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近況と雑感

伝えたいことを伝えずにいることが多い。

気持ちをストレートに伝えたいと思っていても、照れや自信のなさ、あるいは過剰な気遣いから、表現を捻じ曲げてしまうことも少なくない。皮肉っぽく誤魔化したりとか。

私はSNSなどで人々からのダイレクトな悪意を食らうことも多いから、見ず知らずの他人に対して疑心暗鬼になることもある。これは、SNSのせいでは無い。私のパーソナリティによるものだと思う。

京都人だとか、ある種の発達障害だからとか、すぐそういうレッテルを貼りたがる外野の声を真に受けるなよ、というのも難しい話で、自分自身の態度や心のありようというものはそういった他人にとっては取るに足らない悪意によって、簡単に足元を掬われ、また自己対話もままならないまま本題は矮小化される。

私は京都生まれ京都育ちだけど大人になってから長いこと東京に住んでたことあるし、実家は京都といっても洛外だから、人々が想像するステレオタイプの京都人ではないと思ってるし、そもそもステレオタイプの京都人にも色々いる。地域というより職業や世代で随分違う。それはどんな街でも同じ。色んな人がいる。

私は自分の精神科的範疇の問題について、他人に言いたくない方なので、こういう場で言及はしない。

もしも、誰かの出自や精神的特性に対して疑問を持ったとしても、それらについてSNSでどうこう言うとか、地域文化と精神科医療のことを舐めてかかるのはやめた方がいい、と個人的には思う。

本人に会って直接伝えたいときに、連絡を取る手段も、その人の息吹を感じることができる手段にも溢れているわけだとすれば、それをやればいいだけだ。

知らない他人の心のありようを想像することは、本当に難しいと感じる。

世界各地で繰り返されている酷い紛争や、それによって破壊されている人々の暮らしや生命、尊厳を想像するも、自己流に彼らに心を寄せることしか出来ず、ワンクリックで出来る募金をする程度の「慈悲の心」しか私は持ち合わせていない。

他人の諍いに飛び込み、さらに分断を生むことは避けて生きていきたいのだが、心のありようを態度にしたためたい、ということだけに関しては、諦めたくない。言いたいことを言いたい。

先日久々にお会いした恩師、広上淳一先生が仰られていた印象的な言葉が私の心の奥底に突き刺さって痛みが取れない。ベートーヴェン最後の交響曲は、平和、友愛、心の安寧を願ったもので、特に緩徐楽章である第三楽章におけるベートーヴェン自身の心の安寧こそがあの作品の最大の魅力であり、だからこそ長い時間愛され続け、人々の心は常にそのメッセージを必要としている。

ただ、もう何百年も前の作品が出した希望への道標を、未だに有り難く頼り続けている我々の居る世界は、争いと分断が絶えない酷い世界のまま。そろそろ『第九』の次を、誰かが生み出してくれないものか、と彼は言っていた。

弾圧を恐れて、すべてを他人事にしてしまう「分断」は、現代社会を生きる知恵なのかも知れないけれど、広上先生の言葉を借りると、干渉し続けることこそが、世界を変えるチャンスだ、と。

干渉されるとウザい、ただ、それでも俺は干渉し続ける、と。

勿論、何に対して干渉し、どんな思想哲学や趣味を持っているかどうかなんて、人それぞれだから、その人の心のありよう、つまり尊厳や正義を、他人に変えることなど、決してあってはならない。だから人は他人に干渉するのであって、それを諍いに変えないための抑止力として、お金や法律が存在するだけなんだろう。

ちっぽけで何ひとつ変えることができないのは、私だけではないはず。ただ、そこらへんに溢れかえっている定型文のようなものを甘受してコピペしているだけでは、自分自身を棄て去り、何かに乗っかっている自分が、その煩悩を修飾することで自己満足しているに過ぎないわけだから。

この世界の終わりを、目撃することはあるのだろうか。気付かないくらいが丁度いいのか。

まぁいいや、くらいだといいのに。

何なら、大したことないよと紅茶でも飲みながら、簡単に世界を変えることができたりするのだろうか。

チバユウスケ氏による素晴らしい音と言葉の破片のようなものが、もう30年くらい私の心の旋毛のような部分に引っかかって取れない。

彼はいつも鋭く、何かを諦めたような達観した眼差しで写真に写っていた。

喫煙所で会ったら、少年のような笑顔で、その表情筋の愛おしさは私を夢中にさせた。なんとシンプルでカッコいいんだろう、と思った。彼はロックバンドのありよう、そしてパーソナルな音楽の宇宙のなかで、その心のありようを体現し続けていたように思う。

昨年、そんな気持ちを、ご本人に直接お伝えすることが出来たので、心残りはありません、と言いたいところなのに、胸の中は空虚で灰色の空が拡がっていくだけ。

ひと言で言うと、寂しい。

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