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あなたの明るさが、私をすくう

自分のことに関しては驚くほど楽観的なのだけど、なぜか人のことになるとあれこれ気を回して心配ばかりしてしまう。なるべく大変な思いをすることなく、病気も怪我もせず、健やかにのびのびいてほしい。そう願えば願うほど、心配の種は無尽蔵に増えていく。

この心配グセは自分の手が届かない雲の上の人に対しても同様で、特に野球選手に対しては、喜んだりはしゃいだりする時間よりも、ハラハラしたり気を揉んだりしている時間の方が圧倒的に長い。

もはや「応援」の8割は「心配」でできている。そう言っても過言ではないくらい、私にとって応援と心配はセットになっている。(ちなみに残りの2割は「祈り」)。

試合結果に一喜一憂するのはもちろん、試合が長引いて終了時間が遅くなったら明日に影響しないか不安になるし、雨のなか試合した日は風邪をひかないか心配になる。心ない声やプレッシャーに押しつぶされないか、いちいち気を揉んでしまう。

調子がいいときは、たくさんの人がポジティブな言葉をかけているだろうから安心できる。問題は、なかなか結果がでないときである。今は指先ひとつでファンからの声が届いてしまう時代だから、自分のせいで負け日や活躍できなかった日には、それこそ「世界中が敵」に見えてしまうだろう。

だから私がファンレターを書くのは、「今苦しいときなんじゃないかな」と思うときが多い。なかなか勝てないとき、打てない時期。結果についてあれこれ言われるのも仕事のうちとわかってはいても、本人が一番不甲斐なく思っているはずだから、せめてファンだけは「大丈夫だよ」と言ってあげたい。私が心配して手紙を書いたところでどうなるものでもないとわかってはいても、「それでも応援している」という声がひとつでも多く届くことに、きっと意味はあるはずだと思うから。

なかでも、今年特に気にかけていたのがメジャーに移籍した藤浪晋太郎だ。アメリカまでファンレターを送るだけでは飽き足らず、noteまでしたためた。

開幕から5月半ば頃まで投げるたびに大量失点し、早々に先発から中継ぎに転向させられ、敗戦処理としての登板も多かった藤浪。防御率も13点台からなかなか下がらず、このままいくとメジャー挑戦のなかでワーストを記録するのではないかとすら言われていた。

そして結果以上に私が心を痛めていたのは、過去のインタビューを引っ張ってきて揶揄したり、大谷と比べて貶す投稿がある種のミームのようになっていたことだった。

プロ野球はもともとネタとしていじる文化があるし、プロである以上は結果に対してあれこれ言われるのも仕事のうちではある。特に藤浪は本人もネットミームに乗るのが好きなようで、SNSでも自身をいじるコメントに軽妙な返しをしたりしていたのである程度の耐性は持っているタイプだと思う。

とはいえ、登板するたびにヤフーニュースのトップで数千ものコメントがつき、その大半が批判的なコメントで、しかも結果だけではなく野球に取り組む姿勢や人間性まで否定されつづけたら、藤浪といえどだいぶ辛いのではないだろうか。しかも慣れない土地で、現地ファンからも厳しい声を浴びているなか、日本でも敵ばかりのように感じるとしたら…。もし自分だったらと想像するだけで、胃のあたりがキューっとなる。

阪神時代もたくさん辛い思いをしてきただろうけれど、異国の地では応援の声もなかなか届きづらいのではないか。そう思うといてもたってもいられず、早々に二通目のファンレターをエアメールで送った。結果はどうあれ、まずは心折れることなく今シーズンを投げ切ってほしい。そんな祈りを込めて。

そうこうしているうちに、6月に入ったあたりから藤浪の成績が徐々に上向いてきた。投げるごとに防御率は改善していき、6月だけで見ればわりといい数字に落ち着いたことで、ファンの見る目も変わってきた。

あれ、もしかして藤浪がメジャーにアジャストしはじめているのでは?

私も藤浪の好調の兆しに喜びつつ、とはいえ期待が膨らめば膨らむほど手のひら返しの威力も上がってしまうので、どこかで爆発大炎上して「これだから藤浪は」という風潮になりませんように、と勝手に心配をしていた。

何をしてもどんな状況でも心配は尽きることなく、登板後の結果を見るたびに安堵とともに新しい心配が生まれるのだけど、そんななかで藤浪が久しぶりにストーリーをアップしていた。

アスレチックス公式がアップした写真に「誰が濃紺(ノーコン)や!!」とコメントをつけてシェアしている投稿だった。

この投稿を見た瞬間、

「おい私の心配を返せや!!!!!!!!!!!!!!!」

という気持ちになったのはいうまでもない。

藤浪晋太郎、こちらが拍子抜けするほど底抜けに明るい男である。

もちろんこの投稿も、ある程度成績が上向いてきたからこそのもので、5月頃は本人もとてもしんどい思いをしていたと思う。でもその苦しさを見せることなく、メディアの前ではあくまで強気の姿勢を崩さず、結果を出した上で明るくおどけて見せる。この藤浪の姿勢に、私はずいぶん救われている。

頼まれてもいないのに勝手に心配し、辛いんじゃないか、苦しいんじゃないかと気を回してしまう私にとって、そんな心配などどこ吹く風とばかりに明るくいてくれる藤浪の姿を見ていると「この人は何があっても大丈夫」と安心できる。これからもことあるごとにファンレターを送ることに変わりはないだろうけど、必要以上にハラハラするのではなくて、「あなたはきっと大丈夫」という信頼のうえで、どっしりと構えて応援ができる。

藤浪は、すごくすごく強いひと。投手としての能力や技術以上に、人間としての彼の強さを、私は何よりも信頼している。

***

以前、野球好きの友人と「もしピッチャーと結婚したとして、打たれて帰ってきた夫にどう声をかけるか」という話題で盛り上がったことがある。この最適解は人によって、関係性によって違うだろうけど、私は前述のとおり大変に心配性なので、必要以上に気を回してしまいそうな気がする。

けれど、藤浪の「誰がノーコンや」投稿を見たときに、「この人には声の掛け方とか気を使わなくても、自己解決できるタイプだろうから安心だな」と思った。よくもわるくも周りの人に左右されたりしない、それが藤浪晋太郎である。

そんな藤浪は、7月にアスレチックスからトレードによってオリオールズへと移籍した。オリオールズは地区優勝争いをしているチームで、移籍早々に大事な場面で中継ぎとして起用されるなど、メジャー選手として少しずつ信頼を重ねている。

ここから終盤に向けて、また気絶しそうなほどボコボコに打たれて叩かれる日もあるかもしれないけれど、それでも下を向かない、自信が揺らがない藤浪の強さと明るさが、私の心をすくう。

移籍一年目の優勝を目指して、がんばれノーコン!!!!!

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