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現行正書法制定以前におけるスロベニア語の拡張ラテン文字

5月24日は聖キリルと聖メトディウスの日、ブルガリアなどでキリル文字の日です。

インド・ヨーロッパ語族スラブ諸語に属するスロベニア語ではキリル文字やギリシャ文字などの影響を受けた拡張ラテン文字が多数生み出されてきました。

今回はスロベニア語の拡張ラテン文字について取り上げます。

メテルチッツァ

Catrinityフォントに含まれるスロベニア語現行ラテン文字とメテルチッツァのラテン文字の対照。キリル文字による推測翻字も記載しています。
にしき的フォントに含まれるスロベニア語現行ラテン文字とメテルチッツァのラテン文字の対照。グラゴル文字による推測翻字も記載しています。

1825年に作成されたスロベニア語の拡張ラテン文字で、キリル文字に由来する字母がいくつか見られます。

Googleブックス内の『Lehrgebäude der Slovenischen Sprache』(著:フランツ・メテルコ Franz Metelko)にメテルチッツァ文字表及び筆記体が見られます。

現行正書法では区別されないスロベニア語の母音も全種類そろっているのが特徴です。
全角ギュメ内は現行ラテン字母及びスロベニア語の学習書などに用いられるアクセント記号付きラテン字母です。
便宜上、現行ラテン文字順の配列で示し、ユニコードに存在しない字母は『にしき的フォント』及び『Catrinity』の共通コードポイントで示しています。

  1. A・a】[a ア]

  2. B・b】[b ブ/-p プ]

  3. Ƞ・ƞC・c》】[ʦ ツ] - 本来の大文字は大文字基本幅に収まっている字形で、にしき的フォントの‘𝚄+𝙴𝙴𝟺𝙴’に配置。

  4. Ч{Ɥ}・ɥČ・č》】[ʧ チ]

  5. D・d】[d ド/-t ト]

  6. E・eÊ・ê》】[ɛ エ]

  7. Є・єÉ・é》】[e エ] - ギリシャ小文字エプシロンε》の異体字《ϵ》由来。

  8. Ƨ・ƨE・e》】[ə ア]

  9. F・f】[f フ]

  10. G・g】[ɡ グ]

  11. H・h】[ɦ~h ホ]

  12. 𝚄+𝙴𝙰𝟿𝟿・𝚄+𝙴𝙰𝟿𝙰H・h》】[x ハ]

  13. I・i】[i イ]

  14. J・j】[j ィ]

  15. K・k】[k ク]

  16. L・l】[l ル/w ゥ]

  17. 𝚄+𝙴𝙰𝟿𝙱・ɺLJ・Lj・lj〉】[ʎ リ] - 本来の小文字は、にしき的フォントの‘𝚄+𝙴𝙰𝟿𝙲’に配置。

  18. M・m】[m ム]

  19. N・n】[n ン・ヌ]

  20. 𝚄+𝙴𝙰𝟿𝙳・𝚄+𝙴𝙰𝟿𝙴NJ・Nj・nj〉】[ɲ ニ]

  21. O・oÓ・ó》】[o オ]

  22. 𝚄+𝙴𝙰𝟿𝙵・𝚄+𝙴𝙰𝙰𝟶Ô・ô》】[ɔ オ] - ギリシャ小文字オメガω》由来とされる。形状はデセレット文字ロングOO𐐅・𐐭》と同型で、ユニフォン文字に同型字母が採用された。

  23. P・p】[p プ]

  24. R・r】[r ル/-ər- アル]

  25. S・s】[s ス]

  26. 𝚄+𝙴𝙰𝙰𝟷・𝚄+𝙴𝙰𝙰𝟸Š・š》】[ʃ シュ] - キリル文字シャーШ・ш》由来。ヘブライ語のカルメリ文字に同型字母が採用された。

  27. 𝚄+𝙴𝙰𝙰𝟹・𝚄+𝙴𝙰𝙰𝟺ŠČ・Šč・šč〉】[ʃʧ シチ] - キリル文字シチャーЩ・щ》由来。

  28. T・t】[t ト]

  29. U・u】[u ウ]

  30. V・v】[v ヴ/w ゥ]

  31. З・з➡З・𝚄+𝙴𝙰𝟾𝟾{ȝ}Z・z》】[z ズ/-s ス] - キリル文字由来。のちに20世紀にカフカズ諸語ヤナリフに採用された小文字が縦に伸びた字形となるが、にしき的フォントでは《з》と同型となっている。

  32. 𝚄+𝙴𝙰𝙰𝟻・𝚄+𝙴𝙰𝙰𝟼Ž・ž》】[ʒ ジュ/-ʃ シュ] - キリル文字ジェー《Ж・ж》由来。ヘブライ語のカルメリ文字や日本語の『漢字に代はる新日本の文字』の人工文字に同型字母が採用された。

  33. ˊ , Á・á , É・é , Є́・є́ , Í・í , Ó・ó , Ú・ú】アクート[ˈ◌ː]

  34. 【ˋ , À・à , È・è , Ƨ̀・ƨ̀ , Ò・ò】ブレヴィス[ˈ◌]

ダインチッツァ

1824年に発表された拡張ラテン文字で、母音は現行正書法とほぼ同一ですが、方言表記用の《Y・y》が見られます。子音字はユニコードに全て採用されていますが、一部の字母が本来と異なる字形です。

Googleブックス内の『Lehrbuch der Windischen Sprache』(著:ペーテル・ダインコ Peter Dajnko)で、字母表が確認できます。

現行ラテン文字とは〈A, B, C, D, E, F, G, H, I, J, K, L, M, N, O, P, R, S, T, U, V, Z〉の発音がほぼ共通です。

  1. Ч{Ɥ}・ɥČ・č》】チェー[ʧ チ] - キリル文字チェーЧ・ч》由来。大文字は本来のユニコードの字形と異なる。

  2. Ŋ・ŋNJ・Nj・nj〉】ニェー[ɲ ニ] - ユニコードで正字とされているサーミ語ENGと同型。

  3. Ȣ・ȣŠ・š》】シェー[ʃ シュ] - 本来は算用数字88》と同型だがユニコードではラテン文字OUと統合された。Catrinityフォントの‘𝚄+𝙵𝟷𝙱𝟺𝟿’に本来の小文字が配置されている。

  4. X・xŽ・ž》】ジェー[ʒ ジュ/-ʃ シュ] - 現行正書法ではKS[ks クス]音。

  5. Y・yY・y》】ユー[y ユ] - 方言表記用字母。現行正書法では外来語表記用の字母として用いられる。

ボホリチッツァ

初期のスロベニア語ラテン文字で、小文字エスs》の異体字である長いエスſ》の大文字が本来のエスS》と異なる字母が設定されているのが特徴です。
Googleブックスにアーカイブがある1584年の文法書『ADAMI BOHORIZH ARCTICAE HORULAE SUCCESSIVAE』に初期のスロベニア語ラテン文字の解説が記載されていますが、長いエスの大文字は未記載で、エス《S》が用いられました。

ボホリチッツァの長いエス《ſ》を示す大文字の変遷とダインチッツァの拡張ラテン文字。

当初のスロベニア語ラテン文字における字母名のほとんどはグラゴル文字由来となっています。

  1. S・sZ・z》】ゼムラ[z ズ/-s ス] - 発音は古代教会スラブ語キリル文字ヅェーЅ・ѕ》[ʣ ヅ]由来と思われる。

  2. SH・Sh・shŽ・ž》】[ʒ ジュ/-ʃ シュ]

  3. Ş{Ꚃ}・ſS・s》】スロヴォ[s ス] - 19世紀の大文字の字形はエッシュ小文字ʃ》を大文字にしたもので、にしき的フォントの‘𝚄+𝙴𝙴𝟺𝙲’に配置されている。セディラ付きエスŞ》は英語版ウィキペディアに記載されている字形。

  4. ŞH・Şh・ſhŠ・š》】[ʃ シュ]

  5. Z・zC・c》】ツィータ[ʦ ツ]

  6. ZH・Zh・zhČ・č》】[ʧ チ]