見出し画像

「いい指標」がもたらすもの

先日「東京どこに住む? 住所格差と人生格差」を読み返していて、"センシュアス度"という指標の完成度の高さに改めて感嘆しました。

センシュアスとは直訳すると官能という意味で、HOME'S総研が独自に作成した街の評価方法です。

これまでは主観的な「住みたい街」というざっくりした指標や、統計情報のみを用いた客観的なデータがメインとなっており、人気の街とは具体的に何があるまちを指すのか?という点は明示されてきませんでした。

吉祥寺や恵比寿が人気なのはなんとなくわかるけれど、それぞれのまちのなにに惹かれて人が集まるのか?という点はそれぞれの主観的な考察によってのみ議論されていたのです。

そんな中でこのセンシュアス度のなにがすごいかというと、"いいまち"の構成要素を独自に作成し、さらにその項目を具体的な行動にまで落とし込んで調査した点です。

ちなみにセンシュアス度の構成要素は下記の8つ。
どれも現代の価値観にあった、思わず「そうだなあ」と唸らせる項目です。

1.共同体に帰属している
2.匿名性がある
3.ロマンスがある
4.機会がある
5.食文化が豊か
6.街を感じる
7.自然を感じる
8.歩ける

ここからさらに、例えば1.の「共同体に帰属している」であれば「馴染みの飲み屋で店主や常連客と盛り上がった」、「買い物途中で店の人や他の客と会話を楽しんだ」という具体的な行動が示され、それぞれに「ほぼなかった」から「しょっちゅうあった」まで4段階で評価する、といったかたちになっています。

2015年3月調査分の総合ランキングでは1位が東京都文京区、2位が大阪市北区、3位が東京都武蔵野市となっています。

さらにカテゴリごとに細分化してみると「食文化が豊か」は金沢・那覇・山形と地方都市が並んでいたり、「匿名性がある」は意外と東京よりも大阪の方が高かったりと非常に興味深い結果が出ています。

このあたりを深く考察していくと専門的な話になってしまうので、それはそれで近いうちにSHOPCOUNTER Libraryの方で考察記事を書きたいと思います。(と、宣言しないと書かないので。笑)

で、このセンシュアス度を見て強く感じたのは

"いい指標は人を動かす"

ということ。

センシュアス度自体まだできてまもない考え方ですし、それぞれの自治体によっても賛否両論あるのではないかと思います。

でもこれまではただ「若い人が集まるまちにしよう!」「活気あるまちづくりを!」と掲げるだけで「で、そのためになにをしたらいいんだっけ?」という部分が抜け落ちていた活動に対して、具体的な方向性や施策を提案する素材になったというだけでも大きな功績である気がします。

人気がある街を視察してその表面だけ真似しても、ほとんどの場合はうまくいきません。

それはまちづくりだけではなく企業も含め、組織すべてに共通することです。

だからこそみんながふんわり感じている「あそこっていいよね」の理由を細分化し、明文化し、数値化する存在が必要なんです。

このセンシュアス度ができたことで、自分たちの街が選ばれるためにまずどの指標をあげることに集中しようか?と考えるきっかけが与えられたのではないかと思います。

そして同じように、いい企業とはなにか、いい商品とはなにか、というふんわりした価値観もいい指標を作ることで具体的なアクションに落とし込むことができるようになるはずです。

この「指標をつくる」というのはまさに人間らしい仕事で、どんなにAIが進化しても指標という枠をつくることは人間にしかできないのではないかと思います。

暗黙知というかたちのないカオスの中から、構成要素をひっぱりだしてきてい成形し、誰もがわかりやすいかたちに形式化するというのは創造性が求められる仕事だからです。

私たちも出店を後押しするサービスとして「売れる場所とはなにか?」という指標をつくるために、ひとつひとつのデータやその街の空気、世の中のトレンドを意識しつつ暗黙知を形式知化していきたいと思います。

(Photo by tomoko morishige)

サポートからコメントをいただくのがいちばんの励みです。いつもありがとうございます!