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サヨナラだけが人生ならば、また来る春は何だろう

初投稿です。
初っ端からこんな、センチメンタルな投稿ですみません。
でも、この一年間で起こった「出会い」、そして「別れ」…
その「別れ」の苦しみをなんとか文字に起こして、そして気を保とうとしている僕でございます。
少し長めかもしれません。
それでも、同じ苦しみを持っている人がこれを見て共感できること、
そして未来の自分がこれを読んで、ああこんなことも在ったもんだ、と思い出せること。

そのために書きます。ほとんど「別れ」の内容になります。
少々お付き合いください。ノンフィクションの短い小説です。

※※※

入学式前から先輩からのツテで、その先生が私の高1の担任であることを知っていたのだが。
実際に見るのはその入学式が初めてだった。透き通った肌に、綺麗な鼻筋が映える横顔。口紅は薄く、髪の毛は真っ黒で清楚な雰囲気を漂わせていた。
魅力的な人だな、と思った。どうやら英語科らしい。

雰囲気から明らかに優しさがにじみ出ているその先生は、実は少し人前で喋るのが苦手らしく、入学式後の私たちへの挨拶も、すこし恥ずかしそうで…

あとから知ったが、先生は30代前半のいわゆる「ベテラン教員」だった。
そんな中、私の高校に来てまだ二年目で、それでも先生が私の卒業を見届けてくれるかと思うと・・・あの時の私は幸せだったに違いない。
優しそうな先生だな。この一年間は、最高に楽しそうだ。

この時から私の中にある、先生へのピンク色の感情は芽生えていたのかもしれない。
廊下で先生を見かけると、幸せになった。
上の階から、他クラスの英語の授業を終えて小走りで居室へと戻っていく先生。香水の匂いも若干していて、そこに私は惹かれていたのかもしれない。
とにかく個人面談が楽しみだった。
中学ではほとんど先生との個人面談なんぞすっぽかしていたのだが、今年は全部定刻に済ませていた。
それだけ、先生と生徒の時間はゆっくり流れていて…先生は常に私を褒めてくれた。
常に面談では笑ってくれて、多少私がヤンチャをしても、見守っていてくれる。やっぱり、凄く良い先生だな。優しいし、可愛いし。
その時はそんな風にしか思っていなかった。

夏休みは一瞬だった。


このころだっただろうか。私が初めて、先生と一対一でメールをしたのは。
実は色々あって、私たってのお願いで、先生に業務用アドレスを聞いていたのだ。
ただ単に私が家に帰って、未提出の書類を写メして送るためのアドレスで、この時は全く、先生に対する感情はよこしまなモノではなかったのを覚えている。先生もすんなりと業務用メールアドレスをくれた。

もしこの出来事が無ければ、私は先生の業務用のアドレスさえ貰えなかっただろう。人生というものは不思議で、こんな小さなことからもつながっていくものである。

ここから、失恋してズタボロになっていた私はどんどん変わっていく。

冬休みも一瞬だった。

冬の一月。私は大学受験に向けてスタートしようとしていた。というのも、高1ではろくに塾も行かず自主学習もせず、本当に怠惰な毎日を送っていたからだ。警察にも少しお世話になっただろうか。

しかし私が遊んでいる間に、周りはどんどん成長していて…
私は本当に英語が苦手だったのだ。どこから初めて、どうしていけばいいのか…?全く何も知らなかった。
そこで私は思い付く。
先生に、業務用アドレスで英語の勉強の方針を聞こう。

この時も、まだ先生には特別な感情は抱いていなかった。
ただ、先生に憧れてはいた。
学年全体から愛される先生には、一体何があるのだろう?何がこんなにたくさんの人を引き付けているのだろう?私にはまだ分からなかった。

拙い私の質問に、先生は私の倍くらいの長文で返信してくれた。
事細かに生徒のことを思って書かれた長文を読んで、私は感動した。
まだ「感動」程度の感情だった。

本当に私は、英語学習に困っていて…その指針を先生は立ててくれたのだ。
そこからは毎日先生の言った通りのことをしている。これを書いている今でも。英語を初めて楽しいと感じた。
ここまで他人のために考え、そしてアドバイスしてくれる先生には、もう私は出会うことはできないだろう。本気でそう思っていた。

いや、本当は、その先生にさえも会えなくなってしまう。

冬の終わり

学年主任から私たちのクラスへ報告があった。

「先生は今年限りで離任され、他県へ戻られます」
その場の誰もが唖然としていた。一年間の先生との交流が、私とクラスメイトの脳内で一気に再生される。

あの笑顔と、あの香水と、あの面談は、もう戻ってこない。

クラス全員がショックを受けていた。
私は特に、英語の勉強方法などでお世話になっていたので余計心にグッと来た。正直現実味が無かった。これは夢だろう。
そう思うことで保身をしていた。

クラスメイト達の行動は早かった。クラスラインでは、先生にサプライズをしようと皆が協力しようとしていた。なんて良い人たちなんだ、そしてどれほど先生が愛されていたか。またもや私は人の優しさにあてられた。

私はそこで提案をした。
「学校の近くに花屋があるので、そこで僕が花を用意してきます」
皆、快諾だった。
「頼んだぞ!」
と誰かが言っていた。正直私はクラスの中でもヤンチャな方で、果たして私が先生に花を渡す役でも良いのか…?そう葛藤していた。

なかなか花屋へは行けなかった。先生が離任する現実から逃げたかったからなのかも知れない。このまま花屋の予約をしたら、先生が遠くに行ってしまうことがいよいよ確定してしまうような気がして…

まだ私は泣かなかった。泣いたら、それこそ先生が実際に離任してしまうように感じたからだ。


すぐに離任式がやってきた。離任式の後には成績返却がある。

他県と言っても、私の高校からは相当離れているので。もう先生はここに来ないし、もう会うこともないし、一対一で感謝を伝えられるのもこの成績返却だけだった。

実は離任式の前日の深夜、私は三行ほどの感謝のメールを先生に送っていた。
「先生の教師人生の中で、少しでも印象に残っているクラスだったならば、嬉しいです」
と。

「良いじゃ~ん。言うことなし!」
廊下での最後の一対一。先生は満面の笑みで、オールAの付いた英語の個票を私にくれた。

その場で私は、先生の新しいメールアドレスを聞こうとしていた。
職場が変わり、先生が使っていたメールアドレスはもう使えなくなることを知っていたからだ。

しかし私は何もできなかった。

「あ、ありがとうございます」

しか言えなかった。先生の前になるといきなりおくてになってしまう。
先生は続けた。

「メール読んだよ。ありがとう。あ、今年限りであのアドレスは使えなくなっちゃうので…ごめんね。」

それだけだった。ああ、もう私と先生は今生の別れなのだ。私は悟った。結局ろくな感謝も出来ず、永遠に先生とは交流できないことを知った。個票を持った私の手は震えていた。

「お~!やっぱお前Aか!凄ぇな!」
教室に戻って私に掛けられた友人の誉め言葉にも、苦笑いしかできなかった。震えた手でカバンに個票を収めていると、先生が廊下から戻って来た。全員分を渡し終えたらしい。先生の仕事は終わりだ。そう思っていると。

「先生は実は、これまで持っていたクラスは毎回卒業式まで見ていたんですけど、途中で抜けちゃうのはこれが初めてで…なので今回は特別に、毎回卒業生に送っている歌を、みなさんに送りますね」

私は驚いた。先生が、人前で歌を歌うタイプだったとは。人前で喋るのが苦手だと言っていたあの先生が。みんな、ざわついていた。多分私と同じ気持ちだったのだろう。

英語の授業でいつも使っているスピーカーを使って、先生は歌いだした。

♪夜明けの来ない夜は無いさ
あなたがポツリ言う
燈台の立つ岬で
暗い海を見ていた

悩んだ日もある 哀しみに
くじけそうな時も
あなたがそこにいたから
生きて来られた

朝陽が水平線から
光の矢を放ち
二人を包んでゆくの
瑠璃色の地球


私は強がって泣かなかった。

先生に、泣くところを見せたくなかったのかもしれない。

みんなは泣いていた。女子はほぼ全員泣いていた。

私だけはなんとか笑って先生を送り出したくて…ずっと苦笑いしていた。

その瞬間、私は先生に恋をしてしまった。人前で歌うはずのない先生が、今私たちに向けて歌ってくれている。そのギャップに惚れてしまった。

先生からにじみ出ていた優しさ、人のために尽くす気持ち、満面の笑顔。その内面にあてられていたことに、その瞬間に気が付いたのだ。

先生が歌ったたった3分間で、私の思想は全て変わった。

先生のようになるためには、どうすればいいか?

私も先生のように、手の届くすべての範囲の人間を、幸せにしたい。

斜に構えてしかモノを見れなかった私の価値観が。

たったその「能動的三分間」ですべて取っ払われ、そして新しくなった。
たった三分で、人は変わる。まるっきり変わる。


歌い終わった先生は、やっぱり満面の笑みだった。

「最後に、皆さんに手紙を書きました。
これを見て、私を思い出してくださいね!」


『四季折々の様々な景色のもとで

あなたの周りに笑顔が広がることを

願っています』


と、クラス写真と一緒に書かれた手紙を貰った。

最後に私は先生と2ショットを撮ってもらった。最後の思い出は、写真にしたかった。

「ありがとうございました」しか言えなかった。
もっと、言いたいことはあったのに。


その日の晩、私は塾のトイレで号泣していた。一人になった瞬間、涙が私を誘う。先生からの手紙を見たり、先生が歌った歌を聞くと…
参考書はボロボロになって、とても勉強どころでは無かった。

このままでは、私は崩れてしまう。もう一生、先生とは会えないのか?

私は最後の希望を振り絞って、もう一回先生へメールを送った。
少し長めの文には、
先生から貰ったもの。
寂しすぎて帰っても号泣してしまい勉強に手が付かないこと。
そして、新しい職場のメールを貰いたい、ということを書いた。

返信が帰ってくるまでは、ずっと先生が歌った歌を聞いていた。
先生が、あの教室で歌っている。私たちのために。
本気で私たちの明るい未来を願っている。私たちのために。

…新しい職場のメールアドレスも、たぶん先生は教えてくれないだろう。

プライベートはほとんど話さない先生は、きっと真面目で、不真面目だった私には興味などないだろう…

次の日の午前も、私はそう思ってずっと横になって号泣していた。
物理的にも心理的にも遠くに行ってしまうことを考えると、やっぱり涙は止まらない。どうしようもない気持ちは涙になって、布団と布団の間に消えていく。

昼頃だっただろうか。先生から返信が来ていた。驚いた私はすぐにスマホを手に取り文章を追う。

「昨日は、素敵な会をありがとうございました。一生の大切な思い出になりました。」

と始まり、かなりの長文が続いていた。そして。


「4月からのメールアドレスが分かったら、こちらから連絡します。」



その後、先生はこんなメールをくれた。



「また必ず連絡するので、安心して勉強してくださいね」



私はまた泣いた。先ほどまでの涙とは違う。

しょっぱい涙とは違う。

甘い涙が、またもや布団の中に消えていく。



※※※

やっぱりNoteとしては長めになってしまいましたでしょうか。
大好きな先生が離任して、絶望している。
もうその憧れの先生とは、会えない。

そんな人たちが、この長文を読んで少しでも痛みを共有し、私と同じように前を向いて歩いていけるように。

私は先生のように、人を幸せにして生きていきます。
私があげた花束も、凄く喜んでいただきました。

甘い涙は、まだ私の布団の中にこびりついています。

 おわり

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