見出し画像

徹夜盆おどりで明かす夏休み

「明日の予定?そんなものは明日になってから決めるから知らねぇよ!」と誰かが粋なことを言っていたのを思い出した。旅もまた同じで、行った地でその日にその場で予定決めるというのは最高の贅沢だ。(時間的にも心にも余裕があるときでないとできないからだ)

岐阜県の中部に位置する郡上市で1ヶ月近く続く日本一長い盆踊りが開催されている。中でも8月13日~16日は朝日が昇るまで徹夜で老若男女が踊る徹夜おどりが行われるので全国から踊り手が集結するのだ。曲目は10ほどで毎回ランダムに選曲され、深夜に近づくにつれて街の熱気は凄まじく最高潮に達する。



1ヶ月近くも開催するようなハイテンションな奇祭があるなら一度は行ってみようということで昨年初めて参加したが、前評判以上に楽しかったので今年も行くことにした。昼間は水のきれいな川で遊んで、鮎の塩焼きやアイスをお腹一杯食べた後に、風通しの良い畳の部屋で雑魚寝して、夜8時になったら「よし!踊りに行くか!」と朝までひたすら踊るだけだ。朝になったら寝に帰ってきて、起きたらまた遊んで、美味いもの食べてまた踊りにいく。これ以上に贅沢なんかないじゃないか、という具合だ。気がついたら1泊の予定が2泊になっていた。

吉田川ではしゃぐ地元の方々(浮き輪率が高い…!)


クーラー要らずの天然冷却。アイス食べながら日中は川で過ごす。
水が抜群にきれいなので、次回は郡上の湧き水を利用したアイスコーヒーを作ってみるのも良いかもしれない。

有名な夜の休憩スポット
下駄屋に列ができている

郡上おどりは何を着て参加しても良いのだが、正式ユニフォームは「浴衣」と「下駄」だ。踊りに下駄を鳴らす拍子が含まれているので、あると無いのとでは盛り上がりにかなり差が出る。サンダルや運動靴でうっかり参加してしまった人は数時間後には慌てて下駄屋に駆け込むことになる。上の写真の下駄屋さんは列ができているがお盆中はだいたい午前3時頃まで営業しているので安心だ。お盆の3日間で約1000足を売るという。その地の文化が外の人にもに広まって、モノが売れるのは一番良い形だなと思った。踊りが楽しいからまた来年もいこうとなって、今度は人を連れてきて一緒に買うという流れができる。経済が回ると文化も活性化する。

お囃子DJの舞台、現在の選曲は春駒

郡上おどりは録音されたBGMなんて利用しない。基本的に生演奏だ。おはやしの舞台があり、そこで和楽器と歌が街中の踊りの輪(全長800メートル!)に届けられる。中には息継ぎをほとんどせずひと調子で歌いきる奏者もいて、歓声と拍手が届けられる瞬間があった。踊りの早さ自体は早い曲目もあるが、平均して80BPM程度なので適度に休憩を入れながら踊れば、結構元気な身体で朝まで通せる。

最後の方になると文字通り夜を通り越して朝焼けを見ながら踊ることになるが、その頃になると踊りの輪全体に”朝まで帰らずやり切ったぜ”という達成感のようなものが伝播してきて、まったく顔見知りでない踊り手ともどことなく親近感が沸いてくる。なんだろうな、街全体で踊りのリズムがピタリと合う一体感は最後までいないと分からないかもしれない。

徹夜というと大変疲れるイメージがあるかもしれないが、全くその逆だ。踊りながら途中でお腹が減って、朝方までやっている屋台で買い食いをする。それで戻ってまた楽しく踊っていた、そして気がついたら朝になっていた、そういう状態だ。とにかく楽しいので日本にいるのであれば一度は行ってみることをお勧めできるお祭りである。

郡上へのアクセスは実はそんなに選択肢が多くはない。
昨年は隣県だから近いだとと油断して長野の松本から高速バスで飛騨高山へ行き、高山から郡上にスムーズに乗り換える予定だった。このルートは正直おススメしない。高速バスの乗り継ぎの怖いところは到着が遅れても待ってはくれないのと次のバスが1時間に1本ということが珍しくないからだ。高山への到着が遅れて、その次の次のバスまで席が一杯で乗れないので、JRで迂回するというルートを取ったところ宿にチェックインする頃には出発から10時間経っていたということがあった。

長野からは特急しなので、関東ならのぞみで名古屋まで素直に行って岐阜までJRで行くのが良い。所要時間はここまで2時間半程度。岐阜駅前から高速八幡線のバスで郡上まで40分ほど乗る。宿が集まっているところで降りるとなれば日吉町あたりで降りると便利だ。

岐阜市の名喫茶「カフェカルトン」

岐阜でバスの乗り継ぎまでに時間が余ったらカフェカルトンで一杯やっていくのと良いだろう。期待を超えてコーヒーがうまい。

さて、来年も徹夜おどりに行ってしまうかもしれないという話しで終わらせる前にお楽しみコーナー。

どうせ行くなら郡上おどりだけでなく白鳥町の「白鳥おどり」までハシゴしてみよう。盆踊りのハシゴ、そんな話聞いたことがあるだろうか。白鳥町は郡上八幡から電車で40分ほど離れた町である。昨年と同じ宿に止まったら偶然にも昨年一緒に踊った顔がいくつもあり、じゃあ今年も行くか、という話になり、初めて踊りに来る人もまとめて一緒に終電で隣町の白鳥まで出かけて行って朝帰りするということなった。

幻想的な光を灯す切子灯籠

白鳥おどりのときに街中にあらわれるキリコ灯篭がまた幻想的だ。
さて白鳥と郡上のおどりは何が違うのか。町が変わると踊り方が全く変わってしまうのだ。郡上おどりの発祥は白鳥と言われているが、振り付け、特にテンポの速さがかなり違う。郡上のBPMを80とすると白鳥は曲によっては140ぐらいまで加速することがある。

https://youtu.be/Uz_muwsRROQ?si=N8dclKmDDxsMdAJm
これは「神代」という曲だが後半は早くなる上に、前方に進んだかと思えばターンして進行方向が変わるというもの。慣れないとどっちに行くんだ!?と混乱して前の人とぶつかってしまう。でも少し早いテンポで踊りたいという人は間違いなく郡上おどりよりもハマる可能性が高い。郡上は言うならば城下町の洗練された踊り、白鳥は町の人たちの為にある踊りというところだろうか。どことなく土着的な感じがして元気が出てくる。

美濃白鳥の駅を降りて踊りの会場に向かう途中のコンビニ前で地元の女子高生がジャージ姿で地べたに座りながら仲間とポテトを頬張っていた。これだ、これが地元の祭りだよなぁと何か懐かしさを覚えた。




そのジャージ姿の彼女らも踊りが始まればちゃんと輪に入っている。終わりに近づく午前3時半の白鳥町は下駄さえももはや不要、と脱いで輪になって踊っている集団があちこちに出来ていた。特に若い学生たちのエネルギーが吹き上げるように正しく発散、爆発しているのを目撃した。不思議なことにそういう中にいるとちょっとした体調不良も完治してしまっている。人が本来の若さを取り戻していくというのはこのことなのかと思った夜だった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?