月影くみ

女、母、BTS ARMY、文学を愛する人間、看護師。言葉の持つ可能性を信じている。読ん…

月影くみ

女、母、BTS ARMY、文学を愛する人間、看護師。言葉の持つ可能性を信じている。読んだ本の感想、沸き起こる感情やふと目にした光景などを言葉にしてみています。

最近の記事

旅立つ母を見つめながら

目の前にいるのに 私の名を呼んでくれない 手を握り返してくれることもない 目を合わせることもない 母が私の知らない姿になってひと月 口からは人工呼吸器 鼻からは経管栄養 排泄には他人の手 母に会いに行くのは 懐かしくて心落ち着くこと 嬉しいことだったのに 今は毎回心が潰れる 最後に言葉を交わしたのは めずらしく東京に雪が積もった夜 いつも愚痴を聞いてくれては 同調することなく意見を言ってくれて それでも世界一私の味方でいてくれた母 もう1度話がしたい 微笑みが見たい

    • まるくて優しい12月

      北風が頬を刺すような通勤路 寒さをしのぐために 陽だまりで背中をまあるくしている猫たち。 久しぶりに会う友だち 大人になって何年も経つのに 相変わらず矛盾や苦手をいくつも抱えている 普段の失敗もしんどさも何故か可笑しくなって 心がまるくなる私たち。 推しのコンサート 顔も見たことのない人たちと 電波空間で愛しい気持ちをシェアし合う 推しを、そしてお互いを想い合う言葉が飛び交う 目の前の四角から 温かくまるく広がる世界。 外から帰ってくる家族 一緒についてくる、氷のような

      • I, the best of you?

        あなたから「愛しています」と言われると、 私だけの楽園が目の前に広がる。 あなたは私の命の源泉。 これから何がどう変わっても、 私はあなたと一緒にいる。 この声は、きっとあなたに届かない。 空を見上げると、 私の言葉は空気にスッと溶け込んで、 忽ち無色透明になってしまうようで、 どうしようもなく虚しくなる。 けれど、確実に信じられる。 あなたの目、あなたの声、あなたの心。 それなりに真面目に生きてきた私の目は、 それが嘘か本当かどうかくらい見分けられる。 だから、私は

        • 閉じられた場所での過去の継承、未来の模索ー李琴峰「彼岸花が咲く島」

           ※初めて読書日記を書いてみます。  SF小説。  作者の李琴峰はこの小説をそう位置付けている。確かに、存在しない空想の〈島〉を舞台とし、時代設定は過去のようでも、現在のようでも、未来のようでもある。登場する人たちが使う言葉は、日本語のようでありそうではない、不思議な言葉。そうでありながら、物語の中の人々の生き生きとした感覚は、私が現実世界で接している感覚と何度もリンクした。  比較的薄い本ではあるが、スラスラとは読み進められない。謎めいた言語や現代世界とはかけ離れた生活の

        旅立つ母を見つめながら

          愛国と憂国

          ある平凡な朝の いつも通りの何でもない通勤ラッシュの光景。 時間通りに出勤通学する人たち 身も心も潰れそうな車内で 静かに各々過ごしている 先に降りる人のために入口を空けて並んで待つ 穏やかにアナウンスする駅員 乗客を押し込み安全を確認する 彼らの仕事で日本の朝が成り立っている やるべきことを真面目にこなす人たち これを見て思う ああ、日本はいい国、日本人は素晴らしい 日本が好きだ そんな人たちが真面目に働いて作った国の財産を あの素晴らしい人たちが毎日息切らしながら

          愛国と憂国

          人間としての超越

          私の中に確実に存在する 肌の色の違う人への違和感 私の心からむくむくと沸き起こる 成功した他者への嫉み 私の脳裏を過る 怠け者と見なされる人への自己責任の押し付け 私の目が反射的に識別する 「あの人はこう」というカテゴライズ あなたたちが叫んでいる 他国の人たちを蔑むおぞましい言葉 人間の内面は、悪意やら煩悩やらに溢れている でも、どれも押さえ込み乗り越えられるのだ 毒を吐くのではなく、実りある言葉の種を蒔こう できるはず、人間として。

          人間としての超越

          月経由で会いましょう

          あなたに会えなくなって、どの位経つだろう 会いたい、会いたい 思っては言い、言っては思い 寂しくて、恋しくて仕方ないけど わきまえた大人である私たちは 泣くことも喚くこともせず 前向きを装って 優等生的に「会える日は必ず来るから」と 自分を納得させる ひとりになると 蓋を無理やり閉めていた感情が溢れる あったはずの私たちの時間を奪った何かを、 誰かを、呪いたくなる 夜空を仰ぐと、静かに佇む月を見た ひとり静かに、青白く光る月 孤高の美しさに目を奪われる あなたもきっと見

          月経由で会いましょう

          雨の秋、君を待つ、心は春

          秋、雨降りの新宿 どんより垂れ込める灰色の空 肌寒い上に冷たい雨が服を濡らす 髪は纏まらずアホ毛だらけ こんな大嫌いな日なのに 心は春のように暖かい 君を待つ、というだけで どこに立てば、君に私が見えるだろう 約束まで大分時間があることに気がついて とりあえず近くのカフェに入る  注文したコーヒー、周りの人 全てベールを1枚被せたように そこは君を待つ私だけの世界 少し早いけれど、また外に出て傘を差す でも、傘で君が見つけられないかも そう思ってそっと傘を閉じた 車の

          雨の秋、君を待つ、心は春

          無意識の加担

          あるk-popアイドルグループのファンページ 悪意のない書き込みが目に入る 「私たちは差別なんてしないよ」 でもどうだろう? 君のポーチに入っているリップ 美肌づくりに勤しむ君のサプリメント 知っている? そのメーカーの経営者が 何を言っているか しかも、堂々と。 差別なんてしない 君は言うけれど 差別している人を知らないこと 差別している人に投資すること 差別している人に沈黙すること これは全て 知らなかったでは済まされない 差別への加担なのだ。

          無意識の加担

          蜜蜂との共鳴

          冷たい雨に打たれながら歩いた朝の通勤路 水溜りを1匹の蜜蜂が彷徨っている 濡れそぼつ全身の羽 重たくなった身体に途方に暮れているよう その姿に目を見張る 私たち同じみたい 年を重ねるごとに引き受けねばならない 責任、負担、重圧 頼られても道なんて分からないけれど 何とか乗り越えようともがく 様々な荷物を抱えて 今日も重たい身体を引きずる 蜂のいる水溜りを通り過ぎて思う 雨が上がったら 日差しを浴びて羽を乾かし 軽やかに飛んで行くことができるだろうか その時が来たら私も

          蜜蜂との共鳴

          Brighter days are ahead

          カマラ・ハリスが車窓から見つめていた 柔らかい日差し その光を見ながら呟いた言葉 私だってそう思いたい そう思いたいけれど 画面に映る この国の指導者たちの虚な目 TVをつければ政策ではなく政争ばかり 何も変わらない 飛び交う憎しみの言葉 非寛容な態度 社会が丸ごとイライラして 目の前のことだけが世界の全てになっている 暗澹たる気持ち それでも、何度も呟くべきなのだろう 呪文のように Brighter days are ahead Brighter days are

          Brighter days are ahead

          春を思う娘へ

          15年前に私のお腹から出てきた 小さく軽く頼りなかった子が  果てしなく複雑な外の世界に戸惑い 自らの深い心の闇に苦しんでいる 春を思う季節を迎えた娘 もうあの時のように 抱き上げて揺らして 落ち着かせてやることはできない それでも見守り続けたい 岸から離れていく船を いつまでも見送るように 伝え続けたい 貴女は素晴らしい 貴女は美しい 恐れと共に生きていけるようになるまで 一緒に悩んで泣いて そばにいることはできるから

          春を思う娘へ

          無限のつぶやき

          片手に収まる無限の空間を飛び交う 所有者不明の毒 いつも突然目の前に現れて  私の心を凍りつかせる 言葉というものは 人差し指1つで作れる暴力 どんな兵器よりも悪質で 人の心に侵食する そんな毒を中和してしまえるよう 私の人差し指を使おう 無限の空間に 今日も愛と希望を送ろう

          無限のつぶやき

          宇宙に小石を投げるように

          私という小宇宙で懸命に紡いだ言葉を SNSという宇宙に投げてみる あっという間に他の投稿に埋もれ さっきまで私のものだったのに 最早行方さえもわからない まるで広大な宇宙に小石を投げるよう そんな宇宙で知らない誰かに見つけられ 光を当てられること 小さいけれど大きな奇跡ではないか? 見つけてもらえるかも分からないけれど 今日も小石を投げ続ける

          宇宙に小石を投げるように

          何でもない初秋の朝に

          ある9月の朝6時半、 洗濯台を拭きにベランダに出た。 綿あめのような薄い雲がかかった、深く青い空。 遠くから優しく登る朝日。暑くも寒くもない朝の空気。 秋特有の、香ばしい香りを吸い込む。 それは乾いた土、熟成した木々の葉から出る生命力を含んだ風。 しばらくすると、近所からの朝食の香りに置き換わる。熱々に煮込まれたスープ、こんがり焼かれたパン。 何でもない日の朝、世界に満ちた幸せの香りを忘れないよう、心の宝箱いっぱいにつめ、人々の幸福を祈った。 おはよう。

          何でもない初秋の朝に