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化粧品が洋服よりも根強く売れる理由

少し前に出た「化粧品、婦人服上回る 17年世帯支出が逆転へ」というニュースを友人に教えてもらってから、このニュースについて私なりにあれこれ考えを巡らせてきました。

総務省が発表した家計調査によれば、1990年には63,500円だった婦人服の年間支出額は、2017年にはなんと26,803円まで減少。

対して、化粧品は1990年からずっと28,000円〜3万円を維持し続け、2017年にはバブル期より下がったとはいえ26,806円と踏みとどまり、僅差ながら洋服の支出を上回る結果となりました。

この2つのグラフを見比べてみると、冗談かと思うくらい右肩下がりの洋服に比べ、堅調な推移を見せる化粧品というコントラストがはっきりとわかります。

では、なぜこの差が生まれたのか。
ここから読み取れる洋服・化粧品の未来とはなにか。

1週間ちょっとの間考えてみた結果を、書き記しておきたいと思います。

そもそも、今回の調査を見て思ったのは、「洋服がダメだ」というより「化粧品がすごすぎる」ということ。

1人あたりの所得は確実に下がっているし、何より今の若い世代は物欲が薄いと言われます。

将来への不安も大きいため、使うよりも貯金しておきたい。
そういうマインドが日本の消費を冷え込ませている原因でもあります。

しかし、「若者の◯◯離れ」というテンプレが世に出て久しいにも関わらず、そう言えば不思議と「化粧品離れ」だけは聞いたことがないように思います。

日本百貨店協会の月次売上高でも婦人服・洋品は8月まで22カ月連続で前年割れ。その後もプラスとマイナスを行ったり来たりしている。化粧品は11月まで32カ月連続で前年実績を上回った

実際、百貨店のコスメカウンターはどこも人で溢れていて、イセタンミラーも好調だという話を聞いていると、化粧品という分野自体に何か強みがあるのではないか?という気がしています。

洋服の支出額が大幅に下がっているのは、ファストファッションの台頭により、安くファッションを楽しむことができるようになったことも要因のひとつに上げられますが、化粧品はそうした価格破壊者がほとんど現れていません。

昔からあるCANMAKEやちふれといったドラッグストアコスメや、うるるんパック、モテマスカラといった新ブランドがデパートコスメの需要をある程度食ったところはあるでしょうが、洋服でいうユニクロ、GU、H&Mなどのような立ち位置のブランドはなく、1990年から客単価自体が大きく変わっていない可能性が高いと思っています。(そこまで調べる時間がなかったのと、細かいことをいうと物価指数とかまで見ないといけないのであくまで感覚値です)

この理由のひとつはおそらく、化粧品には洋服よりも強く「安心感」を求める傾向があることがあげられるでしょう。

通常の半額のセーターやジーンズがでてきたら飛びつく人が多くても、通常の半額のファンデーションや化粧水は品質への信頼がおけず、手に取る人が減ります。

こうした人の心理によって、化粧品業界は全体的に1人あたりの購買単価をそう大きく下げることなく、売上を確保してこれたのではないかと思うのです。

つまり、今後化粧品界のユニクロがでてくる可能性は低く、人が「安心」を感じる価格帯もそう大きく変わらないため、洋服のように急激な売上の下落が起きることは少ないはず、というのが私の見立てです。

また、もうひとつの化粧品の特徴は、洋服に比べて圧倒的に単価が安いということです。

洋服の場合、高価格帯は青天井で、百貨店で扱われているようなブランドは1着5〜10万円することもザラ。

さらにラグジュアリーブランドのバッグやお財布などの革小物になれば、10万円ではとても足りません。

しかし、コスメであれば同じブランドでも1万円前後で購入することができます。

以前「Diorをコスメブランドだと思っていた大学生の子がいて」という笑い話を聞いたことがありますが、Diorの洋服を見たことはなかったとしても、ほとんどの人はコスメカウンターでDiorの化粧品を見たことはあるはず。

コスメは、手っ取り早く憧れのブランドを生活に取り入れることができるエントリーモデルでもあるのです。

どれだけ年収が減っても、人はちょっとした贅沢の楽しみをなくすことはありません。

だからこそ、多くの女性は、ファッションは全身ユニクロだったとしても、Diorのアイシャドウやイヴ・サンローランのルージュ、CHANELのネイルカラーなどを通して「ちょっとした贅沢」を楽しんでいるのだと思います。

この「ちょっとした贅沢」は、ファッション業界も参考にすることで、業界を盛り上げていくヒントになるのではないでしょうか。

洋服への支出が今後またバブル期のような水準に戻ることはないとして、それでもこれまで受け継がれてきたファッションの美的感覚を次世代に受け継いでいくためには、「ちょっとした贅沢」というかたちで敷居を下げることが重要だと私は思っています。

過去の実績や他業界と比較して「だからダメだ」と言うのは簡単です。

しかし、具体的に問題点や解決策を考えて実行しなければ、永遠に問題は解決できません。

私の今回の見立てはきちんと数字を洗ったわけではないのであくまで個人の仮説ですが、こうした仮説をもとに数字を見て裏付けし、実行に移すための何かしらの参考になれば幸いです。

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今回ピックしたのは「CHANELが、店舗をアップデートすることを目的としてFarfetchと契約を締結」という話題です。

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