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ゆきののぞみ(606)

白くなった小樽運河。
「きゃーーきれいーーー!!しろいしろい!」
「昨日まで雪の予報じゃなかったのにな!おれの行いがいいからだな!」
「そうかなー?まあどうでもいいや、そんなこと!」
ぎゅっと雪をつかんで上に放り上げたが、パウダースノーは固まることなく、空中で散る。
多くの人が雪を楽しんでいる。

雪は元気がない。
わたし、雨になりたかったな。
自由に地面や川を流れたかった。
雪は寒いところにしかいけない。
雨ならどこでも行ける。

「あら雪さん!元気ないね。雪を握りしめて走り回ってる人がいっぱいいるよ。君は人気者なんじゃないのかい」
「あーお月さま、こんばんは。でもね、それはわたしののぞみではないの」
そういうと地上に視線を落とした。
「雨になりたかったな。川を流れてみたい。雪は春になったら高い山へ行かなきゃだし。でも雨だった記憶がなぜかわたしのなかにあるの」
「君は雨だったのかもしれないね」
そんなことあるのかな。
わたしもうまれかわれるのかな。
気長に待ってみるかなあ。
お月さま、いつも優しいな。

降雪指示メールが来た。
「稲穂郵便局を中心に、半径5kmに降れ」
はあ、飛んでくるかなあ。
マイナス8℃かあ、湿度も低いなあ。
今夜もパウダースノーでいこうか。
風さん、のせてね、みんないくよ〜!
そういうと雪はゆるやかな風に乗った。

ゆきやこんこ あられやこんこ

地上から子供達のうれしそうな声が聞こえてくる。
雪はいま、雪でいることを楽しんでいるようだ。

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