セブン・イレブン-ジャパンという名の鈴木敏文についての持論

2月のテーマは起業。
の、前に。
本日は起業する前の話。
つまりサラリーマン時代。憚りながら、僕にもあったりした。

セブン・イレブン-ジャパン

僕がサラリーマンを経験した唯一の会社。
4年間勤めましたが、最高の会社でした。
僕の『仕事力』のベースはここで育まれました。

この会社を語るには、創業者であり、経営者でもある鈴木敏文会長を語るのがよい。セブンイレブンという名の鈴木敏文なのだから。

で、今回は『鈴木敏文』についての持論を展開しようと思う。僕の鈴木敏文論は巷で伝えられ ているものとは全く違う。が、真実だ。たぶん本邦初公開になるのではないか。

セブンイレブンでは毎週役員試食というイベントがあって、翌週販売予定のお弁当のコンセプトや味について、会長をはじめとした役員全員で評価する。僕は弁当の開発責任者だったので、毎週会長にプレゼンする機会があった。ほぼ叱責される時間ではあったが、彼の考えに間近に触れることで、最終的には彼の喜ぶポイントや怒るポイント、鈴木敏文の他者との『違い』も実感することができたと思う。

では彼の一体何がそんなに凄いのか?

鈴木敏文については、書籍、あるいは雑誌やテレビのインタビューなどで頻繁に紹介されているので、ご存知の方も多いと思う。でも、そこでは彼を美化するあまり等身大に伝えられることは少なく、誤解されている側面が大いにある。

誤解① ロジカルな人物

違います。世間ではデータ分析の神・鬼などと評価されていますが、真逆。彼は直観力が全ての人。直観で感じたことを後付けで説明するのが真骨頂。超のつく右脳型人間だ。感覚で世の中の流れやムードを感じ取ることが得意。答えが先にあって、その裏付けのためにデータを活用しているに過ぎない。データ分析から方向性を導き出してはいない。

余談だが、彼は、社員の直観力は絶対に認めない。ロジックの蓄積を徹底的に求めてくる。これが良くも悪くもセブンの強さでもあり、後継者が育たない理由なのだ。こう書くとセブンイレブンの社員は優秀ではないのか?と思うかもしれないが、いえいえとても優秀だ。ある意味、最強。ただ持論がない。

私はセブンイレブン退社後、経営コンサルタントとして様々な業界、色々な部署の方々を見てきたが、セブンイレブンの社員ほど優秀な社員は見たことがない。社員の仕事や会社に対するロイヤリティの平均値が非常に高く、サボっている人は見かけない。質量ともによく働く。

セブンの社員のイメージを一言でいうなら『ピュアな大人』。 目をキラキラさせながら、鈴木敏文会長の持論をマスコミや部下、オーナーさん・パートさんに熱く語りかける。 これが最強の組織というものだろう。トップの経営理念や方針をほとんどの社員があたかも持論の如く語りだす会社はあまりない。

反面、セブンの社風は経済界でセブンイレブン出身のスターが皆無なことからもわかるように、起業家精神が宿らないのが特徴だ。持論が育たないのがその理由。ここが同じ優良企業であるリクルートとの大きな違い。

リクルートは冒険心のある優秀な学生が集まり、起業家を養成する社風が特徴。退社して実際に起業する社員は枚挙に暇がない。

対してセブンイレブンはピュアな普通の学生が集まり、入社後に鈴木イズムで徹底的に鍛えられる。そして最強のコンビニ専用社員へと育っていくのだ。どちらが、優れているということはないが、 直観経営のリーダー の下では 、リクルートではなくセブンの社員のほうが優秀とも言える。

誤解② 深みのある話をする

しません。基本、彼の話は面白くもなんともない。10年、20年同じ話を繰り返している。ユーモアのセンスも感じることはない。僕は入社して間もない頃、彼があまりにも同じ話ばかりするので、ボケてるのかと心配したほどだ。

その後ボケてないことがわかった。鈴木会長の話は常に本質ど真ん中。恐ろしくブレない。
本質なので変わらないだけだ。だから同じ話ばかりになるし、だからつまらないのだ。

彼の話の特徴は具体的な例を用いて、抽象的に話すこと。毎週(今は隔週)全社員を集めて開催されるFC会議というのがあるが、幹部や上司が集まり、腕を組み、眉間にシワを寄せて会長講話の解釈を巡って喧々諤諤やっている風景はFC会議後の風物詩。

誤解③戦略家である。

ハズレ。例えるなら、ソフトバンク孫さん、楽天三木谷さん、ユニクロ柳井さんなどは戦略家と言える。彼らは別の業界にいても成功したであろう人物。

対してセブンイレブンの鈴木敏文会長は、コンビニビジネスにおいてのみ通用するカリスマ経営者と言える。正にミスターコンビニ。傘下のヨーカドーやデニーズでは何十年かけても成果をだすことができていない。セブンイレブンが大成功し過ぎて話題にならないが。

巷では伝わっていませんが彼の号令で始めた新規事業は1勝5敗がアベレージ。並の経営者だ。

ではなにが一見並の彼を偉大にしているのか?どこが凄いのか?

次に鈴木敏文さんの凄いところ。

ここが凄い① まず発想力。

彼の提案する新規事業は非常識なものばかり。ここでいう非常識とは、世間一般とは違うという意味だ。ただし大衆は常に間違えている。深く、或いはシンプルに考えれば彼の考えは至極まっとうなこと(つまり常識)ばかりだとわかってくる。

なので彼の一見思いつきのような方針は、いつもブルーオーシャン。競合がいない。その分当たればデカイ!競合他社もすぐに追随してくる。コンビニ銀行やコンビニコーヒーなどが成功例。

たとえ5つの新規事業を続けて失敗したとしても、その事業から撤退すれば生み出す損失はたかだか知れている。これに対して採算事業はビジネスモデルが通用する間は何十年も利益を生み出し続けてくれる。しかも1万5000店舗のスケールで。正に『損小利大』。これこそがセブンの強さの本質であり、鈴木敏文の経営の本質なのだ。

ここが凄い② 2つ目は徹底力(絶対の追求)。

一旦軌道に乗ったビジネスモデルは、『絶対の追求』の号令のもと、絶え間ない改善・改良が繰り返される。エンドレス。

40年間、絶え間ないイノベーションを繰り返されてきた現在のセブンイレブンの売り場は野球に例えるならば、4番とエースばかりが揃っている状態。当然強いので試合には連戦連勝。ライバルチームを大きく引き離して独走状態。でも安心・慢心・油断は絶対にしない。彼は病的なまでに慎重だ。

力に衰えが見えてきた選手は直ちに引退させ(死に筋処分)、スター選手は徹底的にトレーニングして強化し(既存商品のブラッシュアップ)、有力選手の獲得は止むことがない(新規商品の導入)。

一旦、成功の方程式ができたなら、それはセブンイレブンに於いては『絶対』を追求する旅へのネバーエンディングストーリーの始まりを意味する。これが鈴木敏文会長の作り上げたセブンのカルチャーであり、最大の参入障壁。マネできない。

コンビニコーヒーを例にしてみる。
まず、テスト販売の結果からレジ前での本格的なコーヒーの販売にはニーズがあることが判る。

佐藤可士和氏にディレクトを依頼して、ブランディングが始まる。(会長のトップダウンで決まる)

商品開発部では、お客様の嗜好やトレンドから美味しくて飲み飽きないコーヒー豆と抽出方式を選定する。(役員試食で会長のダメ出しの洗礼を受ける)

建築設備本部では、商品開発部よりあがった要望、つまり味や提供時間、耐久性、洗浄システム(バイトが15分以内で完了できる)などを具現化するためにコーヒー機器メーカーと気の遠くなるような折衝を重ねる。最終的には必ず必ず必ず開発する。
(会長の前でプレゼン。了承を得る)

全店舗に導入。FCは担当店舗に赴き、パートやバイトに使い方を指導。
(マネージャー会議で会長に経過を報告)

販売開始。爆発的に売れる。

普通の会社では、ここでピークを迎えることでしょう。プロジェクトの成功を祝い各部署ではお祭り騒ぎになるのでしょうか。同じ頃、セブンでは誰も浮かれていない。ここからが始まりだから。

セブンイレブンでは前日の爆発的な販売実績で すら、既に過去の成功体験として扱われる。(会長は過去の成功体験を憎んでいる。時代の変化に対応できなくなるからだ)

問題を抽出⇨改善⇨実行⇨検証⇨問題を抽出⇨改善⇨実行⇨検証⇨問題を抽出⇨改善⇨実行⇨検証⇨問題を抽出⇨改善

以後、上記のプロセスをエンドレスで繰り返し。

これが鈴木敏文さんがセブンイレブンに根付かせた絶対を追求する力なのだ。

ここが凄い③ 最後に人事。

意外だが、鈴木会長の凄さは、実はこれ。

鈴木敏文会長の人事はスーパードライ。よくキレる。私が在籍していた頃は、上司が一夜にして部下になったり、部長クラスがいきなり店勤務になったりが日常茶飯事だった。厳しさは役員クラスに対しても容赦なく、馴れ合いは皆無。緊張感が漂っている。ある意味公平。全社員の前で社長が叱責される光景は、普通の会社ではまず見かけない。

戦国武将的な厳しさと言えばいいのだろうか?彼は孤独を恐れることはない。恐れるのは既存店前年割れだけだ。

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