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ドイツ教会のシノドス的改革案

昨年秋からの流れですが、ドイツ教会は、教皇からのシノドス提案を受け、教会刷新のための動きを加速しており、それに対し教皇庁がブレーキを掛ける、という構図が続いています(David MarkによるPixabayからの画像=ミュンヘン)。

「ライン川はテベレ川をあふれさせるのか」(ラクロワ、2022年11月26日)

ドイツを流れる、ライン川は、ローマ市内を流れるテベレ川につながっていないのですが(多分)、しかし今やドイツ教会(司教団)は、ローマを洪水させるほどの勢いで、具体的な教会改革案を発表しています(補足:フランシスコのシノドス呼びかけは2021〜24年のプロセスだが、ドイツ司教団は2019年から2年[のちに3年に延長]、ドイツの全国シノドスを、「教会権威」「司祭独身制」「女性の役割」「セクシャリティ」の4テーマについて実施していたことが、他国とその成果の具体性に圧倒的差がある理由。ドイツ以外にもオーストラリアなども類似の経緯をもつ)。
それはたとえば、「結婚している司祭の導入、教会統治のあらゆるレベルへの女性の参画、性に関する教会の教えの包括的見直し……」と、そう簡単には、教会全体が受け入れられないような「最重要課題」ばかりです。これを上の記事は、「馬はすでに逃げ出した」と、パンドラの箱を開けてしまった「教皇フランシスコの責任(功労)」と称しています。なぜなら、シノドスという枠組みの中で意見を具申している以上、これらを完全に無視するわけにはいかないから、です。「アマゾン・シノドス」(2019年)で、やはり結婚している司祭の許可が、相当数議論されたのに、結局これに関してなんの言及もなかったことが参加者を失望させた記憶も新しいのです。
記事中、22年3月の、ドイツ司教団の「バチカン訪問(アドリミナ)」で、教皇庁の長官たち(国務長官、司教省、教理省……)が、司教団会長のベッツィング司教に対し、ドイツ独自の動きにブレーキを掛けるよう要請したところ、「全国シノドスの執行部である『シノドス幹部会』は2司教+2信徒で構成されているので、(今回招待されていない=司教のバチカン訪問だから)2信徒の同意なしには、わたしたちは何も同意しない」と断言したのです。
また、ベッツイング司教が、教皇のシノドスの呼びかけの中に「実際の出発点である性的虐待、教会当局による不適切な対応、司教による隠蔽、さらにローマ当局がその対応で示した透明性の欠如の継続に言及していないことに驚きを与えている」と述べ、普遍教会の信頼回復のため、その意思決定に改革が必須なことをあらためて訴えています。
そして、ドイツ司教団が分裂をもたらそうとしているという保守派の批判に対し、そうではなく、聖書・聖伝・公会議の決定に基づき、普遍教会に対し、「『会話に貢献すること』だけを望んでいる」とも強調しています。
■所見■ リベラルな信者にとっては、「溜飲が下がる」といったドイツ司教団の凛とした姿勢ですが、これを受け入れられない人も、世界には相当数いて、深刻なスキズム(教会分裂)を生むのではないかという心配しかないくらいです。これを、23年24年秋の2回の総会で、どう着地させるのか、ほんとうに「シノダリティ」が問われるところです。

「独カトリックは教会統治をどう変革しようとしているか」(ラクロワ、2023年2月28日)

年が明けて、23年2月の記事です。
上の、3年間続いて、3月11日に終了を迎えた「ドイツ全国シノドス」のメンバーが、「シノドス評議会」を新設した、という話。「司教、司祭、助祭、信徒で構成される」この評議会は、「教会の将来の問題とその財政管理について決定を下す」権限をもち、「ドイツのカトリック信者の多くは、自国の聖職者の性的虐待危機がもたらす課題によりよく対処する方法として、この統治形態案を歓迎している」といいます。遅くとも、26年3月には誕生の運びと考えているそうです。
具体的には、この評議会は二つのレベルで機能し、「教区レベルでは、各司教が司祭、助祭、信徒で構成されるシノドス評議会を率い」、「全国レベルでは、シノドス評議会はドイツ司教協議会(DBK)を補完する機関」となります。
教会組織に関わる問題なので、当然、バチカンは介入しており、同評議会は「決して『司教協議会の権限を制限』したり『司教を拘束』する決定を下すことができないと伝えた」そうです。これは、「この計画について独自の懸念を表明したドイツの5人の司教から苦情を受け」ての応答、だそうです。ドイツの司教団は60人ほどだそうですので、苦情を言ったのは、あくまで少数派となります。
■所見■ この記事に書かれている同評議会の役割を見る限り、あくまで、司教の権限を超えない、補完的組織のようですので、現行教会法に違反するわけではないようにも思えます。こうしたドイツ教会のアイデアをもとに、この秋、来秋の2回の総会の動向が注目されます。

「パロリン国務長官 教えから逸脱するドイツ教会を非難」(ラクロワ、2023年3月15日)

さて、さらに、翌3月、国務長官のパロリン枢機卿は怒ってます。
ポイントは、「ドイツの司教団が同性カップルを祝福するというシノドスの提案を受け入れたことについてとくに批判的」だということです。これは、教理省が2021年3月に、「教会は同性婚を『祝福する力をもたないし、もちえない』という声明を発表」したことに基づいています。
「この議論は、シノドス的教会の将来に関する2回の総会(今年10月と2024年10月にローマで開催される)の枠組みの中で行われなければならない」と語り、世界から集まるシノドスメンバーがこうしたドイツ教会が出してきた諸課題をどう判断するか、にゆだねる姿勢を示しています。
■所見■ ある意味、1国の要望をバチカン高官が頭ごなしに否定している記事ですが、よく読めば、これを総会で議論しようと言っています。そこで、代表司教+70人の信徒ほかが賛成すれば、こうした、ドイツ教会の先進的(やや過激な)諸課題のうち通るものもありえます。日本やほかのアジアの教会にはあまり見られない胎動が、そこにはあります。

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