セブンの平均日販が高い理由

セブンイレブンと競合他社との10万円以上の日販格差については長きに渡り議論されてきた。

この理由を2つの視点から説明したい。

【視点1】

業界トップだから

業界トップにはいつもフォローの風が吹いている。2番手・3番手は無風。それ以下には逆風になるのが経済の掟。トップ企業がこの風を利用する努力を怠らない限り、競合他社の逆転は難しい。

業界トップはいつも王道で行く。安目を売らない。

まず新規出店について。

コンビニ国取り合戦

セブンイレブンは業界トップなので購買力の高いエリアの1番立地に出店できる。業界2、3番手は背後からついていき、その他はニッチを狙う。

基本的にセブンイレブンでは大型合併による店舗拡大をしない。これに対して業界2番手以下は、これ以上セブンとの店舗数の格差を広げないために多少無理してでも他チェーンと合併することになる。そして合併の度に平均日販は押し下げられるのだ。(より平均日販の低いコンビニチェーンとの合併になるため)

ちなみにファミマはサークルKサンクスと合併したことで店舗数の上ではセブンに拮抗したが、年間売上で1兆円もの開きができた。(未来の社会システムを想定すれば、平均日販を落としてでも、今は店舗数の拡大に突き進む必要があるのもまた事実だが)

平均日販が低いと何をするにも不利な条件でのスタートになる。スタート地点がセブンイレブンと違うのだ。

僕はケーキ屋をやっていたので分かるが、流行っていれば、新規商品ひとつとっても、客数が多いので美味しければ必ず売れる。売れるから商品はいつも出来立て、ベストの状態。美味しいからリピートされて、さらにお客さんが増えるという拡大均衡のスパイラル。広告宣伝や呼び込みなどしなくてよい。

反対に、売上が低いとお客さんが少ないので、人気店と同じレベルの商品を作っても出来立てでは買ってもらえない。時間が経ってから売れても美味しくないのでリピートされない。さらに客数が減っていくという縮小均衡のスパイラル。状況を打破するために、広告や値引きキャンペーンを打ったりコストもかかる。

平均日販が低いということは、イコール生産性が低く、コスト対効果が悪いということ。商品・サービスの質が同じなら必ずセブンに負けるのだ。さらに日販は引き離される。

まだある。合併に伴う店舗設備・システム・オペレーション・契約書・人事の統合に莫大な時間とお金がかかるのだ。 このプロセスが事業に有利に働くことはなにもない。

1番の問題は、企業カルチャーの衝突だ。この扱い方を間違えるとグループ全体の弱体化をまねくことになる。

一方、セブンイレブンは創業以来、同業他社との異文化交流をしていない。結果として鈴木敏文イズムの濃度は年々濃くなっている。これがセブンの政策に対する徹底力を生み出しているのだ。これも業界トップの恩恵といえる。

政治の世界では絶対与党の自民党と再編を繰り返す野党民主党の対比がよい例だろう。

商売の本質からズレた仕事で他社が消耗している間に、セブンイレブンは「もっと良いコンビニ」作りに邁進し続けることができる。限りある時間をもっぱらコンビニのビジネスモデルのブラッシュアップに注げるのだ。

良い立地の獲得、意欲あるオーナー希望者の獲得、優秀な社員の獲得、良い取引先の獲得、有利な取引条件の獲得、より良い商品開発、そして新しい社会ニーズへの対応だ。

次に商品政策を見てみる。

セブンイレブンは弁当やサンドイッチなどのデイリー商品の販売構成比が高い(約30%)。差別化しにくいNB商品と違って、そこでしか買えないデイリー商品を目的に客数が増え、ついで買いにより客単価もあがる。

売上=客数×客単価。セブンイレブンは商品政策面でも平均日販を押し上げることができている。

さらにデイリー商品はNB商品に比べて利益率が高い。売上格差以上に利益格差も広がってくる。利益は将来への絶え間ないイノベーションへの投資資金となる。

では、どうしてセブンイレブン以外のコンビニはデイリー商品の構成比をあげられないのか。

この答えは企業カルチャーの格差にある。

加工食品や日用品と違い、賞味期限の短いデイリー商品は廃棄となるリスクが高い。デイリー商品は、集客力・商品力・販売力が三位一体で高くなければ積極的には売り込めないのだ。

コンビニビジネスはフランチャイズビジネスだ。商品の発注権はオーナーにある。そして廃棄はオーナーの負担になる。

デイリー商品の発注にはオーナーの覚悟がいるのだ。

デイリー商品は魅力ある差別化商品だが、リスクも高い。トレードオフだ。

トレードオフの克服が売上をクリエイトする。

セブンイレブンのオーナーさんは発注をする。
発注できるオーナーさんこそが、セブンイレブンを支えている財産なのだ。 ( この部分が世間ではあまり認識されていないようだ)

知っていることとやっていることは違う

僕はセブンイレブンでOFCをしていたので良く分かる。廃棄より欠品を嫌がるような、頭の下がるオーナーさんに何人も出会った。彼らからは商売の覚悟を学ばせてもらった。

そしてオーナーさんをそのような気持ちにさせるカルチャーがセブンイレブンには確かにあるのだ。これが競合他社が分かっていても、マネができない最大の障壁だろう。

【視点2】

『たった一人の熱狂』

実は、視点1で書いてきた理由は、質問に対する本質的な答えではない。

「なぜセブンイレブンの平均日販が高いのか?」

長きに渡り議論されてきたこのテーマに対するファイナルアンサーは別にある。

鈴木敏文さんのたった一人の熱狂があったから

これが答えだ。

「立地」「商品力」「徹底力」

セブンの強さや日販の高さの理由としてどれも正しい。だが、それらすら結果論に過ぎないのだ。鈴木敏文がいなければこの世に存在しないのだから。

彼に憑依してみるとわかるが、彼の頭の中にあるコンビニのイメージはひとつ。

「社会を便利にするハコ」

イトーヨーカドーの役員だった鈴木敏文氏が社内起業のような形でコンビニ事業を任された。自分を表現する舞台を人生で初めて手にし、男は燃えた。彼はセブンイレブンの成長に全身全霊を捧げた。

豊洲に最初のハコ(コンビニ)を作った。
このハコを輝かせることができれば、事業は必ず軌道にのる!絶対に輝かせる!

彼は、毎日毎日ハコを磨き続けた。休んだら輝きが失われるかもしれない。怖くて磨く手を止めることができなかった。いつからか周りの人達から声をかけられるようになった。

「君のハコ綺麗だね。」

思った通り、みんながハコの輝きに気づきはじめた。

彼は嬉しくて嬉しくて、それまで以上にハコを磨き続けた。

次第にそのハコを社会が欲しがり出した。

彼はハコを日本中に沢山作った。仲間に磨き方を教えた。自分と同じようにみんなが磨けるようになるまで、毎週毎週、本部に仲間を集めて磨き方を教えた。ときには口角泡を飛ばして、ときには胃酸を逆流させて。40年間休むことなく。

店舗数が2万店舗に近づいても、彼の中にあるイメージはたった1つのハコだったはず。40年間ひたすらこの「便利なハコ」をもっと良くできないか、もっと輝かないかと考え続けてきた。

いつからか彼は2つの大切なことに気がついた。

ハコの中に入れるものを変えていくこと
**変化への対応 **

ハコの中にあるものを磨き続けること
絶対の追求

良い立地や商品の品質、社員教育と従業員教育、イノベーションへの絶え間ない投資。そして売上・利益の追求。それら全ては「ハコをもっと輝かせたい!」という彼の思い・熱狂が企業カルチャーとなり、反映されたに過ぎない。

「もっと良いハコを作りたい!」

思いが先だ

孫正義の思いなくしてソフトバンクは存在しない。三木谷浩史の思いなくして楽天は存在しない。柳井正の思いなくしてユニクロは存在しない。

鈴木敏文の思いなくしてセブンイレブンは存在しなかったのだ。

鈴木敏文さんの思い・熱は少年のようにピュアなものだったと想像する。

鈴木敏文が絶え間なくハコを磨き続けてきたから。

これが今日の平均日販の差をつくったと断言する。

*たった一人の熱狂は見城徹さんの著書タイトル

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