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【笹井宏之賞応募作】山城周50首連作「あるいは象徴が」(あとがき付き)

飛ぶあいだねむっていいというように暗くなると誰も喋らなくなる
(この席にお座りになる方は緊急時手助けを頼みますがいいですか)
Mr./Mrs./Miss. あきらめがつくより前に滑走のおわり
空港も人もシンメトリーなとき燃やすのに最も適している
ターミナル循環バスに乗りこんで呆けて空を見る役の人
人が手に握るパスポートの色をちらと見るできれば国章も見る
従順は穏やかさではないことを知りつつ少しずつ列うごく
きみを守るたくさんの身分たくさんの出自簡潔な受け答え
からかいの言葉を浴びながら歩くすがたを花で喩えられても
花が咲いたようだと花をあげるからと花咲かせよと微笑むばかり
その花をだれでも胸にたずさえて花投げ入れる棺も持てり
人を人でなくす方法は多くある頭蓋に特徴的な傷がある
コーヒーの底にしずんでいる粉が少し口にはいって吐き出す
遺跡にはかつて王土がきょう恋人たちが栄誉のごとく集って
祈りのためのみに至れる部屋がありあなたに祈る資格はないと
分かろうとして上を見て下を見る目玉にいずれ這う原虫よ
(川岸の階段は滑りやすいから気をつけて沐浴をしてください)
犯行は夜道に行われやすいから気をつけて自衛をしてください
(赤い布があなたを誘惑から守り弱いあなたを隠してくれる)
赤いしるしをつけられて花嫁は壇上の火をめざす
不幸から女を救うのは男 六周半 火をまわったとこで
〈神話のいくつかのヴァージョン〉 あるいは衆愚の競い合い
問うことをためらっているまばたきを見つめなくてはその火のために
人が決めたものを見たくて国境の上に立つ網へ車で向かう
(わざわいの裔としてゆくものに罰を更なる罰を折れた棺を)
侵略の裔として地をゆく窓に手が手が突っ込まれて手がくる
ゆっくりと五指ひろげきて確信のごとくに汗光る皺がある
(そんなふうに怒っていては誰もきみの話を聞き入れてくれないよ)
この国は、いやここが国だったときは、で話し始めて、で進まない
(君は***には見えないよ)敬意には敬意で返すからには今は
聞き取れずペンを持たせて手の甲に名前書かせて読み上げさせる
昼の暗さ 復活のならわし イエス像にかけられる黒布
死者を見て死を思うのはおかしきこと生きているもののうちにこそ死のある
ゆっくりとまぶた閉じゆくこの牛ほどのまぶたが私にあればよかった
燃える森が それは人を(人は私を)死に至らしめる夜の湿りが
告発が誰を刺す刃か 被害者にふさわしくないと柄持たされる
どれだけの落ち度を教えてくれるのかだいったいどれだけの落ち度を私におまえたちがわたしに
品質特選安全燐寸この桃を喰うて不浄でないとしめすか
生きたまま焼かれることが貞節を信じてもらうためのあかしか
聖句ひとつ呟くことが何になる砂の舞い込む床に頬ずり
もろき刃を林檎の芯に入れるときゆきどころなくかたまる殺意
奪えと言われたら奪うのか共犯の手つきに鈍く雲歪められ
夜の湿り 夜に悪意の咲きいづるサルスベリへと人は歩めり
バスは道をまっすぐ進む荒野には馬がゆき山羊がゆき犬もゆく
ここからはどこも遠いと聞かされて窓によぎったあれは鳩かも
Everywhere is far from here and then a pigeon passed away, a pigeon maybe.
今までは何度 これからも何度 奪われるのか あと何度
わたしの火をわたしの薪をわたしの灰をわたしの欲望を奪うな
(自分でつけた名前だけれど誰からも正しく呼ばれないけどいいよ)
春が来れば山羊たちが草を食むことになるから春が来ればいいから

第1回笹井宏之賞に応募した50首をそのまま載せています。

ここからはあとがきです。

今回の賞で最終専攻に残り、野口あや子さんから○を貰えたことは望外の喜びでしたが、応募段階でgoogleフォームに性別欄の選択があり、男女どちらかを選ばなければ応募できないことは大変な苦痛でした。編集部の方は第2回以降、改善していただけたらと思います。私は私のこの連作が、選評で評されているような連作なのか分からなくなっています。ですので、どうぞ読者の皆様に判断していただければと思います。

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