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近況と雑感

長くミュージシャン生活を続けるための秘訣(若い音楽家向け)をまとめて、そのうち本にでもしたいと思っています。多分自分語りになりますが。

ソングライターでも演奏者でも、バンドマンでも、ポップ音楽作品に携わる仕事をする者であれば、以下ふたつが結構重要なことだと私は考えます。

ひとつは流行の少し先を意識すること、もうひとつは古典を多く知ることです。

ポップ・アーティストは常に、最新の流行に敏感であるのが望ましいと言われています。当然、シーンに風穴を開けるには、その時流行っている音楽だけではなくて、社会的なムードや他のカルチャー(芸術文化のみならず)を意識して、自分自身の表現の肥やしにすることが必要だ、と多くの論者が言っています。ごもっとも、だと思います。

新しい大衆文化を作り出すのは常に若い世代であり、それは少子高齢化が進む現代日本とて例外ではありません。

スプラトゥーンに夢中になっているあなたが作った音楽は、無意識のうちに何らかの現代性を帯びていくことでしょう。表現というものは、様々なものから間接的影響を受けます。

韓流アーティストやボカロは、特に日本国内において絶大な音楽的影響力を持っています。不思議な話かも知れませんが、ボカロに影響されたシンガーが、これからどんどん出て来ると思います。

若者言葉を使う中年の如く、若者の間で流行っている音楽を取り入れるベテランは総じて寒いことになります。それは、ファッションとして組み合わせがおかしいということなのかも知れません。そのTシャツと体型でシャツインしちゃダメよ、みたいな。ベテランがルーツや古典に傾倒するのは、当たり前のことなんだと思います。シャツインは若者に任せておけば良いのです。

音律やリズムを突き詰めると、どれだけ新しい音楽であろうと古典に行き着きます。優れたアーティストはそこに意識的であれ無意識であれ、それを理解しています。側は新しくなれど、根本的にポップ音楽は中身が更新されていないんです。

そのことを絶望だ、と難癖を付けるクレーマーは放っておいて問題ありません。ポップ音楽とは安定と安心を売るもので、それがこの消費社会の中で愛されている、という極めて自然なことなのです。

新しさ、とは常に視点のことを言うもので、構造のことではありません。それはポップ音楽にとってそうであると同時に、様々なことにおいても言えることなのかもしれません。寧ろ、構造が新しいもの、が産まれるのは、思想や経済、政治的な革命が起こった時です。ポップ音楽とはとにかく保守的なものなのです。

欧米音楽こそが流行の最先端だった1990年代、私たちは血眼になってレコード店に通いインディーロックやシカゴハウス、エレクトロニカのマニアックなレコードを掘りまくり、よく分からないまま聴き漁りました。はっきり言って殆どがゴミと化し、中古市場へ消えていきましたが、私たちがそれらから受けた影響は色濃く、『ばらの花』や『ワールズエンド・スーパーノヴァ』なんかに昇華されていきました。

『ワールズエンド・スーパーノヴァ』を「新しい」とか「発明」とか評価してくれた人も沢山います。褒められるのは嬉しいですし、心よりそれらの評価は受け取りますが、私の見解は全くそれらとは違います。

元々似たような音楽は欧米にありましたし、当時の日本でも最先端の流行を作っていたクリエイター達はそういうサウンドを既に作り始めていました。

もし、そこに「くるりならでは」とか、何らかのオリジナリティがあるとすれば、それは蓄積されていた古典の力をどのように使うか、と言う点だけでしょう。

私はもともとジャズやクラシックのような、古典的な和声進行が好きでしたから、当時流行りのポップ音楽の和声進行は退屈だったんです。

私は元々ブルースギターとブルーノート・スケールが好きだから、UKインディーロックのペケペケしたダイアトニック・スケールのリードギターがあまり好きでは無かったんです。それでも流行りに乗るために真似したけど。

私はリードシンガー向けの派手な声では無いから、古典ロックみたいな多重ハーモニーにすることでサビの厚みと倍音の響きを出したんです。

これらは「流行の最先端への目配せ」ではなく、「古典への愛着と構造への興味」から来ているものです。

音楽作品を彩る「側」の部分は、ファッションのような部分です。これは、なんらかの流行を意識したり、明らかなコスプレ要素を意識すると、しっかり輪郭と意味性が出てきます。

音楽作品の中身を流行りもの、つまり「側」の部分に依存しすぎると、中身すっからかんになるでしょう。中身こそ、昔作られて未だに色褪せないものを参照すると、しっかりした構造を作ることが出来ます。

このバランスを突き詰めることが、ソングライティングへの興味を失わずに、未だに私が音楽制作を偏愛している要因です。

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