけだろう。また、世の中で開業している社労士でこの問題をちゃんと解ける人がどれだけいるのだろう。少なくとも「一般常識」と謳っている以上、社労士なら普通に解けるはずだし、そのようなレベルの問題であってしかるべきだと思うのだが)。
一応、私は厚生労働省のホームページから当年度分と前年度分の厚生労働白書をダウンロードして、上に書いた「傾向」を読み取るようにしていた。で、これを超える部分が出たらもう白旗を上げようと思っていた。出題方針の是非には色々言いたいところだが、とりあえず受験する立場としては最低限ここは押さえておこうというポイントにとどめていた。これを漏れなく勉強しようとすれば、白書対策だけで数科目分の時間を費やしてしまうことになるし、それでもまんべんなく勉強が進んだかチェックする術もない。
現行の労一の難しさが今後改善されるかどうかはわからないが、とにかく選択式なら石にかじりついてでも2点を確保する、そのためなら他の3点分のジャンルは一切勉強せずに捨てるくらいの覚悟で割り切らないといけないと思っている。

とりあえず思いつくままに書き連ねてきた。偉そうに書いているが、私自身勉強開始から合格まで7年を費やしたし、受験回数は4回に上った。優秀な方であればもっと合理的、経済的に合格までたどり着くことができただろう。しかし、勉強方法によっては時間を費やしても合格まで至ることもあるということを知ってもらえれば幸いである。

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