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自分にしかできない「あそび」とは? プロジェクトが生まれる種を見つける。

文:矢代真也 写真:高野ユリカ

リ/クリエーション合同プレゼン・マッチング&ローンチDAYレポート Vol.01

自分にしかできないことってなんだろう? 世の中で活躍する人の多くは、それができているようにみえる。誰にもできない仕事やアウトプットを行ない、新しい価値を生み出す存在に憧れた経験は、誰しもあるのではないか。ただ、その背景に何があるかを把握することは極めて困難だ。センス? 教養? 冴えたアイデア? そのいずれもが正しいともいえれば、間違っているともいえる。「創作」という過程がインプットとアウトプットにより生まれることはわかったとしても、その間には深遠な謎が拡がっている。

2020年からSHIBUYA QWS(以下、QWS)とドリフターズ・インターナショナル(以下、ドリフ)がスタートしたシリーズ講座「リ/クリエーション」には、そんな創作という意味をもつ「クリエーション」という単語に「繰り返し」を示す接頭辞「リ」が添えられている。そもそも「リクリエーション」という言葉は、気晴らしや娯楽といった意味をもつ。しかし「リ/クリエーション」と区切られたとき、その言葉はまた違った意味を帯びはじめる。ステートメントでは、こう語られている。

「『リ/クリエーション』とは、明治期にその言葉が輸入されたとき『復造力』と訳されていました。『遊び』や『余白』の思考は、新たなプロジェクトを創り出します」

何かを生み出すために、自らをつくりなおすための遊びのようなプロジェクトづくり。そんなプロセスとして、「リ/クリエーション」という講座は意図されたのだ。

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というわけで、ドリフターズ・インターナショナルが渋谷の共創施設SHIBUYA QWSと2020年1月から始動させたシリーズ講座「リ/クリエーション」建築やファッション、パフォーミングアーツなど
さまざまな領域からゲストを招いて講義を行なってきた本講座では、
最終的に受講者によるプロジェクトの最終プレゼンが行われ、そこから発信について考える「BOOSTコース」へと進んでいく。
まずはこれまでに実施されたプロジェクトメンバーを決めるワークショップ、プロジェクトのローンチに向けたレクチャーの様子を
2本のレポートでお届けする。


「まとめ」から生まれない創作を求めて

2月からスタートした同講座は、「言語・環境・コミュニティ」をテーマとするAコース、「身体・トランスナショナル・多様性」をテーマとするBコース、それぞれ30名の受講者が集結。作家、企業家、アーティストによるレクチャーやフィールドワークが2カ月にわたり行われてきた。オープニングイベントで語られたように「渋谷から始まる世界遠足」としてのリ/クリエーションで、受講生たちは新しい世界との触れ合い、そして参加者同士の対話を重ねた。

そんななか、A・Bコースのフィナーレとなる3月末のプレゼンテーション、そこで選出されたプロジェクトが参加し4月24日に開催されるQWSステージに向けて満を持したかたちで、3月8日、9日と合同プレゼン・マッチングDAYが開催された。この日に向けて、これまで受けた刺激をもとに受講生たちは、アイデアを1人1枚のシートにまとめあげた。そこを出発点に議論が行われ、プレゼンテーションのためのマッチングが決まる。もしかしたら、「自分のアイデアを絶対に実現したい」と鼻息を荒げていた受講生もいたのかもしれない。

しかし、3月8日のワークショップの冒頭で、受講生たちに告げられたのは、「こんなにまとめる必要はないかもと思った。アイデアを具体的な形にすることは、今回の講座で意図したクリエイションの余白を小さくしてしまう危険性も秘めている」というコース・ディレクターの中村茜の一言だった。クライマックスに向けた2日間は、そもそも「リ/クリエーション」という概念そのものにまで戻っていくこととなる。

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切り離し、受け入れる

参加者全員のマッチングが目指された1日目と2日目のファシリテーションをつとめる臼井隆志は、まずこの2日間のグランド・ルールと題して、こんなディシプリンを発表した。

1)アイデアをアイデンティティと切り離す
議論を活発に行うためには、自分の意見が否定されるたびに傷ついていては、身が持たない。自分という主体とアイデアというアウトプットが分離して始めて、自由なディスカッションが可能になる。
2)違うことを受け入れる
建築家から学生、ダンサーまで多様な人々が参加する「リ/クリエーション」。そんな環境だからこそ、もし相手に言葉が通じない…と思ったとしても、歩み寄る寛容さがなければならない。
3)多数決から合意形成へ
それぞれがアイデアを持ち寄ってはいるが、最終的にはチームのなかで何を実行するかを決める必要がある。そのなかで、常に対話をしつづけて合意に達することが重要。

これらのルールは中村が告げた「余白」の必要性と呼応する。中村によれば、リ/クリエーションは、そもそも自分がやりたいことをやるために設計された講座ではない。教師に勧められると、自分ではできると想像もしなかった行為が意外とできることもある。与えられたことのない役割をやってみたり興味ないことに関わったりすることで生まれる「あそび」こそが、講座の目指すところなのだ。

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「つなぎ合わせる」から生まれる価値

自分のアイデアを膨らませるのではなく、他人とのコミュニケーションのなかでアイデアを育てていく…。そんな前提を改めて頭に刻み込んだ参加者たちは、それぞれ即席でつくられた5人程度のグループにわかれそれぞれのアウトプットについて意見を交換、コラージュとよばれるアイデアの混交へと進んでいった。

「世の中にある『売り場』の概念を変えたい」「多拠点生活者のためのシェアハウスとは?」といったビジネスの領域に属するともいえるアイデアから、「スクランブル交差点を歩くひとの動きから音楽を生み出したい」「広告カーを活用した演劇をつくりたい」といったメディアアートさながらのアイデアまでが並ぶ。これらのアイデアを、果たしてどう混ぜればいいのだろう? 講師として登場したグラフィックレコーダー清水淳子は、「バラバラなもの、一見ゴミにしか見えないものを繋ぎ合わせることで、価値が生まれていく。大切なのはアイデアを混ぜ合わせる気軽さ。そして、そこで生まれたエラーを価値として受け止めてほしい」という。

受講生たちは、そんなコラージュの面白さを目指し、1時間かけて自らのアイデアを切り貼りし1枚にまとめていく。その過程では、自分の使っている言葉が他人と違うという気付きや、自らのアイデアについての新しい発見があったようだ。清水は、参加者の議論を聞いたのちに、今回のワークをこうしめくくった。「議論のなかで、具体と抽象を行き来することが大切。抽象化は、自分が大事にしないといけないことを捨てずにしのばせるスキルです。それをどう人に伝えて展開するのかが、重要になってきます」

その後8日は、プロジェクトリーダーを目指す参加者によるプレゼンテーションが行われた。その発表を聞いてから、受講生たちは自分が参加したいプロジェクトの希望を書き、解散。運営チームは全日の参加者の様子をふくめ、喧々諤々の議論のなかで明日から最終プレゼンまでのチームを決めていった。

「自分にしかできないこと」を越えて、参加者それぞれがいかなる役割を果たすのか。その采配は、リ/クリエーションの運営チームにゆだねられた。翌日、発表されたチームを前にしてメンバーはどのような「あそび」を企てることになるのだろう。(つづく)

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